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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第五章『驕り高ぶる陰陽師達、“王”を名乗る。』
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第179話『第七の少女』



 ドアを開けた先にいたのは、古賀先輩よりも頭一個分低い背丈の濃紺色の制服姿。

 金色の髪を後ろで一つにまとめているその女の子は、その小さな顔を羞恥に染め、古賀先輩を見るなり口をパクパクと動かしている。


「『北斗』……だよな?

 に」


 虎先輩の指摘に頷き、ウチはデスクから立ち上がる。

 ―――――実際に、破吏魔の待機室を訪れたのはこれまで何気に流星だけ。

 それ以外のメンバーが足を踏み入れることは無かった。

 突然の来訪者に俄かにピリつく空気。

 ――――――しかし。


「本当に京香様だぁ……!!

 めちゃくちゃ可愛い……いや、綺麗?っていう方が正しいか……!?

 えー、髪も短いの超似合うーーー!!

 え、ちょっと待って待って、泣きそう……。

 すいません、泣きそうですー……」


 それも、当の来訪者本人が氷解させる。

 口に手を当て、目に大粒の涙を溜めながらズビビと鼻を鳴らしている。



 ―――――え、何この展開。


「ずっとずっとぉ……、京香様は私の憧れでぇ……。

 ()()()もちゃんと見てましたぁ。

 私その時も泣いちゃって……、かっこよすぎて……」


「……」


 ドアを開けたはずの古賀先輩も、完全に呆気にとられ言葉を失っている。

 ―――――古賀先輩の……ファン?

 それにしては熱量が異次元な気が……。


「あっ……うん、あの……ありがと。

 立ち話もなんだから……その、とりあえず……中に入ったら……?」


 未だに涙を流している少女を横目に、古賀先輩は何とか正気を取り戻したのか、辛うじて言葉を絞り出す。


「そ、そんな……!?

 京香様と同じ空気を吸っていいんですかっ!?

 一体どんだけの徳を積んだらそんなこと許されるんですか!!!」


 一転。

 目をかっぴらき、後ずさる少女。

 その様子を見て、古賀先輩は口角をヒクつかせているのが分かった。


「もういいから……お願いだから、中に入って……」


 額に手を当て、頭を振る古賀先輩。

 その様子をウチも虎先輩も呆気にとられながら見ていた。




 ***



「あの……粗茶です」


「あ、ありがとうございますっ」


 コトリとソファに座る少女の前に今しがた淹れたばかりの茶を置くと、軽く頭を下げて元気に礼を述べる少女。

 そのまま立っているのもなんだから、ウチもソファの空いている部分へ腰を下ろした。

 隣には古賀先輩、その更に隣には虎先輩。

 目の前に、ズズ……とお茶へ口付ける少女という布陣。


 重ねて言うけど……どんな状況?これ。


「……えっと、()()を着てるってことは『北斗』の人で間違いないんだよな?」


 虎先輩の問いかけに、少女は「はい、そうです」と頷く。

 改めてその顔を拝んでみると、ウチ自身どこか見覚えがある。

 メディアへの露出も多い『北斗』だからこそ、どこかで見たことがあるんだろうけど……。


 すると、それまでずっと黙っていた古賀先輩がおずおずと口を開いた。


「……()、鷹羽先輩……ですよね?」


「っ!!!

 京香様が、私の名前を知ってくれてる……!?

