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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第五章『驕り高ぶる陰陽師達、“王”を名乗る。』
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第201話『黑』





「っ――――」


 崩れ掛けのビルを出た、まゆりの前に広がる

 それは酷く現実離れした、ここが戦場と忘れてしまうような光景に、まゆりはただ息を呑む。


 炎上を続ける炎も。

 地面を濡らす、誰のモノとも分からない血痕に至るまで。

 何もかも――――。

 薄汚れた破壊の跡が、微粒子へと姿を変え―――――暖かな光を発しながら宙へと浮かび上がってゆく。

 それは、まるで満天の星空の下にいるかのような。


 そんな――――幻想的な光景。



 上空へと立ち上り、空を覆っていた白煙も次第にその量を減らし、一筋の光が差し込んでくる。


 ――――それは紛れもない、陽光。


 ドス黒い世界の中に現れる光。

 それが照らすのは、()

 光り輝く粒子をその身に集めて尚、その「黑」は明度を落とす――――。


「綺麗……」


 その神々しい光景から、まゆりは目を離すことができなかった。




 ***



 自身の周囲に積み上げられた瓦礫が、淡い光を放ち消滅してゆく様を、秋人は薄れてゆく意識の中で感じていた。


「っ……」


 ――――何が、起こって……。


 秋人は気力だけで身体を起こし、辛うじて動く右手を何とか這わせ、そのが見える位置まで、軋む全身を引きずるように移動する。


 そして。


 ぼんやりとした視界に飛び込んでくる――――「黑」。

 光を集めながらも尚、高まる「黑」の密度。


「……あら……た」


 遙か彼方にいる、「黑」を纏う少年。

 それが「」であることを、秋人は半ば直感的に理解した。


 ――――この、発現事象。

 この、


 新太の全身を包むのは、既に「霊力」と定義される類モノではない。

 あの玉藻(バケモノ)と同等の――――。


 ……いや、()()


 周囲の物質をし、自身の身体に馴染む霊力として分子レベルでの転化が、行われている――――。


「……新太」


 秋人は最後の力を振り絞り、自身の目の前に佇む少年へと笑みを向ける。



 ――――君が、奴を。






 ***



「……お前。

 彼のと同じ」


 玉藻は、心の底から溢れ出る笑みを押さえることができなかった。

 蔑み、見下し、馬鹿にしていた童が纏う、「黑」色の光――――。

 熾光(しこう)

 と同じ段階に、ただのヒトである陰陽師が()()

 その()()()()は、玉藻が久しく忘れていた感情を呼び覚ます。

 伝説の「三妖」、玉藻の前。

 自身と匹敵する濃密な熾光の奔流に、全身の神経が逆立つ感覚を味わう。

 そして――――。

 自身の充填しうる、をその身に宿す。


 呼応するかのように、鳴動する大地。

 衝撃波を伴う風圧が、質量の軽微なモノから彼方へと吹き飛ばす。

 生命力を極限まで(もや)し、昇華――――。


 それは紛れもなく、玉藻のに他ならない。


「……」


 その様子を一瞥し、新太は空いている左手を宙へかざした。


『……!』


 その左手に、集まってゆく――――熾光。

 そして。

 形作られる、()()




「――――『黑威(ごくい)、閃慧虎徹』」






 転瞬。

 玉藻の細い首を、黑の凶刃が撫でる。

 息のかかりそうなほどの至近距離に、いつの間にか肉迫していた(あらた)


『っ――――!』


 強引に身体を捻り、自身の躁演する数多の尾で牽制をしつつ回避。

 そのまま物理的に距離をとったのも束の間。

 ()()()に、玉藻はその呼吸を乱す。


 斬られ――――。


『っ……!!!!』


 不意に自身の身に生じる、違和感。

 それは玉藻の背後。


「……」


 振り向くと、そこには。

 黒刀を振り抜く、一人の少年。

 彼の剣線は熾光と共に揺らめく数多の尾の一つを、捉えていた。

 スローモーションのような、ゆっくりとした刻の流れの中で。

 毅然とした美しい毛並みを持つ尾が身体から離れ、霧散していく様を玉藻は凝視していた。


『っ――――小癪っ!!』


 ――――からの二撃。

 両の手に得物を握っている故に、手数も単純に倍――――。

 しかし。



『『三妖』を、舐めるなよ。

 ――――(わっぱ)



