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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第49話『新たな長』


[5月31日(金) 清桜会新都支部15F 18:18]




 目的の階への到着を告げる、エレベーターの音。

 それと同時に、俺はゆっくりと視線を前方に戻した。

 新都支部に来るのは、―――――()()以来だった。

 清桜会の端末に俺宛の召集命令が下ったのはつい先ほど、およそ二時間前。

 ただでさえ、帰宅時間に足を突っ込んでいる時間だったのと、霊災の影響で電車がその本数をかなり減らしていたのが痛い―――――。

 満員電車の中を押し合いへし合い何とか中央区まで移動し、結局定刻ギリギリになってしまった。


「……」


 コツコツと廊下を歩く音だけが、辺りに反響している。

 俺以外、誰もいないのか……?

 霊災で新都支部(ここ)も手酷い打撃を受けたのは記憶に新しい。

 現に北斗宮のあった17Fは改修作業が行われているらしいが……。

 時間も時間なのか、工事の音も聞こえてこない。


 一カ月前の記憶を頼りにたどりついたのは、―――――「支部長室」と書かれた重厚な木の扉の前。

 俺は軽く息を吸って、そして吐き……その扉を、ゆっくりとノックした。



 ―――――すると。


「……どうぞ」


 中から聞こえてくるのは、女性の声。

 不意に頭をよぎったのは、羽織を着た長身のメガネ姿。

 ……はもう、ここにはいないんだ。

 中から聞こえた声で、否が応でもその事実を実感してしまった。


「……失礼します」


 軋むドアを開けて、俺は中に入る。


「……!」


 ここに来るのは、二回目だった。

 高級そうな絨毯、様々な文献が所狭しと並べられた本棚。

 ベルベット生地の対面ソファと黒光りするテーブル―――――。

 部屋の中は土足で歩くのに申し訳なさを感じるほど高級そうな絨毯が敷き詰められ、壁の本棚には何の文献なのか、古い背表紙の本が所狭しと並べられている。

 中央にはベルベット生地の対面ソファと黒光りするテーブル。

 そして―――――、一面のガラス張りの窓から差し込む夕日。


 全部、あの時と同じ光景。

 しかし唯一違うのは、支部長とかかれたデスクに座っている


 奥の木のデスクに腰掛けているのは、()


「貴方が……宮本新太、ですね」


 歳は大体20代後半くらいだろうか。

 遠目からでも分かるほど、真っ白な肌に真っ白な長髪。

 言うならば、それは異常なほどに―――――。

 失礼とも思いながら、俺はしばしの間、見とれてしまっていた。


「……驚きましたか? ()()()()なんです」


 そう言いながら、静かに微笑む女性。

 ―――――アルビノ。

 先天的に色素が薄い……人のこと、だったような気がする。

 俺のような反応はもはや慣れているのか、はたまたそれ以上話を広げる気が無いのか、目の前の女性は「ところで……」と言葉を紡ぐ。


()()、招集をかけたのですが……」


 転瞬。

 先ほど俺が入ってきたドアが、コッコッと叩かれた。


「丁度来たようですね。……どうぞ」


 一拍遅れて、重厚な木の扉が軋んだ。


「いやいや、遅れて……申し訳ない。道が思うように進まなくて……」


 部屋の中へと入ってきた、着物を着た()

 それは、俺にとって縁もゆかりも、どちらもある―――――。


「……父さん?」


「新太……? 何でお前がここに……」


 その様子を見て、目の前の女性は静かに口の端で笑ったようだった。


「……では、第八部隊部隊長古賀宗一郎、泉堂学園二年宮本新太、両名の現着を確認しました。

 これより連絡事項を伝えます」


「あっ……、はい」


「……」


 なぜ俺らが呼ばれたのか……、それは恐らくこの新しい支部長が話をしてくれるのだろう。

 俺と父さんは横に並び、女性へと改めて向き直った。


「まず……、新しい支部長に就任した佐伯(さえき)と申します。

 以後お見知り置きを」


 俺は軽く頭を下げ、それに応えた。

 佐伯支部長―――――。

 その噂は、就任時から各方面から様々な噂が聞こえてきていた。

 清桜会東京本部から派遣されてきた陰陽師であること。

 現代陰陽道成立の()から清桜会を支えてきた人物であること。

 そして……、清桜会を抜本的な改革を推進する、いわゆる「急進派」であると言うこと―――――。


「……清桜会の信用は、先の霊災で地に落ちました。

 所属陰陽師の不祥事……、いや、もう不祥事なんて()では片付けられないほどの大きな人災。

 現場の状況を何も知らない文官からは、組織としての解体を迫る声も出ています」


「「……」」


 悪霊に特化した治安維持機構である「清桜会」が一般市民を危険にさらし……、あまつさえ、大勢の命が奪われたとなっては、組織そのものの在り方自体が見直されるだろう。


「……しかし、悪霊は日々出現している。

 故に、我々はその役目を降りるわけにはいきません」


 清桜会が国営であるがためのジレンマ。

 組織としての信頼は薄い中、あくまでも決められた責務は果たさなければならないということに他ならない。

 ビルとビルの間から見える沈みかけの夕陽が、佐伯支部長に影を落とす―――――。





「率直に言います。

 ……我々には、『力』が必要です」


「『力』……?」


「悪しき道に足を踏み入れた仲間を、正しく罰する……『力』。

 醜悪で強剛な悪霊にも決して臆することない……『力』。

 ……世間の無知な有象無象をも、黙らす圧倒的な……『力』。


 今の清桜会に必要なものは()()()であると、私は考えています」


「……少し、極論過ぎる気がしますな」


 それまでずっと黙って佐伯支部長の話を聞いていた父さんが、口を開いた。


「支部長の口ぶりだと、組織としての繋がりを強めることよりも、「個」としての力を重要視しているように感じます。」


「……」


「個人が『力』を持てば、先の霊災の首謀者のようになるかもしれません。

 あれは、間違いなく個々人が持ちうる『力』の範疇を超えていた―――――。

 支部長のお言葉を否定するようで申し訳ないが、……貴方が考えていることは、第二第三の服部楓を生み出しかねません」


「……否定はしません」


「ならばっ……!」







「……

 これが何の数か、お分かりですか?」


「……は?」





「先の霊災で、()()()()の数です」



「「……!!!」」


「清桜会からも、多くの貴い犠牲が出ました。

 国防装置としての『陰陽師』がもう少し機能していれば、結果はまた、違ったかもしれません」


「それは……」





「今私が行い始めていることは、凡庸な『多』より、()』を生み出すこと―――――。

 ……『力』があれば、人命を救えます」


「ぐっ……!」


 ―――――人を救える。

 それは、父さんを黙らすには最適解の文言だった。




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