 えーーーー……、嬉しい……」


 またも涙目になる、「鷹羽」と呼ばれた少女。

 しかし、それを古賀先輩は「……もうそれは大丈夫です」と一蹴し、先を促す。


「……私は『北斗』第七星「貧狼(とんろう)」、鷹羽真幌(たかば まほろ)です。

 泉堂学園の三年生ですっ」


「三年生……ですか」


 ―――――見えないなぁ……。

 その身長もさることながら、幼い顔立ちや仕草をしているから余計に実年齢にそぐわない印象を受ける。


「……じゃあ、まほちゃん先輩って呼んでいい?」


 いきなりそんなことを口走る虎先輩。

 初対面の人相手にそんな提案ができるこの人のことを、一周回って尊敬し始めてきた……。

 しかし、当の本人は「大丈夫です!」と大きく頷く。

 どっちが年上なのか分からない……。


「俺は、二年の蔦林虎ノ介。破吏魔に所属こそしているけど……一般生徒(パンピー)っす」


「じゃあ……虎君って呼びます!」


 あ、そっちもそういう感じね……。

 短い時間だけど、この二人は何となく波長が合いそうだとまゆりは人知れず思った。


「……で、こちらが……」


 目線と指さしで、虎先輩に自己紹介を促される。


「ウチは……「来栖まゆり、ちゃん」


 先に名前を言われて、頭に疑問符を浮かべるウチ。

 どうして知っているのか、という真っ当な疑問はすぐに解決することになった。


「……()()の……被疑者、だったよね」


 少し言いづらそうに口ごもる……まほちゃん先輩。

 ……なるほど。

 そういうこと。


 ウチが起こした()()()、六月の一件。

 精神に影響を及ぼす式神の発現事象を受けたウチは、新太さんを序列戦の決勝に進出させるために、その障害となる対戦相手を片っ端から闇討ちしていた――――――。

 という話を、後に聞いた。

 ウチにその記憶は曖昧。

 靄がかかったようにボンヤリとしていて、スッキリと晴れない。

 でも……。

 時折()()()()間接的にその時の話を聞いたり……、多分ウチが闇討ちした人と仲が良かった人から向けられる敵意100パーセントの視線を感じたときには、否が応でもそれを実感せざるを得ない。


「操られちゃってたんでしょ……?

 えっと、……まゆりちゃんって呼ぶね。

 結局まゆりちゃんも被害者だよ」


 そう言って笑みを浮かべてくれる、まほちゃん先輩。

 こんな風に()()()()()()()()()()()ことをウチは知っている――――――。

 逆に、そう言ってくれるだけでウチの心は大分楽になる。

 ―――――まほちゃん先輩。

 まだ知り合って数分しか経っていないけど、『北斗』だからって、調子に乗っている悪い連中の一員、と決めつけるのはダメな気がした。

 そして、最後の一人。


「……」


 静かに、古賀先輩は自分のことを指さす。

 すると。


「貴方は、京香様ですっ!!」と両の手を合わせ、キラキラと憧れに満ち満ちた瞳で古賀先輩へと詰め寄るまほちゃん先輩。


「……すげぇな。

 めちゃ熱烈」


 あの虎先輩も若干引いてるのが、ちょっと面白い。

 でもそれほどまでに、まほちゃん先輩の古賀京香愛はその言動から感じられる。


「古賀のこと好きなん?

 古賀京香ファン?」


「そうですっ!!

 古賀京香ファンクラブ団員No.003、鷹羽真帆とは私のことですっ!!」


 ビシッと虎先輩を指さす、まほちゃん先輩。


「ファンクラブまで存在するのは知らんかったなぁー……。

 ちなみに何人くらいいるの?」


「10月16日現在で、568人です」


 またまた、古賀先輩の頬がピクつくのが分かった。


「……そんなにたくさん。

 古賀先輩カッコいいから納得ですけど……」


「568人って……、学外にもメンバーがいるんだな……」


 どんな表情をすればいいのか。

 普通に困惑中。

 一体誰が運営してるんだろ……。


「私は京香様を敬愛し、そして……一生を捧げる覚悟なんです!!」


 方便とはとてもじゃないけど言えない凄みが、まほちゃん先輩からは感じられる。

 でも、確かに……。

 まほちゃん先輩の髪型は、()()()()()()()

 それは、ついこの前までの古賀先輩を彷彿とさせた。

 憧れの対象に近づきたいがために、髪型を寄せる心理は何となく理解できるけど……。

 それでもやっぱり過激派だよねー……。


「ほんと、前の古賀先輩まんまですもんね……」


「……あっ、()()()()()()()()ですよ!?

 現在の京香様も可憐ですっ……!」


「ははは……ありがとう、ございます」


 見たことのない表情を浮かべている古賀先輩。

 複雑そうな表情からは、「嬉しい」という感情は感じられない。

 目に見えて困惑していて、何だか新鮮。


「えっと……、それで、鷹羽先輩」


 気を取り直すように、軽く咳ばらいをし、古賀先輩の雰囲気が変わる。

 目の前にいる、自身の一ファンに対してではなく……「突然の来訪者」としての、鷹羽真帆へと対応を変えたのが分かった。


「―――――どうして、私たちに接触を?」


 これ以上、雑談をする気はない―――――。

 そう古賀先輩の瞳が言っている。


 それは、ウチも抱いていた最もな疑問。


 ―――――どうして、()()()()

 表向きには「北斗」の直掩組織である「破吏魔」だけど、この前の演習でその均衡も崩れ、信頼関係もほぼほぼなくなったに等しい。

 加えて、支部長の昔馴染みだという秋人さんも、そこまで支部長に情報を流している素振りはない―――――。

 変な話、「破吏魔(うちたち)」の内情を知るためにとして佐伯支部長が派遣した可能性も考えられる。

 余計な勘繰りからはどうしても逃れられない。


「……」


 まほちゃん先輩は、古賀先輩の真剣そのものの雰囲気を感じ取ったのか、一転難しそうな表情を浮かべる。

 察するに、「何と言ったものか……」といった様子。


 ()()()()、ことは確実。


 まほちゃん先輩は一瞬の逡巡の後、重そうにその小ぶりな口を開いた。









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