 ――――妾は、『玉藻の前』。

 遅れは、とらない。

 思考も、肉体も、その悉くを捨て置け。


『っ――――!』


 玉藻が委ねるのは、身体に備わりし

 熾光を纏わせた尾で黒刀を受け、周囲へ光の粒子が飛び散る。

 新太から発される殺気へと反応し、自身の身体を()()()()――――。


 そう。

 ()()のように――――。


 玉藻の脳裏に浮かぶのは、先の情景。

『北斗』、との一戦。



「っ――――」


 新太の黑い熾光が、その眼孔と共に揺れた。


『っ……!!』


 玉藻の背後、それすなわち、死角からの一撃。

 一太刀を受ける度に、微細な粒子が宙を舞う――――。

 その間に第二、第三の刃が玉藻に到達。

 連撃に次ぐ連撃。

 高速を越えた高速――――。

 呼吸の(いとま)すら与えることのない、熾光の輝き。

 目で追う暇などない、高速を越えた――――新太の『加速』は。


『伝説』に、肩を並べる。



『はっ……!!』


 ――――なんだ、これは。


『はははっ!!!』


 声を上げて笑うなんて、はしたない。

 美しくない。


 しかし――――。


 玉藻はこみ上げる笑みを、抑えることができなかった。

 ただ楽しくて、愉しくて、仕方がなかった。


 これが。

 ()()こそが。


 妾の求めていた――――。


『っ……!!』


 黒刀を弾き、新太の身体に生まれた僅かな

 それを歴戦の覇者である玉藻が、逃すはずがない。

 即座に新太の身体に鋭尾を叩き込み、追撃――――。


 体勢を立て直そうとした瞬間こそが――――好機。


「……っ」


 新太の顔面に迫る――――玉藻の尾。

 好敵手を殲滅せしめる玉藻の最大最高密度の熾光が、新太の瞳に映る。

 しかし。


 その尾が、新太の顔面を捉えることはなかった。



『……!!』


 頬を擦るようにして、新太の後ろへと抜ける玉藻の尾――――。


 ――――此奴、()()こともなく……!!


 新太の頬から滴った鮮血が滴る先――――それは、左手に握られた黒刀。

 時間にして刹那の流れの中で、玉藻は黒刀が()()()()のを見た。


 そして。


 左手に顕現する――――()



「『黑威(ごくい)、蛍丸』」



 転瞬。

 玉藻の全身を、()()()()()



『――――――!!』



 ――――。

 熱い。

 何故。

「炎」など、妾には……。


 自身の身体を取り囲む業火の最中、輝く黑色の微粒子――――。


 これは。



 ――――『()()()陰陽術。





『っ……!!!』


 玉藻の全身を包む、白銀の光。

『熾光』による陰陽術を、同じく『熾光』を以て制する。


『童……、お前の術など……』


 徐々にその勢いを衰えさせる焔。

 ――――しかし。


『っ……!!!』


 玉藻が全身を熾光を漲らせた瞬間。

 ――――先ほどの比でない、滅却の絶炎が全身を包み込んだ。


『っ……な、ぜ』


「――――今、『蛍丸』の発火指定対象は、お前のその『』」


 ――――光。

 つまり今、燃えているのは、()


 業炎の最中、眼前に佇む少年。

 その左手に握られた日本刀は、ただ朱い光を発し――――(あらた)の熾光と共に揺らめく。

 その真っ直ぐな瞳からは、未だ衰えぬ計り知れない固き意志の色――――。




 ――――()


 此奴は、一体――――。


『――――至上の、気分』


「……!」


『ふふっ……、はははっ、あはははははははははははっ!!!!!!』


 業火を身に纏い、嗤う一匹の妖狐。

 爛れた皮膚の最中、見え隠れする狂気をはらんだ瞳。

 苦悶に喘ぐわけでもなく、怒りに打ち震えるわけでもなし。

 ただ――――玉藻は自身の内から沸き上がる「愉悦」にその身を委ねる。


『良いっ!!

 良いぞ、ァっ!!!』


 玉藻へと収束を始める――――熾光。

 同時に。

『蛍丸』の発現事象により爆炎がその勢いを増すが、そんな事は気にも止めない。

 ただ、玉藻はこの状況をどこまでも愉しんでいた。


「……」


 眩いまでに収束を続ける玉藻の前の力を前に、新太は『蛍丸』の発現事象を

 熾光を集中させる玉藻のを理解し、眼前の妖狐同様に自身の熾光を肉体へと――――。


 新太の足下、同心円状に地面が抉れ、煌めく輝きとなって宙へ。

 崩壊しかけのビルも。

 破裂した水道管から溢れる、行き場を失った水の一滴に至るまで。

 輝く光が更にその光度を増し、そして、新太の前に集まってゆく――――。





 ***




 ――――新太さん。


 まゆりは両の手を胸の前で組み、目の前の偉容を視界に収めていた。


 人智を越えた、濃密で純粋なまでの『力』の塊が二つ。

 ()()には、近づくことも叶わない。

 ただのヒトであるまゆりは、静観していることが唯一できること。


「っ――――」


 意図せず、組む手に力が入る。


 ――――ウチができることは。

 ただ、祈ることだけ。


 まゆりは、今にもぶつかり合おうとしている『力』、その行方を――――想う。




 ***




『――――もう、いい?』


「……」


 今にも決壊しそうな『力』の奔流をその身に宿しながら、玉藻は静かに嗤う。

 玉藻の目の前に顕現せし――――月白の

 耳の劈くような異音を発しながら、周囲へとその『力』の一端が溢れ出す。

 その『力』に照らされ、触れた部分はその瞬間、「消滅」という結果へと至る。


 森羅万象。

 一切合切。

 その(ことわり)に抗える者など――――いない。




「……」


 ――――ただ、を除いて。


 新太は白銀に光り輝く日本刀を前へと突き出し、その切っ先へとさせた熾光。

 周囲の物質を分解、転化し、創り出す。

 全てを飲み込み、自身へと隷属させる〝王〟の力――――。





「『竜笛』〝破〟ノ段――――」



『っ――――』








「――――『黑』」







 神々しいまでの光と、万物を(とざ)す黑が――――今。




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