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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第一章 《序列最下位の陰陽師、英雄になる。》
33/226

第33話『災禍』



 2:21

 新都中央区如月(きさらぎ)町神尾通りにて爆発に伴う道路の陥没発生。

 付近に戦闘配備されていた第二、第四、第十五部隊が対象を視認。

 同時刻を以て清桜会第九部隊所属『服部楓』の陰陽師にかかる全権限を剥奪。

 上記『服部楓』を敵性勢力及び修祓対象と認定。









 重く、呼吸をするのも苦しくなるような密度の濃い冷たさを伴った霊力。

 新都全体に満ち満ちる邪悪な生体光子(バイオフォトン)―――――。

 異変を感じ取った陰陽師達は、皆一様にその現場へと急行していた。


 そして。

 向かったことを、すぐにすることになった。

 現場で行われていたのは、

 新都中央区如月町神尾通り前で発生した大爆発を皮切りに、商業ビルである神尾DEPALUが倒壊。

 対象は『』の事象発現を周囲へと用い、被害を拡大させた。

 業炎は現着した陰陽師達を飲み込み、その姿形から蒸発させてゆく。

 炎に耐えた術者も、対象本体から伸びる数多の腕に四肢をもがれ、―――――殺害された。


「嫌だ嫌だ嫌だああああああああああああああああ!!!!!!!」


「ああああああ熱いっ熱いっ!!! 消して、誰か消してくれええ!!!!!」


 現場では炎の爆ぜる音と、死んでゆく者達の断末魔が響き渡っていた。





 ***




「こんなの……どうすれば……」



 瓦礫をよじ登り、先生が開けた穴から出た俺を出迎えた光景。

 ―――――全てが、燃えていた。

 周囲の建築物も。

 陰陽師も。

 空気を振るわす大気も。

 全てが、皆一様に灰燼(かいじん)へとかえる。

 俺の足下には、瞳孔が開かれたまま死んでいる狩衣姿の男性。

 その両足を見ると膝より下が()、ドス黒い血液が流れ出ている。


 死んでいる。

 みんな、皆、しんでいる。



 しんでいる。



 万物が爆ぜ、火を吹き上げる中、俺はただその場に立ちすくんでいた。


 俺の手に握られた二枚の護符。


 一枚は、破れた『虎徹』。


 もう一枚は……『六合』。



 どちらも、役にたたない無用の長物。



 何が、陰陽師だ。


 何が、『人を助ける』だ。



 も守れない。


 俺には、誰にも守れない。




 無能。

 劣等生。

 落ちこぼれ。

 最下位。







 俺なんて、所詮その程度。




 立派なこころざしを持ったところで、努力も何も意味がなかったんだ。




































「……何突っ立ってんだよ」







 …………?






 燃え盛る炎の中。

 俺は、幻覚を見た。


 いつの間にか、俺のかたわらに、ポツンと立っている『狐』。

 狐の面が炎に照らされ、紅く輝いていた。




「……灯台下暗し。敵さんの本拠地はすぐ近くだったってわけだ」


 何で。


「派手に暴れてるな。アホみたいに莫大で冷たいいんの霊力」


 仁が。


「炎の式神……、と言うか、あの京香(おんな)式神(やつ)だろ?」


 ……仁。


「……いや違うな、術者の霊力が違う。ってことは……他に本命が居るな」


 ……。


「地場も臨界を越えてる。現界している悪霊もすげぇぞ」


 ……。


「……新太。聞こえてるか?」


 ……。


「……お前、泣いてんの……?」




「先生だったんだ……、京香を洗脳して、操って……、それで、京香自身も取り込まれた……」



 自然と拳に力が入る。

 こみ上げてくるものを押さえることができない。


「俺にはっ……何もできなかった。……何も!!! できなかったんだよ、仁!!」


「……」


「目の前で、京香が取り込まれていくのを、俺は、黙って……見ているしかできなかった……!! 」


「……」


「俺には……何も……できないんだよ!!!」


「……」


大切なものも、矜持も何もかも、俺は失った―――――。






「……じゃあそれ、なんだ?」


 無表情で俺の独白を聞いていた仁が、俺の両手を指さす。

 そこに握られているのは……紛れもなく式神。


「この状況を、()()()()()()()()()()()、お前式神(それ)を持ってんだろ?」


「……!」


「お前の本心は、まだ諦めていないってことだ」


 面をしている仁の表情から、その感情は読み取れない。

 しかし。

 いつも通り、仁は。

『狐』は、笑っている、と根拠もなくそう思った。



「……とりあえず状況を簡潔に説明しろ」





 ***




[4月24日(水) 11:27清桜会新都支部17F 北斗宮(ほくときゅう)



