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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第42話『やっぱり分かってない地雷系』



「何回も赤木先生言ってたじゃん」


「アイツの言うこととか……別に聞かなくてよくない?」


 中庭には多くの生徒の姿があった。

 今日は良い天気で、ピクニックがてらお弁当を広げている人たちも少なくない。

 ウチ達もその中の一員。

 お母さんが弁当を作り忘れたときには購買やカフェテラスを使うこともあるけれど、すんごく混むからあまり使いたくないのが本音。


「まゆりちゃんも参加資格あったのに……」


「……それよく分かんないんだけど。

 あっ、その卵焼きおいしそー」


「唐揚げとなら交換してもいいよ?」


「よし、のった!!」


 あんまりお行儀がよくないけど、ちよちよから箸渡しで卵焼きを一つ貰う。

 そしてそのまま口へ……。


「んん~~~、美味しい~~~!」


「それじゃ私も」


 ちよちよは私のお弁当箱から小さめの唐揚げを一つ取り、これまた小さな口へと放り込んだ。

 そして、ほっぺたを押さえ左右に軽く揺れる。


「おばさんの唐揚げ、相変わらず美味しい~~~」


「まぁ、確かに美味しいけど……さすがにウチは食べ飽きたかなー」


 ……お母さんには直接言えないけど。

「もう作んないからね!」とか言われかねない。


「~~~♪」


 もむもむと咀嚼をしているちよちよも、小動物みたいで可愛い。

 やがてゴクンと飲み込み、ふぅ……と一息ついている。


「……なんかさ、清桜会の支部長(うえ)の人辞めちゃったでしょ? 

 それで新しく支部長になった人が革新派の人でさ、すんごい色々なことを始めてるみたい」


「へぇ……」


「泉堂学園も一応清桜会と繋がっているから、その影響を受けてるんだって。

 赤木先生が言ってた『朱雀戦』もその一環」


 お弁当の残りの唐揚げを口に入れ、「ふぅん」と適当に返す。

 ちよちよには申し訳ないけどホントにあまり興味が無い。

 ウチ的にはそれなりの序列をキープするのが最優先事項。

 このを維持できるならウチは……何だってする。

 もしかしたら序列と何か関係があるのかもしれないけど……ウチ達まだ一年だし。


「『ランク戦』は分かる?」


「それはさすがに知ってるよ~」


 ―――――ランク戦。

 それは生徒同士の直接戦闘の勝敗で序列が決まる仕組み。

 三年生の序列は主にランク戦で決まる、らしい。

 入学するときのパンフレットに書いていったから知ってる。

 一、二年生はあまり馴染みがない制度。


「何かそれが大会形式で定期的に開催されるようになったんだって、一年に四回。

 しかも二、三年生は原則全員参加」


「それは大変だね~~」


 お弁当のラスト一口。

 ちょっと多めなご飯を箸で掴み、一気に食べる。


も変わっちゃうらしいよ」


「っ!!? ゴホッゴホッ!!」


 多めに食べたのが完全に仇になった。

 急いで水筒のお茶で流し込み、無理矢理飲み込む。


「はぁ……はぁ……!! それマジ!!?」


 ウチの序列を巻き込んだ完璧な計画が!!!

 頓挫しようとしている!!?


「うん……、序列制度自体は無くなりはしないんだけどね」






 ―――――ならばよし。

 焦って損した~~~。

 今の感情の振れ幅ヤバい。

 ってか、ちよちよも意地悪だなぁ。

 わざとウチが動揺する言い方してさ。



「―――――学年の垣根が無くなるみたい」


「学年の……?」


「多分……全校生徒二百四十人で競い合うってこと……なのかな?」


「……スケールが大きな話になってきたね」


 まぁ、でもウチとしては願ってもない話。

 二百四十人の中で序列を上げれば、それだけ発言権やら何やらが確保できる。

 ……多分。


「『朱雀戦』の後……かな? 新しい序列制度が始まるって言われてるよ」


「じゃあ、絶対参加した方がいいじゃん!!」


「赤木先生はそのことを言ってたんだよ? 

