第48話『地雷系』
[南区泉堂学園前上総町 18:23]
「うわあああああああああ~~~~~~~」
嘘みたい嘘みたい嘘みたい!!!
スマホの画面には、連絡先の欄に「宮本新太」の文字が……!!
夢じゃないかと何度も何度も見てみるけど、やっぱり現実……!!!
「良かったねぇ、まゆりちゃん」
「ちよちよのおかげだよ……!
ウチに連絡先を聞くっていう発想は無かった……!!」
脇腹をつつかれたときはちょっと嫌だったけど……本当に感謝しかない!
でも、ちょっと待ってコレ。
えー、どうしよう。
連絡先は手に入れたものの……。
「一番最初に何て連絡しよう……!」
「無難に自己紹介とかいいんじゃない?」
「まぁ、それもそうだね……!」
あーでもない、こーでもないと、ちよちよと二人で作戦会議をするのは本当に楽しくてついつい時間を忘れてしまう。
「でもさぁ……、まゆりちゃん」
「……ん? なに??」
話がひと段落した時だった。
唐突に、いつになく神妙な面持ちのちよちよ。
その目は真っ直ぐにウチを捉えている。
「ホントに、――――――アレでよかったの……?」
「……? アレって……?」
「昼間の告白……」
「……」
多分それは、虎先輩も言ってたこと――――――。
『……本当にさっきの答えでいいのかってこと』
頭の中で、虎先輩の声が反響する。
きっと、あの人は分かっている。
ウチの気持ちを。
理由はないけど、女のカン、かな。
――――――勢いとは言え、新太さんに告白をした。
そして、昼間は、新太さんにあんなことを言ってしまった……。
でも、仕方ないじゃん。
あの時は、ああ言うしか他に無かったんだもん……。
『なので……その、付き合いたいとか、告白の返事をもらいたいとかじゃなくって。
何て言うんだろ……、「推し」……?
……そ、そう!!
新太さんは、ウチの「推し」なんです!!!』
―――――推しじゃ、ない。
そんな陳腐な言葉じゃ言い表せない。
新太さんと、付き合いたい。
一緒にいたい。
もっと至近距離で、言葉を交わし合いたい。
好き。
大好き。
「ホントは宮本先輩と、付き合いたいんでしょ?」
ちよちよの言葉に、コクンと頷く。
改めて言われると正直かなり恥ずかしいけど……。
それが、ウチの本心。
いや、ほんと。
だからこそ……。
「何でウチ、告っちゃったのかなぁ~~~~」
「私もビックリしたよ、あんなタイミングで」
「もう完全に頭がおかしくなってた。浮かれてたんだよ~……」
完全に今世紀最大の失敗。
でも、やっちゃったことは仕方がない。
ここからどうリカバリーするかが一番の問題……!
「……いったん『仲いい後輩ルート』かなぁ」
目いっぱい保険をかけたから、新太さんとの関係性はこれから作れば問題なし。
とりあえず、たくさん連絡してみよう。
「よし! 頑張るぞ!!」
「おー、頑張れー」
人気のない夕暮れの住宅街に、ただウチ達の声だけが響き渡っていた。
***
ちよちよと別れて、数分―――――。
ウチは家までの道のりを歩いていた。
陽はとっくに沈み、辺りは薄暗い。
さっさと帰って新太さんに連絡するぞ!と意気込んだ矢先だった。
「……はい、動かないでね~」
―――――どこかで聞いた声。
それと同時に後ろから、羽交い絞めにされ、首筋に当たる冷たい感覚。
多分、ナイフ。
抵抗することなく、ウチはそのまま引きずられるようにして、光源がほとんどない路地裏へと連れていかれる。
家と家の隙間を抜け、辿り着いたのは古びた工場の裏側、大きさにして十畳くらいの僅かな空間。
地面にはたくさんのタバコの吸い殻が散乱していて、周囲は工場の施設で囲まれている。
中からは現在進行形で、工場の機械が稼働している結構うるさめの音。
―――――なるほど。
助けを求めようと大声を出しても、工場の騒音で聞こえないし、そもそも建物の死角となっているから、バレにくい。
悪い事やるにはもってこいの場所ってわけ。
「よっしゃ、到着」
背後から聞こえる声と同時に、羽交い絞めにされていた全身が解放された。
後ろを見てみると。
「お昼ぶり~、地雷系女」
「ふひひっ」
昼間、屋上にいたヤンキー二人がそこに立っていた。
「昼間は、よくコケにしてくれたなぁ!」
昼間の一件の報復……か。
幸いだったのは、狙われたのがちよちよじゃなかった、ってところ。
「……別に、アンタらが弱かっただけでしょ。負け犬のストーカー風情が」
ウチの返答に、ヤンキーの片割れがこめかみに青筋を浮かべた。
「お前さ、状況分かってる……?」
「まぁ、いいじゃんいいじゃん。だからこそ、こっちを選んだんだ。顔もタイプだったしな」
下卑た笑みを浮かべるクソ野郎。
強気な女を、力で屈服させる―――――。
単細胞の猿が悦びそうなこと……。
「今から、俺らとちょっとキモチいいことしてくれれば、痛い思いせずに帰してやるよ」
「……」
「ウチ……、今日最高の気分だったんだよね」
「は……?」
「良かったじゃん。今から、もっと最高……に……」
「新太さんと話して、新太さんと一緒にご飯食べて、新太さんから名字を呼び捨てで呼んで貰えて、新太さんが笑いかけてくれて、新太さんと連絡先まで交換して、新太さんとこれからたくさん、たっくさん連絡して、何なら一緒にデートしたりとか、これからも一緒にご飯食べたりとか、一緒に学校生活過ごしたりして、そしていずれはどっちかの家で一緒に住んで、一緒に寝たり一緒に朝を迎えたり、恋愛映画見ながらキスしたりとか抱き合ったり、最終的には結婚して一緒に家選んだりとか、子どもの計画とかたてるんだろうなぁ……、ウチ的には二人欲しくて最初は女の子で次は男の子…………色々考えるだけでも、もう、最っ高!!!!!!」
「……は?」
「お前、何言ってんだ……?」
「それが、全部台無しだっつってんだよ」
「「……!!」」
これは、昼間の続き。
本当なら、新太さん達の助けなんて必要なかった。
ウチ一人で、こんな奴ら片付けるぐらい、余裕。
「責任とってよ」
制服の胸ポケットから、一枚の護符を取り出し。
そして。
『起動―――――』
***
路地を抜けると、もう日はとっぷりと暮れていて、空には星が瞬いていた。
「あー、スッキリしたぁ♪」
これで心置きなく帰れるな。
でも、マジで最悪。
あんなクソ共のせいでウチの可愛いカーディガン、ちょっと汚れちゃった。
血ってクリーニングで落ちるのかなぁ。
でもまぁ、いいや。
スッキリしたから、スッキリスッキリ!!!
「はぁ……新太さぁん」
「次はいつ、会えるかなぁ♡♡♡」
―――――数時間後。
私立泉堂学園に通う三年、鳥取隼人、田宮陸の親から警察宛に捜索願が出される。
翌朝、学園付近である上総町を捜索していた警官が、新都缶詰(株)の工場裏から二人を発見、近隣の病院に救急搬送された。
両名は全身に鈍器のような物で殴られた打撲痕があり、未だ集中治療室で治療を受けている。
医師曰く、発見が後数時間遅れていたら命が危なかったであろう怪我。
二人の意識は、未だ戻っていない―――――。




