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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第六章《序列最下位の陰陽師は只一人、玉座に座る。》
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第213話『覚悟』



「……俺に頼み?」


 小首を傾げた龍太朗に対し、虎ノ介は頭をガシガシ掻きながら「……闘う力が欲しいんだよ」と言葉を紡ぐ。

 すると更に龍太朗は不思議な表情を浮かべ、顎に手を当て考え込む仕草をする。

 やがて何か得心がいったかのように深く頷いた。


「……厨二病?」


「っ……ちげぇよ!!!

 として、闘う力が欲しいんだよ!!」


 言葉を荒げた虎ノ介を一瞥し、龍太朗は「……あぁ、そうか」と呟く。


の話、聞いているだろ?

 近々『旧型』との大規模な戦闘がある。

 俺も清桜会として参加することにした」


 すると、龍太朗は意外そうな表情を浮かべ、「……お前が?」と虎ノ介の全身をジロジロと舐めるように見回す。


「戦力にもならないだろう?

 見たところ、『()()()()()()ようだけど」


「……」


 ――――そんなことは、分かっている。

 だから、こうして()()()()

 わざわざ上層部に掛け合って、パスキー手に入れてまでここまで来た。

 兄貴なら何とかしてくれるんじゃないかと。

 俺には考えもつかないことを提示してくれるのではないかと。

 ――――そんな希望を抱いた。


「……兄貴は、何でまだ()()()()()にいるんだよ。

 旧新都支部特A区画の連中は第二支部に移されたんだろ?」


 虎ノ介の脳裏に浮かぶのは、ここに来る前に通過した、既にもぬけの殻となっていた部屋の数々。


「……あぁ、()()ね」


 一転、めんどくさそうな表情で以て虎ノ介を一瞥し、そして欠伸を一つ。

 上へ向かって思い切り腕を伸ばすと、龍太朗の肩から気持ちよさそうな音が鳴った。


「……移動するの、めんどくさくてね。

 機材やら計器やら必要なモノは全部揃っている。

 尚且つ、ご飯もいつでも食べれるし……好きな時に寝れる」


「……」


 ――――めんどくさい。

 言ってしまえば、それはただのワガママでしかない。

 既に都市機能を失っている中央区(げんざいち)にわざわざインフラを残してまで、そして飯や風呂などかいがいしいまでに世話をしてまで、兄貴の言うことに従うが清桜会にはある。


「それよりも、『第三世代(サードステージ)』の調子はどうだ?

 『末那識』を搭載してから、大分時間が経ったはずだけど」


「……」


 ――――そう。

 清桜会は、自分達の都合で兄貴を閉じ込めておきながら、利用価値があると分かった途端、掌を返した。

 収監者であるはずの兄貴の身分に似つかわしくない、計器類これらがその証拠。

『旧型』や『妖』に対抗しうる可能性として、その存在を否定した『末那識』という概念に白羽の矢が当たった。

 かつて、非人道的と兄貴を非難した連中が、我が身可愛さに金を投入している様は、俺に目には酷く滑稽に映る。

 周りの連中は、本当に馬鹿だ。

 ――――俺は。

 俺だけは、()()()()()()


 兄貴が、いかに()であるかを――――。



「……第三世代(やつら)の大半は、伝説級のヤバい『妖』にやられた」


 龍太朗は表情を変えることなく、虎ノ介の言葉を聞き「そうか」とだけ返事を返す。

 そして、口の中で何やらモゴモゴと言葉を転がし始めた。


「魂の縮減制限は取っ払ってある、……その上での敗北と言うことは術者自身がかなり日和ったな」


「……誰も彼も、死ぬ覚悟ができているわけじゃねぇよ」


「それもそうだな」と龍太朗は静かに口角を上げ、そしてデスクへと頬杖をついた。


「――――で、だ」


「……」


「そんな(ことわり)の外側にいる連中に、では通用しない。

 であれば、――――()()()()だろう」


「……」


「『第三世代』やその他有象無象に搭載されているのは、『末那弐式』。

 魂を縮減し、その膨大な情報を全て()()()()

 ……でも、虎。

 ()()()

 お前に搭載されているのは……」


「――――『末那零式』、だろ?

 知ってるよ。

 魂の縮減で得られる情報の転化先を、()()()()()


 不意に目を見開き、意外そうな表情のまま、龍太朗は弟の姿を見やった。


「……覚えていたのか」


「……」


 ――――忘れるはずもない。

 兄貴が残してくれたモノを。


「ならば、話は早いな。

 歴史上において、人智を越える力を望んだ者はすべからく()へと帰着する」


 息を呑む音。

 それが自分自身のものであることに、虎ノ介は気付かなかった。


「――――〝()()


「……」


「『悪霊』、『怨霊』、『(あやかし)』……別に何でもいい。

 負の生体光子(バイオフォトン)より生まれ出ずる存在は、悉くを凌駕しうる」


「……()()()()との契約に、俺の『末那』を使うってことか?」


 龍太朗は首肯し、「知っての通り、()()()けど」と続きを紡ぐ。


「悪性を内包する霊力をその身に受け、心身共に無事であるはずがない。

 人間性の喪失、それに準じる……何か。 

 もちろん最悪、()ことだってあるだろう」


「……」


 所謂――――代償。

「人智を越える力」を手に入れようとしている者は、それと同等、あるいはそれ以上の対価を支払わなければならない。

 龍太朗が言うところは、その覚悟があってのことなのか、という確認に他ならない。 

 虎ノ介は一瞬の逡巡の後、静かにその口を開いた。





「――――ダチがいる」


「……」


「命懸けて闘ってんだ。

 まだ高校生なのに……、だぜ?」


 どこか諦観にも似たような笑みを浮かべ、虎ノ介は言葉を紡ぐ。


「誰か他の連中に任せて逃げればいいのに。

 負わなくてもいいもの、全部背負ってんだ」


 ――――我が強い友人を持つと本当に大変だ。

 説得が意味を成さない。

 古賀も、新太も、自分自身のことなんて全然顧みちゃいない。

 現清桜会の保有する戦力として、アイツらが卓越しているのは分かりきっている。

 ――――でも。

 常に前線で血を流し、食らいつき、何度も何度も死にそうな目に遭っておきながらも、前へ進むことを止めない。

 ただ、()()()だけに、力を行使する――――。



「――――俺だけ、立ち止まっている場合じゃねぇんだよ」



 ただ真っ直ぐ、虎ノ介は目の前に座る兄を見据え、そう呟いた。




 ***




 『狐』は、夢を見た。

 まだ幼い頃の記憶、その残滓――――。

 ()と、()を想いながら瞼を閉じたのが、そもそもの間違いだった。

 その過去が「最高最善」だったと呼べる類いものではないのは確か。

 しかし――――。


 ()()が、今の『狐』を造り上げたのは言うまでもない事実。


 微睡みの中目を覚ますと、既に陽は昇りきっていて、荒れた部屋の中を陽光が満たしていた。


 それを確認し、『狐』はもう一度目を閉じた。


 もう――――何も考えたくなかった。




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