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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第一章 《序列最下位の陰陽師、英雄になる。》
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第23話『自分だけの正解』





「お前ら、やってくれたな……」


 目の前には見るからにご立腹と言った出で立ちの服部先生。

 その瞳は閉じられ、腕を組み、つま先をトントンと規則的に鳴らしている。


「修練場の無断使用。授業外での式神の起動。挙げ句の果てに怪我人を出すとは……。随分と偉くなったものだな? 宮本」


「……すいません」


 真崎達は既に医務室に運び込まれ、現在進行形で治療を受けている。

 しかし、さすがに手加減はしたとは言え、仁も紛う事なき「旧型」の陰陽師。

 一介の学生風情が、仁の一撃を受けて無事であるはずがない。

 最近、ずっと行動を共にしていたから分かる。

 入院……とはいかないまでも、全快にはそれなりに時間がかかるのではないだろうか。


「それに……『狐』」


 俺の後ろには、特に悪びれる様子もなく仁が佇んでいた。

 ただひたすらこの状況をめんどくさそうに、欠伸をしながら俺と先生を半目で見ている。


「君の存在はおおやけに認められたわけじゃない。清桜会の温情で一時的に不問扱いになっているだけだ」


「……」


 ハナから説教なんて聞く気が無いと、態度からそれが伝わってくるようだ。


「状況は分かっている。上堂達にけしかけられたのだろう? 

 しかし、……明らかに()()()()だ」


 先生は顔に手をやり、これ見よがしに大きな溜め息をつく。

 そりゃ、やりすぎ……だよな。

 脳裏に浮かぶのは、口から泡を吹き、顔をパンパンに腫らせ、完全にノびていた二人。

 それに加えて、修練場の中を見回すと壁や地面に窪みが生じていたり、たった二発の攻撃にしては目に見える傷跡が多く見受けられる。

 いくら使用頻度が低い修練場であっても、学園の施設の一部。

 修繕しないわけにはいかないだろう。

 正直、真崎達のことでそこまで罪悪感はなかったけど、先生の様子を見ていると、一抹の申し訳なさが出てくる。

 発生した事態の処理をするのはいつだって生徒を管理している者、つまりは先生自身に他ならない。


「狐……話を聞いているのか? 要は、()()()()()()、ということだ」


「へいへい」と仁は頭を掻きながら、欠伸を噛み殺している。

 明らかに舐め腐った態度―――――。

 そんな様子の仁を見て先生もやがて諦めたのか、俺に向き直った。


「今回の件は上層部(うえ)へとあげざるを得ない。おまえが絡んでいるならばな。

 ……お前らの処分についてはそれからだ」


「どうぞ、ご勝手に~」


「……もういい、行け」



 ……珍しい。

 先生が匙を投げるなんて。

 頭痛に耐えるかのようにこめかみを抑えている先生。

 俺の背後では、「んじゃ、さっきの食堂に行ってるぞー」と呑気に歩いていく仁。

 カフェテラスのことを言っているのだろうが、その姿には当事者意識のかけらもない。




「……宮本、奴の手綱はちゃんと握っておけ」


 仁が修練場のドアから出て行ったのを確認すると、先生は声のトーンを低くして呟いた。


「やはり『狐』は得体が知れない。奴が我々「新型」に危害を及ぼす敵性勢力とみなされれば、秋人……いや、失礼。支部長の対応も大きく変わるだろう」


「まぁ、宮本(おまえ)にどうにかできる相手ではないか……」と、先生はタバコに火をつける。


「……先生って、支部長とお知り合いなんですか?」


「……ただの同期さ」


 先生は煙を吐きながら、つまらなさそうにただ一言そう言った。

 先生の同期ということは、支部長も一期生、つまりは「新型」として世に出た最初の陰陽師ということになる。

 先日清桜会の本部を訪れた時も、同僚というよりはもっと親身な仲という印象を受けたけど……そうだったのか。


「だからって、それ以上でもそれ以下でもない。ともに研鑽を積み、苦汁をなめ、悪霊を祓うことに日々邁進した。……今の()()と一緒だよ」


「……」


 今の俺ら……か。

 日々、切磋琢磨し「新型」の陰陽師として大成する。

 それが俺らに求められていることだ。


「俺ら……「新型」って……、一体何なんでしょうか?」


「……」


「前に先生は言っていましたよね? 『陰陽師とは探求する者達のことだ』、って」


 いつか、教室での一件の際に先生が話していたこと。

 先ほどの仁の問いもあったのかもしれない。

 俺の中の根本的な価値観が大きく揺らいでいるのを感じていた。


「では……、「新型」の陰陽師は間違っているんですか?」


 すると、先生はチラリとこちらを一瞥し、もう短くなったタバコをくわえた。


「……今の日本では、悪霊滅殺、人類救済を掲げ陰陽師の養成が行われている。

 しかし、元をたどれば陰陽師とは『陰陽道を主体とした研究者のこと』を指す。

 悪霊退治が第一ではないんだよ」


「……」


「……しかし、旧型やら新型やら、色々なものが入り混じる昨今だ。前に教室で話したのは―――――『私の正解』」


 先生の……、正解。


「それ、をクラスの奴らには()()()だけにすぎん。

 ……お前も陰陽師志望なら、『自分の正解』を探してみろ」


 自分の正解……。

 それは、一般論じゃない。

 誰かの出した答えでもない。

 ―――――自分だけの正解。


「……何だか、難しそうですね」


「もちろん簡単ではないさ」


 あっけらかんとそう言いながら最後の一吸いをし、タバコを携帯灰皿に押し付ける。


「……そもそも、俺は陰陽師になれますか?」



「……とりあえずお前は『』だ。あれは基礎中の基礎。それができたら、次のステージってとこだな」



 二本目のタバコをくわえながら先生は踵を返し、修練場の出入り口の方へと歩みを進めていく。



「……頑張ります」



「古賀も言っていたが、コツは想像(イメージ)。体の奥底から霊力を呼び覚まし、一旦精神統一。

 その後、一気に式神に纏わせていく。

 ……お前の式神は刀剣型だったな。ならばより鋭く、だ。

 以上、講義終了」


 先生はこちらを振り向き、「ま、せいぜい頑張れ」と言い残して修練場から出て行った。


 後に残されたのは、―――――俺一人。





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