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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第四章《陰陽師―――――、消失。》
154/226

第148話『旭』



『連中―――――特に泰影は狡猾じゃ。……警戒だけは解くなよ』と天后は言い残し、その場は一旦解散となった。


 翌々日である、8月25日の夕刻――――――。

 それまでは互いに必要なことをして時間を過ごすこととなる。



「……」


 奏多は一人、屋上に来ていた。

 東の空は既に紫色に輝き始めていて、夏の朝日が今にも頭を出したがっている。

 奏多は屋上の手すりに寄っかかり、腕に顔を埋め、夜から朝へと変わりゆく様子を見ていた。


「奏多」


「……?」


 誰かに声を掛けられ振り向くと、後ろには京香が立っていた。


「昼頃から特訓始めるんでしょ?

 ……休まなくていいの?」


「……うん」


 奏多は元の態勢になり、再び新都の街々へと目線を向ける。

 すると、俺のすぐ横に京香が佇む感覚。


「……さっきまで気失ってたから、眠れなくて」


「……」


「……いや、違うかな。

 きっと……、動転してるんだ。

 色々なことが変わりすぎて……。

 色々なことが起こりすぎて……」


 ―――――そう。

 ほんの数日、たった数日で俺の周囲を取り囲むは大きく変わってしまった。

 それこそ、元の生活に戻ることはもう……叶わないのだろう。


「……後悔してる?」


「まさか。

 俺が自分で臨んだことだから……、何とも思っていないよ」


 少し不安げな表情で問いかけてくる京香に、奏多は静かに微笑みを浮かべながら応える。

 ―――――俺がそうしたかったから。

 ただ、それだけ。

 後先考えない性格だと、自分でも思う。

 俺の選択の結果、誰かが悲しい思いをするのかもしれない。

 京香も、多分()()を案じている。

 虎や2-Fのクラスメイト、そして先生たちにも迷惑をかけることにはなるのだろう。

 先の一件―――――。

 京香の話によると、泉堂学園への「近衛奏多」に対する問い合わせが後を絶たないらしい。

 昨日、職員室ではひっきりなしに電話が鳴っている状況。

 ネットで取りだたされているのはではないとはいえ、俺と存在を同じくしている人物には他ならない。

 ……新太のことを、別に恨んではいない。


「京香は、どう思ってるの?」


「……」


 言ってしまえば、京香は今回の一件に対しては当事者ではない。

 ()()()()―――――と表現するのが正しいのかどうかは分からない。

 しかし、()()()()()()()に足を踏み入れているのは事実。


「……」


 その旨を伝えたところ、京香はしばらく静かに新都の街々へと目線を向けていたが、やがて何かを思い悟ったように、口を開いた。


「どーでもいい」


「……えぇ?」


「アンタが自分のやりたいことをした、って言うのなら……、今の私も同じ。

 私のやりたいことをしているから、――――――別にどうなろうが関係ないって感じ」


 京香の性格を忘れていた。

 そうだった、これがだった。

 成績優秀、品行方正、運動も何でもできる稀代の才能マンにして、自分の願望は実現させたいエゴイスト的思想の持ち主。


「……ふっ」


「……何笑ってんのよ」


 眉間に皺を寄せ、いかにも不機嫌といった体でそっぽを向く京香。

 不意に、金色の髪の毛が紅く照らされ翻る――――――。


「……!」


「……朝、ね」


 思わず目を細めてしまうほどの閃光が新都の街々を駆け抜け、奏多の体感温度を僅かに上昇させる。

 めくるめく色々なことが変わっても、太陽は普通に上るし、長い夜はいずれ終わり……朝は来る。

 そんな当たり前のことなはずなのに。


「―――――朝陽って、こんなに安心するんだ」


「……!!」


 それは。

 まさしく、俺が今しがた考えていたことだった。


 心の底から安心したような顔で、京香は上ってくる太陽を視界に収めていた。





 ***



 翌々日である――――――8月25日20:00。

 新都中央区にて、暁月所属十二天将の術者三名と、清桜会陣営十二天将術者三名が戦闘状態に入る。

 後に清桜会によって「第一次新都血戦」と命名されたこの戦闘は、一人の陰陽師の死と、一人の陰陽師のを以て終結することとなる。

 


 死亡者、『暁月』一条寧々。

 そして、――――――離反者。



 ――――――――黛仁。





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