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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第四章《陰陽師―――――、消失。》
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第149話『黄昏』




『淀んでいる……というか、何というか……。

 ……とにかく、禍々しい霊力を感じ取れるようになれば、あとはすぐじゃ!!』


 奏多は霊力出力を最大限まで高め、刀印を結んでいる。

 天后の言うように、この世界ではない()()()へと認知の範囲を広げようとする。


「ぐっ……!!」


 世界線を超えて転移するためには、転移先の世界を()認知する必要がある。

 その世界の基本構造、街の様子、人の往来、構成する物質の一つに至るまで―――――。

 滝のように湧き出る汗を拭い、奏多はもう一度集中する。

 ―――――『位相』で白髪を跳ばした時と同じ感覚。

 転移先の細かい情景を思い出し、そこへと霊力を跳ばす、とでもいうべきか。

 ともかく、理論的なことは抜きにして感覚に委ねろ。


『……平行世界。

 私たちのいた世界とこの世界ではあまり街の様子は変わらん。

 異なるところと言えば、やはり地に満ち大気を覆う圧倒的なまでの密度を誇る霊力。

 それを感じ取るのじゃ』


「……!!!」


 別次元に意識を跳ばす――――――。

 そんなことがはたして可能なのかどうかは奏多自身不明だったが、それでも修練を始めたてに比べれば、大分勝手が掴めてきた。

 ―――――精神統一の後に霊力を全身に充填させ、そして自分自身を俯瞰するようなイメージ。

 そして、放出した霊力を辿りながら、数多の霊力が蠢くへ意識を跳ばす。

 精神世界とも呼べる()()()()、有り得ないほど多くのボール状の()のようなものがあって、この世界もその中の一部であることを、俺自身半ば本能的に自覚している。

 その話を天后にしたところ、不思議な表情を浮かべながら頭を捻っていた。

 ―――――私はそんな塊を見たことがない、と。

 どうやら『空相』の発動過程(プロセス)は術者によって異なるようで、天后の精神世界と俺のモノとは乖離している様子。

 天后の予想曰く、その塊の中から、天后達の元居た世界の霊力の塊を見つければいいのではないかということだった……けど。


「……ぶはぁっ!!!

 無理だっ!!!」


『何じゃ!

 諦めるのか!!?』


 いつの間にか呼吸を忘れていたのか、奏多の思考がへと強制的に戻ってくる。


「いやだってさ、床一面に永遠に塊が並べられているのを想像してみてくれよ……、そん中から一つを選ぶのなんて……もう無理だろ……?」


『ふん、それを可能としてこそ、『空相』は会得できる。

 さあさ、もう一度!!』


「いやだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 弱音を上げながらも、再度全身に霊力を充填している奏多。

 本当に真面目な奴だな、と天后は静かに口角を上げた。












「……うわー、なんだか壮絶ですね」


 買い出しを終えて部屋の中に入ってきた来栖まゆりは、自身の彼氏が少女に詰められている様子を見て、眉根を潜めた。


「その特訓って、順調なんですか?

 ……古賀先輩」


 来栖は傍らに腰かけて目を閉じている京香へと話しかけた。

 すると、京香は欠伸を一回噛み殺し、声の主へと眠そうに向き直る。


「……分かんない。

 奏多と天后ちゃんの会話を聞いていると、全然見込みがないわけじゃないようだけど」


「明日の夜ですよね?

 闘うのって……」


「……そうね」


 京香はガサガサと今しがたまゆりが買ってきたビニール袋を漁り、自身が頼んだシュークリームを取り出した。


「それにしても何というか……緊張感?

 ……そう、緊張感無いですよね!

 狐さんも、宮本新太さんも、どっかに行ったまま……」


「それこそ別にいいんじゃない?

 今は体を休めたり各々の準備に充てるー、って天后ちゃん言ってたし」


 京香は早速シュークリームの包装を破き、思い切りかぶりついた。

「おいひい~」と表情をほころばせる先輩の姿を見て、まゆりは暑い中買ってきたかいがあった、とほんの少し表情を崩したが、すぐにだらしなく破顔している先輩へと向き直る。


「……いやいや!!

