第54話『恋敵?に出会う地雷系』
[泉堂学園屋上 12:27]
「虎先輩ってホントに強いんですね~」
「別に~? んなこたぁねーよ」
当の本人は興味なさそうに、モムモムと菓子パンをほおばっている。
謙遜とかじゃなくて、心の底からそう思っているんだろうな……。
ちよちよも、ウチも苦笑いを浮かべながら、各々のお弁当箱をつついた。
ウチ達は新太さん+αに会うために、屋上に来ていた。
ドアを開けると、先週のようなヤンキーは、当たり前だけどいなくて、気だるげな先輩が一人でパンを食べていた。
虎先輩が言うには、新太さんはちょっと遅れてくる、とのこと。
『先に飯食って待ってよーぜ』という虎先輩の言葉に甘えて、ウチ達もお弁当タイムを始めていた。
「あの式神……可愛かったです!」
興奮した様子のちよちよ。
「あぁ……コイツ?」
いうが早く、虎先輩は片手で護符を取り出し―――――起動する。
すると、傍らにポフンという間抜けな音と共に姿を現したのは、つい先ほど序列戦で見た一匹の真っ白なウサギ。
「っ!!! すっごいモッフモフ~~~!!!」
「うわ……、可愛い……」
霊獣型の式神は結構あるけれど、実際の動物の形を踏襲している物はあまり多くはない。
ってか、ホントに可愛いんだけど。
さっき虎先輩がやっていたように、見よう見まねでウサギのアゴ下を撫でてみる。
すると、ウサギは気持ちよさそうに目を細め、「~~~~~~っ」とよく分からない鳴き声を上げた。
「どうしよう、この可愛い生き物……」
「私もこの式神使いたい……!!」
「愛でるためだけの式神もいいと思うぜ~」
欠伸交じりにそんなことを言う、虎先輩。
「でもさ、『白兎』ってピーキーな性能なんだよね」
……いつ屋上に来たのか、気付かなかった。
いつの間にか、ビニール袋を提げた新太さんがウチ達の後ろに立っていた。
「ごめん、遅くなった」
「購買混んでたのか~?」
「かなり、ね。
みんな序列戦観てるから、昼休憩になると一斉に混むんだ」
よいしょ、とウチの隣に腰を下ろす新太さん。
ち……、近っ……!!
……ヤバい。
完全に油断してた。
髪型とか、メイク崩れていないかな。
「……『結界』の式神、お前いつ練習してたんだ?」
「まぁ、ちょっちね~。できるだけ動きたくなくてさ~~」
どんだけめんどくさがりなの、この人。
そういえば、さっきも……。
「……虎先輩、さっきの序列戦中、一歩も歩いていないですよね?」
「おっ、さすが。よくお分かりで~」
ウチの方を見ながら、パチパチと手をたたく先輩。
動かずに戦闘を終わらせたいとか……、言うのは簡単。
それを実行できるだけの実力がないと、実現はもちろん不可能。
たくさんある式神の選択肢から『白兎』という式神を選び、術式や機構の解析を行う。
それを実践でどう使うかは、式神の術者に委ねられている。
「ホントに……、仕方ないなぁ……」
長い付き合いであるはずの新太さんも、どこか諦めがちに買ってきた菓子パンの封を開けた。
「―――――相変わらずね、虎」
不意に。
この場にいる誰のものでもない声が、辺りに響く。
―――――女の人の声……?
『っ!!』
虎先輩のウサちゃんが、耳をぴんと立てキョロキョロと辺りを見回した。
そして、やがて何かを見つけたかのように、ピョンピョン跳ねてどこかへと行ってしまう。
ウサギの向かった先……屋上入り口のドア。
そこに佇む、一人の女生徒。
「……!」
その姿を見たとき、ウチは―――――言葉を失った。
「これ、さっきの式神ね? ……ちょっと可愛いじゃない」
その女生徒の周りを、ウサギはクルクルと走り回っていた。
ウチは―――――その女生徒を知っていた。
いや、泉堂学園に所属している人なら、絶対に誰でも一度は見たことがあるし、聞いたことがある。
「……おう、久しぶりだな~、古賀ぁ」
「アンタも、元気そうじゃない?」
―――――泉堂学園二学年、序列第一位。
古賀、京香。
序列第一位は、長い綺麗な金髪を翻しながら、ツカツカとこちらへと近づいてくる。
「ちょっと、まゆりちゃん!! アレって……姫様だよね!!?」
「誰がどう見たってそうでしょ……! 一体どうしてこんなところに……!?」
ちよちよと、もはやヒソヒソ話と言えないヒソヒソ話を行う。
嘘……!!?
