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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第五章『驕り高ぶる陰陽師達、“王”を名乗る。』
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第199話『宮本新太』



「――――っ」


 ――――まゆりの言葉が、染みこんでいく。

 それはまるで、温かい陽だまりの中にいるような。

 繋がれた手から伝わってくる来栖の体温が、それを更に加速させる――――。

 何を言えばいいのか。

 何を伝えれば良いのか。

 今の新太には、分からなかった。


 だからこそ、ただ新太は――――。


「っ――――」


「あっ……」


 ――――まゆりの身体を、抱きしめた。


「新、太……?」


 拍動が急速に上昇してゆくのを感じながら、まゆりは自身を抱きとめる少年へと目線を向ける。

 どんな表情をしているのかは分からない。

 でも、全身に込められる力から伝わってくるモノに、まゆりはしばし身を委ねる。

 新太の山吹色の制服に顔を埋めると、漂ってくるのは硝煙と好きな人の混ざり合った匂い。

 頭に触れる新太の手は、燃えるように熱い。





「――――で、いいのかな」


「……!」




 頭上から振ってくる声。

 この声音は、どこか震えていて――――。



「……」


 ゆっくりと離れる身体。

 そして、明らかになる新太の表情。

 涙の跡の残る新太の顔に浮かぶ――――不安の色。


「――――新太は、どうしたい?」


「っ……」


 まゆりのその問いに、口を引き絞る新太。

 声に出していいものか――――そんな迷いを感じさせる静寂の中、ただ外の爆ぜる音だけが部屋中に響き渡る。


「……俺は」


「……」


 やがて。

 覚悟を決めたように、新太は震える唇を無理矢理動かす。




「――――大切な人たちを、守りたい」



 そう。

 自分の中にあるのは、ずっと昔からたった一つ。

 宮本新太の祈りはたった――――それだけ。



「――――その『願い』で、傷つく人がいたとしても?」


「っ……!!」



 まゆりの言葉に、新太は口をつぐむ。

 それを考えないようにするために、俺は「近衛奏多」に徹することで、結論を出すことを放棄した。

 考えないようにした――――。



 目線を右往左往させ、必死に答えを探そうとしている姿を。

 まゆりはどこまでも「愛しい」と、心の底から想う。


 ――――良かった。

 新太が、ここで()()()()で。

 やっぱり、この人は。

 ()()()()()()、どこまでも優しい――――新太さん。


「――――いいんだよ」


「……!」


「いっぱい迷って、いっぱい考えて、いっぱい悩んでも……きっと答えは出ない。

 ……でも。

 多分、それで……いいの」


「……」


「――――大丈夫。

 ……新太なら、できるよ。

 だって……、もう何回もウチのこと守ってくれたんだもん」


「っ……!!」


 恥ずかしそうに頬を赤く染めるまゆり。

 自身に向けられる柔らかなその笑みに、新太は思わずまゆりの身体を抱き寄せた。




 ――――離したくない。

 ()()を、俺は()失ってはいけない。


 だったら。

 俺がやるべきこと、それは――――。




「――――()()()


「……えっ?

 あ……は、はい」


 新太に抱きしめられながら、呼ばれる自身の名に、まゆりの心臓は一際大きな音を立て始める。





「君は、俺が絶対に守るよ――――」



 そう、耳元で聞こえた声を最後に――――身体が、離れる。

 新太は傍らに無造作に置かれた一振りの日本刀を手に取り、全身に霊力を充填――――。

 そして。

 部屋に空いた大穴から、外へと飛び出してゆく一人の陰陽師の姿――――。


「……行ってらっしゃい、新太さん」


 去り際に見えた、新太の瞳。

 それは、どこまでも真っ直ぐで。


 始めて見たときと何も変わらない、強い意志の込められていた。

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