表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第五章『驕り高ぶる陰陽師達、“王”を名乗る。』
186/226

第178話『New encounter』



 僅かな光源の灯る部屋に、黛仁は座っていた。

 印象的な狐の面。

 その奥から感傷の色を含んだ瞳が見据えるは、全身を呪符で覆われている()

 名も知らない数多の生命維持装置からは管が伸び、簡易的なベッドに寝たきりの少女の体へと繋がっている。

 ただ少女の発する弱い呼吸音だけが、部屋の中を満たしていた。


「……」


 時間が許す限りずっと……、仁はこの少女の傍らで過ごしていた。

『暁月』に与することを決めた、()()からずっと。

 それが、力不足だったあの頃の自分が果たすべき「贖罪」であると信じ、こうして足繫くこの部屋へと通っていた。



 ―――――柊御琴(ひいらぎ みこと)

 それが、この少女の名だった。

 十二家紋「柊家」当主であり、発現事象の強制解除及び無効化を司る十二天将―――――「太陰」の正統継承者。




「―――――彼女さん、とかですか?」


 唐突に部屋中に響き渡る明朗な声。

 ゆっくりと振り向くと、そこには新太や京香と同じ学園の制服に身を包んだ少女が立っていた。


 ―――――夏目八千代。

 ……確かそんな名前だったような気がする。

 入り口付近で佇む八千代は、興味がある―――――と言わんばかりの瞳を、仁へ向けている。


「『狐』さんが、『暁月(こちら)』に来たのも、……その子がいたからですよね?」


「……」


 対する仁はそれに返答することもなく、再度美琴の方へと居住まいを正す。

 明確な拒絶の態度。

 それは別に今に始まった話じゃない。

 他の『暁月』のメンバーに対しても、この『狐』は同じような態度をとっている。

 八千代自身そのことは重々承知していた。


「……また、ダンマリですか。

 いい加減会話をしてほしいんですけど……」


「……」


 尚も変わらないその様子に八千代は深い溜息を一つつき、「……泰影さんから伝達事項です」と言葉を続ける。


「『第三世代』殲滅を目的とする作戦(オペレーション)についてです。

 10月22日14:00、『狐』と『玉藻前』両者は作戦行動を開始します」


「……」


「……せめて、返事くらいはしてほしいんですけど」


 沈黙を続ける仁、そして部屋に立ち込める重苦しい雰囲気に耐え切れなくなり、八千代は「……確かに伝えましたからね」と踵を返した。


 ドアに手をかけ、部屋の外に出ようとした瞬間だった。




「……死ぬのか」


「……?」


 最初、誰の声か八千代は分からなかった。

 どこか籠ったような声で、それが背後の仁のものであることを察する。


 ――――――私に話しかけてる?

 というか、何?突然……。

 訝し気な目線を仁へと送る八千代。


「……死ぬって、誰がですか?」


 ――――――この女の子のこと?

 そんなの私に分かるわけ……。


 すると目の前の『狐』は静かに、八千代の方を指さす。


「……ひょっとして、()()()……ですか?」


 ―――――驚いた。

 この人、()()()のことを覚えていたんだ。

 泰影さんに私の残りの時間を聞かれたあの場に、確かにこの人はいた。

 だとしても、私の生死に興味なんてあるの?

 いやいや。

 にしても、何でそんなことを聞かれなきゃいけないんだろ。

 私の言うことには全然答えてくれないのに。

 都合の良い『狐』に多少のイラつきを覚え、若干投げやりに言葉を紡いだ。


「……まぁ、死ぬっちゃ死にますね。

 という言い方の方が正しい気がしますけど」


「……」


 ―――――え、ノーリアクション?

 自分から聞いといて?


「……言いたいことはそれだけですか?」


「……」


 ―――――ダメだ。

 腹立つ、この人。

 一刻も早くこの場を離れたくなった八千代は、「それじゃ、また」とだけ言い残し、踵を返す。


 人気(ひとけ)のない廊下を少し早足で歩きながら、八千代は独りごちる。


「……古賀先輩も宮本先輩も、()()()()とよく仲良くしてたよね」


 足を踏み出せば踏み出すほどに、八千代のイライラは増していくだけだった。




 ***



 [10月15日(火) 清桜会新都支部7F「破吏魔」待機室20:06]


 待機所の中には普段通りキーボードを叩いている来栖まゆりと蔦林虎ノ介。

 そして――――この時間には珍しく古賀京香の姿があった。

 今日はもう修練は終わりにするらしく、ソファで長い足を組み、疲れたような表情で目を閉じている。

 ―――――疲れたような表情。

 それは別に京香だけじゃなかった。

 対面に座り、スマホを操作している虎先輩も。

 そして、他でもない……ウチも。


 皆、一昨日の()()から、どこか心ここにあらず、といった様子。

 それも仕方がない。

 ()()()()()を見せられたのでは、やらなければいけないことも手に付かなくなるのも仕方がない。


「……」


 同じ部屋にいるはずなのに、誰も何も言わない。

 口を開こうとしない。

 ただ重苦しい雰囲気だけが、部屋中に立ち込めていた。


 ――――――新太さんは、今日もいない。

 そもそも、あの修練場を出ていく姿を見たっきり―――――。

 連絡をしようにも何と声をかけていいのか、まゆりには分からなかった。

 何をすればいいのか。

 今も新太さんに、何をしてあげられるのか。

 彼女なのに、答えの出ない自分自身が一番嫌だった。


「……」


 諦めて、キーボードに向き直ろうとしたその時。


 トントン、とドアをノックする音が部屋に響き渡る。

 一瞬、明智流星の顔が浮かんだけど、新太さんとの一戦で重傷を負った流星は未だに歩ける状態じゃないことを思い出し、その可能性を否定する。

 ―――――秋人さん?

 でも、秋人さんは今更ノックなんてしない。


「……はい」


 その声に疲労感が滲み出ている古賀先輩。

 しかし、返事をしたはずなのに一向にドアが開けられる気配がない。

 顔を見合わせる首を捻る、ウチと虎先輩。

 すると古賀先輩は重々しいその腰を上げて、ドアの方へと歩みを進めた。


「……どうぞ」


 ドアのすぐ傍で声をかけても、何の返答もない。


「……?」


 古賀先輩は訝しげな表情のままドアノブに手をかけ―――――捻る。


 すると。



 目に入ってきたのは……、驚愕に目を見開いている一人の()

 特徴的なその制服は、とある特権階級のみ着用が許されたカラーリングに他ならない。


 ―――――『北斗』……!?

 すると、ドアの前に立つ少女は、「わひゃあ……!!? きょ、京香様っ!!!」と声を上げた。


「「……京香様?」」


 ウチと虎先輩の声が、綺麗にシンクロする。


 名前を呼ばれた当の本人は、「?」と頭に疑問符を浮かべているのが傍から見ても分かった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