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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第51話『夕暮れに染まる15F』





 陽は当に落ち、俺らがいる廊下も少しずつその明度を落とす―――――。

 支部長室を後にした俺と父さんは、廊下をゆっくりと歩きながらポツポツと言葉を交わしていた。


「……新しい支部長は、なかなかのものだな」


 ため息交じりに、そう呟く父さん。

 佐伯支部長。

 かなりの年の差があるはずの父さん相手に、全く忖度すること無いあの態度。

 組織のおさとして信頼できるかどうかは、まだ分からない。

 が、合理的な判断を下す人物であることは、今回の来訪を以て理解していた。


「『至聖』、まさか自分がそのポジションに就くことになるとはな……」


「……」






 ―――――数日前、佐伯支部長から公示された清桜会の再編計画。

 新都大霊災で清桜会は多くの死者、そして―――――を出した。

 家柄など関係なく誰でも陰陽師になれる時代になったとは言え、一職業として背負うものが多すぎる。

 その事実に気付いた者から、気付いて()()()()者から清桜会を去って行った。

 多くの民間人と仲間の死を目の当たりにした―――――、それは辞める理由にしては十分すぎるものだろう。


 それにより、構成人員が少なくなった清桜会は部隊制を撤廃。

 陰陽師の実力による「(くらい)制」を開始した。


「第壱」

「第弐」

「第参」

「上位」

一廉(ひとかど)

至聖(しせい)


 清桜会所属の陰陽師は実力次第で、上記の位に振り分けられた。

 霊災以前は「甲」「乙」の二種類しか区別されていなかった悪霊も、


「第一」

「第二」

「第三」

「第四」

「第五」


 上記の五種類にまで細分化。

 陰陽師と悪霊の等級を対応させるという方策で、陰陽師側の犠牲を最小限にしようとする佐伯支部長の理念を感じる。

 これまでとは異なって、陰陽師の行動範囲が部隊に依存しない。

 現場ではより柔軟な、臨機応変な陰陽師の対応が期待されているのは言うまでもない。

 位が上の陰陽師への負担増加も懸念されているが……、それは実際に行なってみないと分からないだろう。


 新都支部を中心とした、あくまでも実験的な体制―――――。





「俺はとにかく、現場にさえ出してくれれば文句は無い」


「父さんは……、そうだろうね」


 安全な場所で指示を出しているだけの父さん、というのも全く想像できない。


 エレベーターに差し掛かり、俺は階下へのタッチパネルに触れた。




「そう言えば……久しいな、新太」


「……そうだね。確かに」


 父さんの言うように、俺の記憶の上では霊災の数日前。

 多分、実家の道場で最後に会った。

 あの日を最後に父さんとは、言葉を交わすどころか、その姿を見ることすら叶わなかった。


「霊災から、ずっと北区にいるって聞いてた」


「北は特に陰陽師の数が、……いや、それは今の新都ならどこでも同じか」


 自嘲気味に笑う父さん。

 その表情には疲れの色が、滲んでいた。


 あの日から、父さんは事後処理に追われていた。

 先生が造りだした地場を狂わせる祭壇。

 儀式の中心である原因を撤去しても尚、その影響は未だに続いている。

 継続的に狂わされた新都の地場は連日異常値を叩きだし、それによって現界する悪霊もまた後を絶たない。


「今日もこれからまた出撃?」


「……当たり前だ。俺だけ休んではいられない」


「……そうだね」


「……」


「……」






 それ以降、しばしの静寂が辺りを支配する。

 ただお互いの歩く音だけが、廊下に響いていた。


 ―――――何を話せば良いんだろう。

 それはきっと、()()()()をなんだろうけど。

 先ほど、支部長室に父さんが入ってきたとき、一番最初に頭の中に浮かんだこと。

 それは、あの霊災の日。

 俺の過去を語った、支倉支部長の姿だった。

 あの時は、ただ一方的に支部長の話を聞いただけ。

 その正誤に関して、当時俺は考える余裕がなかった。




『……監視を買って出たのは、当時清桜会への協力の姿勢を示した名門の当主だった。

 ……「古賀宗一郎」』




 俺の過去―――――。

 十二天将を抱えて現れた俺自身への、清桜会の対応。

 それは陰陽師の名門「古賀」の当主による直々の監視。

 それを父さんに聞いて良いものか、そもそも話題に出してもいいことなのか、俺には分からなかった。



「……先日、秋人に会った」


「……!」


 しかし。

 そんな俺の不安をよそに、父さんから唐突に語られたのは、まさしく俺が今源氏進行形で考えていた内容だった。


「謝られたよ。本人に過去のことを伝えてしまった、と」


「……」


「―――――アイツに非はない。

 いつか言えるときに俺の口から伝えるつもりだった。

 ……そんな時が来なければいい、と何度思ったことか」


 父さんのその口ぶりから、支部長の言っていた内容は、はやり真実だったことを悟る。


「いつしか監視対象では無く、本当の息子のように接してしまった。

 ……思ってしまった。それについて俺に後悔はない」


「……父さん」


 その歩みを止め、父さんはその場で腕を組んだ。

 そして、父さんの瞳と真っ直ぐに交錯する視線。



「新太、お前は俺の息子だ」



 その言葉が、嘘偽りの類いでないことは、俺が一番分かっていた。


「先の霊災、よくやった。

 ()()()、お前を誇りに思う」


「っ……」


 ―――――俺は少しでも、この偉大な父親に近づけたのだろうか。

 こみ上げてくるものを必死に我慢しながら、俺はそれを誤魔化すように、言葉を紡いだ。


「……そう言えば、来週から復帰するよ。京香」


「そうか……」


 京香の話題になった途端、顔をしかめるのは父さんが通常運転である証。

 父さんも入院中に何回か京香に面会に行っているはずだから、ある程度様子は分かっているとは思うけど……。


「まぁ、達者で頑張れと伝えてくれ」


「……自分で伝えればいいのに」


 転瞬、目の前の扉が開く。

 エレベーターが、到着したようだった。


「アイツはうるさくてな……」


「いつものことだろ?」


「いや、大体……」


 何気ない会話をしながら、俺と父さんはエレベーターに乗り込む。

 ほんの少しとは言え、父さんに会えて、言葉を交わせて本当に良かったと、そう思った。




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