第53話『カワイイは強い、を悟る地雷系』
ウサギを撫でいた手で、――――虎先輩はゆっくりと刀印を結んだ。
「っ……がっ……!!」
それと同時に、苦しみだす二年生の女子。
「な、何……?」
「これって……、発現事象……!?」
「う……あぁ……!!」
「コイツの真価は、結界の複数同時制御」
虎先輩は刀印を高く掲げ、そして――――。
前方、つまりは二年女子がいる方向へと向けた。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
響き渡る絶叫―――――。
当の本人は苦悶の表情を浮かべ、苦しみ方がドンドン酷くなっていく。
そして、ついには手に持っていた二本の刀剣すらも……床へと落としてしまった。
にわかに騒がしくなる修練場内。
……結界の複数同時制御。
虎先輩は、確かにそう言った。
ってことは……いくつか、結界を発動させている……?
二年女子の体の周囲に発生するプラズマ。
それは結界の接地面が存在していることを意味する。
この状況。
そしてこれまでに発生した事象から、仮説を導き出す。
「……あの人、やっぱり強いんだ」
「まゆりちゃん……?」
「あくまでも仮説だけど……。
防御手段であるはずの『結界』を攻撃に転じてる」
「……?」
「要するに、四つの結界をあの二年生の周囲に発動させて、その外殻で圧迫……しているんだと思う。……多分」
あの女の人は前後左右、四方向から同時に結界で押しつぶされている状態。
結界は術者の霊力に依存しない、という原則はあるけれど、今虎先輩が起動させているのは、式神。
結界強度を制御しているのは紛れもなく―――――虎先輩自身。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
……結界のこんな使い方。
ウチは見たことが……。
「棄権しないと、このまま潰れるぜ~?」
「あっ……かはっ……!!」
呼吸すらままならないほどの、圧迫。
あの二年女子に、この現状をひっくり返せる手段があるとは……到底思えない。
……二本の刀剣も、もう護符に戻っちゃってるし。
「これは……」
「勝負アリ……かな」
徐々に力が抜けていく二年女子の体。
その様子に審判も実行不可能と判断したのか、『止め!!!』とマイク越しに試合の中断を宣告した。
転瞬。
その場に崩れ落ちる―――――二年女子の体。
苦しそうに何度も呼吸を繰り返している傍に、二、三人の先生が駆け寄っていく。
「よーし、戻れ」
虎先輩はその様を見届けて、肩に乗ったウサギの式神を解除した。
静かに消えてゆく、真っ白なウサギ―――――。
「新太さんの話、大げさじゃなかったね」
「……うん」
―――――そこでウチは、とある一つの事実に気付く。
それは闘った相手の女の人には、酷く残酷な現実だった。
「……一歩も動いていない」
「え?」
「虎先輩、その場から一歩も動いていないんだよ。
最初から……最後まで」
序列戦が始まり、決着がつくその瞬間まで。
虎先輩は攻撃を回避するどころか、移動すらしていない。
「……」
「さーてと、飯飯~~」
修練場を後にする気だるげな姿を、ウチとちよちよは言葉を失いながら見ていた。