これって、現実……?
何で粗暴の塊みたいな虎先輩と話しているの!?
「あれ……、貴方達は?」
ウチ達の姿を見るなり、頭に疑問符を浮かべる姫様。
うわ、近くで見ると睫毛長っ! 足細っ!! すんごい綺麗じゃん、この人っ!!!
ってか、オーラがすごい。
もう、何かキラキラしたものが体から立ち上っている。
こんな、立っているだけで絵になる人って、いるんだ……!
「う……あぁ……! ひ、姫様……!?」
目の前の序列第一位は、ちよちよの言葉を聞き、眉間にしわを寄せた。
「姫様……?」
「あぁ、いいえ、違うんです……!
ウチ達一年生なんですけど、古賀京香先輩の事、かなりというか結構有名で……。
一年生内で「姫様」って呼ばれてるんですよね、はは……」
「ふぅん? ……貴方達一年生なんだ」
自分がどう呼ばれているのかは別にどうでもいいのか、姫様……もとい古賀京香先輩は、ウチ達の輪に加わった。
「……遅かったね、京香」
「手続きがめんどくさくて……。復学って書類一枚じゃダメなのね?」
―――――新太さんが、下の名前で、呼んでる!!?
いやいや、ナニコレ。
新太さん。
一体何で、序列第一位と仲良さそうなの……?
ってか、これって一体何の集まり!!?
「序列戦の登録も間に合わなかったし……。タイミングは最悪ね」
そう言いながら、古賀先輩は屋上柵下の段になっているところに座り、足を組んだ。
「ってことは……、お前もついに一位陥落かぁ~!? ほんのちょこっとやる気出てきたぜ……!」
「……殴るわよ、虎?」
「勘弁勘弁。
……いやぁ。
でもまぁ、そろそろちゃんと紹介しないとな」
「……そうだね」
虎先輩と新太さんはこちらに向き直り、口を開いた。
虎先輩と新太さんの関係―――――。
『でもまぁ……、厳密に言うと三人なんだけどな』と、先週虎先輩はウチ達に言った。
話を聞く限り、どうやらこの「古賀京香先輩」が三人目のようだった。
この三人は昔からの付き合いで、色々と一緒に行動していた……らしい。
……信じられないけど。
「ってことで、俺らは今でもたまに一緒につるんだりしてるってわけ~」
「付き合わされるって言った方が正しいかな……」
虎先輩と新太さんの説明に、うんうんと深く頷きながら聞いている
「次は……、貴方達の番ね」
「っ……!」
……一体、何て説明すれば?
ありのままを伝えるのが、多分筋なんだとは思うけど……。
新太さんが好きで、アプローチするために一緒にご飯食べてます!とか絶対に言えない……。
「どっちも一年。向かって左は、ちよちよ。右は来栖まゆり。コイツ、新太のことが好きで、多分今日もアプローチしに来てる」
ウチ「……」
ちよちよ「……」
新太さん「……」
古賀先輩「……」
虎「……あれ? 何この空気」
……全部。
言われた。
虎(敬称略)に全部。
全部、言われた。
いたたまれなくなり、ウチは思わずその場に俯く。
「あのさぁ……、虎」
古賀先輩は額に手を置き、静かに溜息をついた。
「……ごめんね、デリカシーない奴で」
「……いえ」
―――――もう知ってます。
虎がデリカシーのない××野郎ってこと。
「まぁ……、あの……さ。うん、頑張ってね……」
古賀先輩は憐みのこもった瞳で、ウチを見ていた。
ウチ、何で毎回毎回こんな思いしてるの……?