「恐らく、敵はを無力化してくる何かしらの手段を携えている」


 秋人が話しかけたのは目の前で佇んでいる『狐』こと黛仁。

 協力関係を結び、有事の際には清桜会本部で待機するように事前に打診していた。


「だから、()()()んだろ? そんなの分かってるよ」


 北斗宮の中には二人しかいない。

 この本部の中も、最小限の陰陽師の配置で人的リソースを抑えている。

 そして、戦闘配備に関してもつつがなく行われた。

 状況が状況であるが故に、各部隊長に現場での指揮権を完全委譲。

 ()の到着を待つだけとなっていた。


「僕らが同時に無力化されることがあったら、()()()()()()()動くつもりだ」


「……その心は?」


「僕への対策は、敵も余念なく行うはず。しかし、君は新都(ここ)に来たばかりだろう? 能力の全容も完全に明らかになっていない現状。無力化も恐らく完全なものではないだろう」


「……その言い方だと、まるで非常時には()()()()何とかしろって言ってるみたいだな」


「そう捉えて貰っても構わない」


「……はぁ?」


 至極真面目な表情でそう口にする清桜会支部長を、仁はあきれ顔で見やった。


「この状況を打破できるのは、『異分子』である君だ。……僕じゃない」


「……ずいぶん無責任な組織のトップだな」


「……僕もさすがに未知の手段には対抗できないんだ。申し訳ないね」




 ***





「と言うわけで、で、人造式神の解析が行われた。そんで出て来た」


 紅蓮の炎と舞い上がる黒煙の中を走りながら、互いの状況を報告し合う。


「さすがに同じ捕縛系の式神でも、術式の部分で微弱な変化を加えてたよ。

 ……あのメガネの方は未だ解析中」


「……そうなんだ。支部長がそんなことを……」


「俺に何とかしてほしいんだと。人任せもいいところだよな」


 その時の状況を思い出したのか、仁は「シシシ」と笑った。

 目線を再度前方に戻す。

 何か大きなモノがうごめき這いずったような、道路に真っ直ぐついた()

 その痕跡を追えば追うほど、禍々しい霊力が次第に増してゆくのを感じる。

 ―――――確実に近づいている。

 全ての元凶。

 服部楓。

 泉堂学園教師であり清桜会所属の陰陽師。

 新都を混乱に陥れ、罪の無い一般人を大量に虐殺した。

 京香を洗脳し、その身に吸収。

 そして未だ尚、その人の身に余る力で殺戮を続けている。


 辺りは業炎に包まれ、すすが舞い、四月の夜空を暗黒に染める。

 道に転がっている無残な姿の陰陽師達を横目に、俺達は走った。


 ―――――そして、その時は訪れた。



 大通りへの道、角を曲がった先に、()()はいた。






『……あぁ、宮本。来たのか。『狐』も』


 ()()()と目線が交錯する。

 その顔面も当に融解し、誰だか判別が付かない。

 肉塊の腹部には巨大な口が開き、屠ったと思われる陰陽師をぐちゃぐちゃと咀嚼しているのが見えた。

 もはや、それを「神」と呼んでいいのかも躊躇われる醜悪な見た目。


『ふふふっ……、みんな弱いな。新型(わたしたち)は、これほど脆弱だったのか』


「あんた、新太の学校で会った奴か。……随分と気持ち悪い姿になったようで」


『……お前らには分からんだろうな。

 ……素晴らしい。これが『成神』……』


「……成神?」


 成神という言葉を聞き、仁の顔色が陰る。

 訝しげに先生の姿を観察し、何やらブツブツと口の中で言葉を回し始める。


「そうか……、この周りの有様も……」


「仁……?」


『もはや、狐、お前にも止められない!! これが陰陽道の極致っ!!』


 転瞬。

 周りで燃焼を続けている炎の色が、()()


()炎……!!」


 コイツ、ついに完全燃焼まで……!


『死にたくなければ避けろ。

 ……()()()()、の話だがな』


 肉塊から飛び出ている腕が周囲へとかざされる。

 それと共に、爆発的に高まる霊力。

 呼応するかのように上昇する周囲の温度。

 俺は―――――知っている。

 ()()()



 このわざを。






燐火(りんか)』―――――。




 転瞬。

 倒壊した建物も、既に息絶えた陰陽師も、周囲に存在する可燃物を全てを飲み込み、巻き起こる蒼い炎の爆発。

 周辺一帯に衝撃波と、焼けるような熱風が走り抜け、一拍遅れて耳をつんざく轟音。

 それは逃げ遅れれば、確実にその命を燃やし尽くす葬送の炎。



 全てが、蒼く染まる―――――。








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