四章『エピローグ』
二の腕が冷たい。
誰もいない住宅街を歩きながら、来栖まゆりはふと思った。
あれほどまでに蒸し暑い夜の続く新都だったが、気付いてみればいつの間にか肌寒さを覚えている。
それもそうかと。
もう九月も終盤に差し掛かり、カレンダー上ではそろそろ神無月。
いくら異常気象が続く昨今でも、長いように思われた夏が終わり――――――季節は秋へと確実にその足を進めている。
冬服を出さないと……、といずれ来る衣替えへと気持ちをシフトさせた。
「あっ……」
不意に。
冬服で思い出したことが一つ。
他愛もない内容だったが、まゆりは連絡するという口実になりうると思った。
そしてスマホを取り出し、連絡内容をフリック入力で打ち込む。
「……」
『冬服って、絶対十月一日から着なくちゃいけないんですか?』
――――――こんなこと、わざわざ聞かなくてもいい。
自分で判断すること。
でも。
「……」
何度か送ろうとしたけど、ウチは諦めて全文を消した。
個人チャットに書かれた名前。
――――――『宮本新太』。
ホントだったら気も使わなくていい存在。
でも……。
「……」
ウチはスマホを鞄にしまい、家へと足を進める。
歩みのたびに、寒々しい夜風がウチの体温を奪う。
9月24日。
一昨日は、秋分――――――。
=======
9月2日付、清桜会東京本部による決定事項の通達。
一、清桜会新都支部にて仮配備中であった、対『暁月』部隊『北斗』を、正式に設立。名を対『暁月』特殊殲滅部隊『北斗』に改名。
二、第二次新都血戦時における第三世代型陰陽師の戦果を鑑み、「第三世代」の全国的な配備を最終目標に据え、その統括責任者として佐伯夏鈴を任命する。
三、『狐』こと黛仁を、敵性勢力『暁月』構成員として認定。
四、清桜会新都支部科学解析部技術開発班班長である支倉秋人に不義の疑いあり。
上記の陰陽師『狐』へと、清桜会の機密事項を流出した疑いがあるとして、外部機関と連携し捜査を開始する。その結果が出るまで、身柄は清桜会にて更迭する。
五、『狐』はその危険性及び重篤な日本国混乱を招く可能性をはらんでおり、発見次第――――――――極刑に処す。