 あんな()と奏多さん達が闘うんですよ!?

 普通に心配……!!」


「ああやって特訓しているし……大丈夫でしょ」


 京香は無理矢理シュークリームの残りを口へと突っ込み、そしてビニール袋の中から新たなスイーツを取り出す。


「……まゆりも杏仁豆腐食べる?」

 

「……食べません。

 ちょっと食欲がないので」


「じゃあ、私二つ食べちゃう」


 そう言いながら二つ目の杏仁豆腐を取り出す京香を、若干引き気味で見やる後輩。


「……よく食べますね」


使()と、すんごくお腹空くの」


 そう言いながら、京香は自身の体に霊力を充填させる。

 そのまま戦闘―――――とは、とてもじゃないが言えないレベルの霊力の充填。

 しかしながら、来栖は目の前の先輩に畏敬の念を抱いていた。


 ――――――()()()()()、こうちゃんからコツを聞いたばっかりじゃん。

 古賀京香が「才能マン」とは風の噂で聞いていたが、霊力(これ)に関しても才能があるの?


「……霊力を留める続けるのが疲れるわね、精神的に」


「いやいや、言われてすぐできるもんじゃないですって……」


 当の本人はスプーンで最後の一口の杏仁豆腐をすくい、口へと運ぶ。

 そしてCMばりのとろけた表情を浮かべている。


 ――――――そして古賀先輩はその後、二つ目の杏仁豆腐、奏多さんの分の軽食であるおにぎり三つ、私の分のサンドイッチを残さず完食した。

 最後の一口を食べた後発した言葉は「お腹空いた」の一言。

 何でそんなに食べて、体系維持できんのよ。


 まゆりが嫉妬の視線を向けていると、京香は京香でスマホを見て時間を確認している。


「―――――()()()()じゃない?」


「え、あ……はい、そうですね。

 そろそろ、だと思います」


 何を言われているのか、理解できなかった。

 しかし、すぐに正常な思考回路を以て京香の発言の真意を理解する。

 何の定刻か。

 それは、天后の持つ敵戦力の情報を共有し、『暁月』に対しての主導権(イニシアチブ)を握るための作戦会議―――――。

 卓につくのは、直接闘う者達だけでいいのは京香もまゆりも百も承知だったが、一度関わると決めたのならば最後までとことん、という姿勢を崩すつもりは両者ともにないよう。

 ガラスのない窓枠へと目をやると、そこには徐々に藍色に染まりゆく空と、どこから聞こえてくるのかも分からないヒグラシの鳴き声。

 奏多と天后の方を見やる京香だったが、当の黛仁と宮本新太はどこにいるのか、先ほどのまゆりの言葉が頭で反芻される。


 ――――――確かに、二人はどこに。

 新太の方は顔もネットに割れていて、事実上指名手配されているような状況。

 外を出歩くこともままならないはずなのに。


 狐の面をつけた陰陽師―――――、黛仁に関しては正直分からない。

 確かに行動は共にしているが、()()()()

 言葉を交わしたのも数えるくらい。

 新太はすごく信用している様子だったけど。

 天后ちゃんと話している時も、様子がおかしかったし……。

 

 京香は窓へと近づき、黑く塗りつぶされた中に、いち早くその光を放つ一等星の輝く空へと目線を向ける。


「……大丈夫、だよね」






 ***





 [同刻 新都某所]


 狩衣を翻し、土御門泰影は()()の到着を待っていた。

 夕刻を過ぎ、これからは既に夜と言ってもよい時間だろう。

 しかし、―――――それにしても暗い。

 周囲に林立している圧迫感のある竹林が、余計に明度を落としているのが原因かもしれないと泰影は思った。


「でも、まぁ……、々《・》()待ち合わせにはピッタリの場所だよね」


 そして、霊力が俄かに揺らぎを見せ―――――そして。

 ()が、上空から音もなく飛来する。



「……時間ピッタリだ」


「……」


 暗闇に浮かび上がる――――――()




「それじゃ行こうか、






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