表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第四章《陰陽師―――――、消失。》
161/230

第155話『カワルセカイ』



 テレビの画面が、真っ白に染まっていた。

 それと同時に音割れするほどの爆発音。

 一拍遅れてカメラの周りにいる人たちの嬌声――――――。

 そして、暗転する画面。


「ちょっと、何!?

 どうしたのよ!!」


 うんともすんとも言わなくなってしまったテレビを鷲掴みにし、感情をぶつけている古賀先輩。


「落ち着いてください……!

 多分すぐに復帰しますから……!!

 あ、ほらほら!」


 心配な気持ちはよく分かる。

 ウチだって大切な彼氏が、この画面の中の場所にいる。

 心配すぎて今にも駆け付けたい。


「……」


 でも。

 それは、―――――ウチだけのエゴ。

 はやる気持ちを何とか唇を噛むことで押さえつける。

 古賀先輩だって分かっている。

 何もできないことを悔しく思っているのは、ウチだけじゃない。


「皆……」


 映像が復帰すると、カメラマンの身を案じているリポーター。

 避難するように呼び掛けている人の怒声が聞こえた後、変わり果てた中央区の様子が映し出された。


「何これ……」


 それはウチたちの知っている中央区の光景ではなかった。





 ***





 爆風が地を薙ぎ、そして視界を月白へと染める。

 乱れ切った霊力では、風圧に耐えるのもやっとの有様。

 歯を食いしばり、暴力的な霊力の奔流に耐え数刻――――――。


「っ――――――」


 夥しい破壊の痕が、目の前にあった。

 白煙を漂わせながら倒壊する商業ビル。

 傍らのアスファルトはその基礎から捲れ上がり、クレーター上に蒸発。

 行き場を失った地下水が流れ込み、水たまりを作っていた。

 それはさながら、新都大霊災での爆心地を彷彿とさせるような惨状に他ならない。

 

『うっ……ぐ……』


「どうなった……んだ……?」


 奏多は咄嗟に天后を庇ったのか、額から紅い鮮血が流れ、粗い呼吸をしている。


「奏多、大丈夫か……?」


「……何とかね。

 こりゃ、人払いをしていて正解だったな」


 笑みを浮かべてはいるものの、二人に余裕は無さそうだった。

 奏多の言う通り人払いはしているものの、俺達のほぼほぼ直上で寧々の陰陽術が発動。

 二人とも霊力で防いではいたとは思うが……。


「……」


 俺の手に持った式神も、既に護符へと戻ってしまっていた。

 否。

 俺自身にもう……、()()がないから。


 奮い立たせようとしても、どうしても白髪の言葉が頭をよぎる。


 ――――――――よくも……、姉さんを。


 姉さん。

 つまりは、服部先生。

 俺が闘うことで、奪われる人がいる。

 そんな当たり前の事実を、俺は見ないふりをしていた。

 弟がいるなんて知らなかった、では断じて済まされない。

 泰影の言う通り、自分自身の行いを正当化しようとしていたんだ。


 人を殺して罪を背負った―――――。

 違う。

 一度の殺しによって、その罪は更に深化してゆく。

 波紋のように広がり、やがて自分自身に帰ってくる。

「復讐」という形で。

 どんな立派な大義名分を掲げたところで、根本的なことは何も変わらない。


 俺に、()()を背負う覚悟があったのか?

 俺の行い一つで生まれる悲劇がある。

 一挙手一投足で新たな火種を生む。


 それを知って尚、式神(これ)を振るうことができるのか?


 俺は――――――――。









『ク……ソ…………』


 白煙の間から、この光景を生み出した二人の陰陽師の姿が現れる。

 一方は、一条寧々。

 先ほどの陰陽術で、全てを使い果たしたと思しきで地上に屹立している。

 全身を真っ白に染め上げ、まるで仁の『成神』発動時に酷似している姿。

 しかし。

 体中を()抉られたような欠損があり、そこから夥しいほどの鮮血が流れ、焼け焦げた地面へ血だまりを作っていた。

 その身に残存する霊力は皆無、誰の目から見ても終わりの時を待つだけ――――――。


 そして、もう一人。


「仁……!!」


《……》


 全身に神性を纏い、その尻尾には尾。

『成神』の解放率を上げたことにより、『天空』へとその姿が近づいているような。

 これまでの見たことのない仁の変容。

 その変容を強いられるほどの――――――。


『ほんっと……、ムカつく……奴だよ』


《……》


 肩で息をしながら仁は、静かに寧々の言葉を聞いていた。


『それほどの……、やっぱり、晴明様は……正しかった』


 僅かに寧々の全身を包んでいた霊力が霧散し、そして――――――。


《……》


 口に僅かな笑みを携えながら、一条寧々の肉体はその生命活動を終えた。







「いや~、煙い煙い」


「……!」


 白煙の間を縫い、何事もなかったのように現れた二つの人影。

 泰影と、……服部椿。


「仁、すごいね。

 ()()をいなしちゃうなんて」


《……》


「見たところ、『羅雪』をすることで、寧々の術の大半を消し飛ばしたんだろう?

 あってるかい?」


《……》


 立ったまま事切れている寧々の頭をポンポンと軽く叩き、泰影は彼女だった肉体へと目線を向けた。


「……よく頑張ったね、寧々。

 ()()()()闘ってくれて、有難う」


 そう言いながら、泰影は寧々の傍らに落ちている一枚の護符を拾い上げる。

 それは恐らく―――――、寧々の十二天将。


「それじゃ、はここまでにして……」


 泰影は寧々の式神を袖へとしまい、その代わりに取り出す()

 先ほどの人造式神とは異なり、泰影自身の霊力に呼応するかのように脈動している。



「――――――始めようか」


「……!」



 仁は見たところ万全での戦闘は厳しい。

 奏多、天后は余力はあれど泰影を相手取ることは……。


 つまり。

 今この場で戦闘が行えるのは、ただ一人。


「……!!」


 考えるな。

 そうだ、ただ今は。

 皆を守るためだけに。


 ただそれだけのために。


 式神(これ)を振るえればいい。


 俺が闘わなければ、皆死ぬ。



 それでもいいのか?



「っ―――――!!

 『閃慧虎徹』×『六合』、同調!!!!」



 再度俺の手に顕現する、一振りの黒刀。

 考えるな。


 考えてはダメだ。


 考えるな。

 今はただ、泰影を止めろ。


 何か仕掛けてくる前に、先手を打て。


 考えるな。


 考えるな!!!



 発現事象、『加速』――――――。

 殺す必要はない。

 戦闘を継続することが不可能なレベルの手傷を。

 黒色の霊力を充填し、発現事象を発動させようとした。


 その僅かな鬨の流れの中、俺は体に生じた違和感に気付く。



 ――――――動かない。



 全身が、動かない。



 刀を構えたまま、指先一つピクリとも動かせない現状。


 泰影の発現事象――――――?

 いや、奴はまだ式神を発動していない。


 座標固定。

 対象をその場に固定し、僅かな挙動でさえも封じ込める陰陽術。


 俺は、それを知っていた。


 ()()、見た。


 動くことを禁じられたは、()()に自由自在に嬲られた。


 四月二十四日。

 新都大霊災。


 今この場において、あの時、あの場所にいた人物が、俺以外に()()いる。


 ()()の使用する発現事象『空間内事象制御』、その一端―――――――。







「……仁?」


《……》


 辛うじて瞳だけを動かし、の方を向く。

 仁は刀印を結び、膨大な霊力をその身に充填させていた。


 ――――――何で?


 何が起こっているか、理解できなかった。



「よーし、

 そのまま止めておいてくれ」



 こちらへと歩みを進める泰影。

 そして、発動する十二天将―――――『貴人』。


「……仁、何やって……!!」


 振りほどけない。

 霊力出力で悉くを凌駕される故に、振りほどくことができない。

 そして。

 俺の目の前に、笑みを浮かべながら立つ泰影。


「……俺を、洗脳するのか……!?」


「ふふっ、確かに『貴人』は十二天将の術者である君にも、その効果を発揮する。

 でも、残念だけど君はもう『貴人』の


「……!!?」


「『貴人』はその強制力上、制約を抱えている。

 それは――――――」





 ――――――『貴人』が効果を発揮するのは、対象一人につき()()





「……!?」



「二回目以降は効果を発揮しないんだ。

 だから用があるのは()()()()



 俺の傍らをゆっくりと歩き。



 泰影が向かった先の



「――――――近衛、奏多」


「……!!」


『クソっ!!

 ()()()桐月は信用できなかった!!

 術を解けぇ!!!』


《……》


 奏多と天后も仁によって動きを封じられているのか、ただその場に佇んでいる。

 混乱していた。

 どうして仁が、泰影に与するような。

 そんなはずはない、と心のどこかでその可能性を否定していた。

 有り得ない、と。

 信じられない、と。

 ただそれだけが、俺の心中を支配していた。


「君が天后と契約してくれてよかったよ。

 おかげで()が省けた」


 そう言いながら、泰影は奏多の頭部へと手をかざす。


「……や、やめ……!!」


『奏多ァ!!!』





「……俺の言うことを聞いてくれるかい?」





 ――――――『貴人』、発動。

 怪しげな光が周囲に立ち込め、白煙に乱反射する。

 ぼんやりとした残光が消えたとき、奏多の霊力が揺れた。


「奏多。

 『空相』だ。

 寧々ので補え」


「……」


『奏多!!

 気を確かに持てっ!!

 奏多ァ!!!』


 奏多の虚ろな瞳が、静かに泰影を捉えた。

 そして奏多へと収束してゆく、周囲の霊力――――――。

 それは、先ほどの仁と寧々の戦闘によって放出されたもの。

 大気を満たす十二天将の数多の霊力が奏多の手中に収まり、奏多の纏う霊力が爆発的に増加する――――――。


「跳ぶ先は、()()同じ、荒廃した新都中央区。

 数多の霊力、魑魅魍魎が蠢く世界。

 効果対象者は、今この世界線に存在する全十二天将及びその術者」


「……」


 宙へと手をかざした奏多。

 膨大な霊力の奔流が、空震となって大気を震わす――――――。


「っ―――――!!

 仁、やめろ!!

 何で、どうしてこんなことをっ!!?」


《……》


 俺の言葉など意に返す様子もなく、仁はただ眼前の様子、静かに傍観していた。

 ―――――!!

 クソ、こんな……!!




「さあ、帰ろうか。

 々《・》()()




 奏多は、霊力を集中させたまま。

 静かに呟いた。






「――――――――『空相』」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