 一年生でも序列が上の生徒は、参加希望取られたと思うんだけど……」


「……ウチ、それ適当に断ったかも」


「ほら、もったいな~い!!」


 だって、ゴリラからの変な誘いなんて断る一択でしょ!!

 考える余地ないない!!

 そういえば、何か変な紙切れを渡されたような気もする。

 でもまさかそんな重要機密書類だったとは思わんやん!!?


「もしかしてウチ、やっちゃった……?」


 コクコクと激しく頷くちよちよ。

 うわ、マジかー……。

 後悔しても時すでに遅し。

 自分が悪いにしてもこれは……凹むなぁ。


「まぁ、とにかく……。その朱雀戦があと少しで始まるみたいだよ」


 ちよちよの目線の先には、せわしく中庭を駆けていく男女問わない生徒の姿。

 手首に巻いた腕時計を見ると、時刻は大体十二時四十五分。

 ……朱雀戦って何時から?

 一時?


「どこの修練場だっけ?」


「えっとね……、第二?だったかな」


「ちょっと待ってね、調べる」とちよちよはスマホを弄りはじめた。


「……学内ネット、でいいよね……と。

 ……うわ、すごい。最新の情報、全部朱雀戦についてのものだ」


「そんなに大々的なものなんだ」


「全部で十六ブロックあるみたい。

 リーグ形式で総当たり戦をして……ブロックの中で勝ち点の高い人三人が決勝トーナメントに進めるって」


「……なるほどね」


 ちよちよからスマホの画面を見せられる。

 それを覗き込んでみると、おおよそ今のちよちよの説明で間違いはない。



 泉堂学園『朱雀戦』―――――。

 学園所属の二、三年生約百六十人を十六ブロックに分け、一ブロック十人で総当たり戦を行う。

 各ブロック、勝ち点が高い上位三人を選抜し、総勢四十八人での決勝トーナメントを開催する。


「……今日から始まるのは、各ブロックの総当たり戦ってことね」


 ―――――だから皆こんなに浮足立っているんだ。

 中庭を横断する生徒の数が先ほどよりも格段に増えている。


「……で、どうする? ちよちよ。観に行く?」


 参加できないと分かり、ウチはすでにもうどうでもよくなっていた。

 でも、まぁ……暇つぶしぐらいにはなるのかもしれない。


「最初の試合ぐらいは観に行こうかなぁ……」


 スマホを操作し、組み合わせのページを観るちよちよ。


「えっとね……序列も載ってるよ。

 水野圭介、三年序列五十八位と……」


 とそこで、画面を見ていたちよちよが「えー、これほんと……?」と漏らす。


「……? どしたの??」


「……相手見てみてよ」


「……どれどれ」


 画面に写っているのは、今日の日付、開始時刻、そして第一ブロックという文字。

 三年生の水野圭介と……、うわ。


「……宮本新太、二年序列八十位」


 泉堂学園は一学年八十人、そんで学年における序列で八十番。

 それは何を意味するかというと―――――つまりは


「これは……かわいそうだね」


 何というか……言葉を選ばずに言うと、「見せ物」。

 三年生に一方的にいたぶられて終わりなんじゃないの……?






『おい、早くしろよ、間に合わねぇじゃん!!』


『大丈夫だって、どうせ見る価値もない試合だろ』


『……ちょっと楽しみじゃない!!? どんなに酷い試合になるんだろうね!!』


『最下位の人、式神出せないって噂あるよ……! 素手とかで闘うのかな』





 道行く生徒からと遠巻きに聞こえてくる声。

 そっか……。


 ()()()()()


 この盛り上がりの理由が、ちょっとでも分かったような気がする。


「ウチたちも行こ。『最下位』に興味あるし」


「あっ、ちょっと待ってまゆりちゃん! 私まだご飯残ってる!」


「急いで流し込んじゃって!! ほら早く早く!!」




 ―――――ほんのちょっとだけ、興味湧いたかも。

 結局ウチも、他の有象無象と同じ俗物なんだ。


 「ふふっ、二年の最下位……、どんな人なんだろ」







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