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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第四章《陰陽師―――――、消失。》
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第139話『式神の少女』




「じゃあ……どうして、そもそもこの世界に……?」


「―――――大きくは、二つ。

 霊力による影響がない世界に行き、敵である十二天将の弱体化を図ろうとした。

 霊力は……、()()()が大きく影響する。

 故に、「霊力という概念のない並行世界」でなら、アイツらを倒せると考えたのじゃ。

 結果的に、この世界の人間に()をかけることになったのじゃが……」


 顔をうつむかせ、服の裾を握り混んでいる少女。

 敵勢力に襲われて咄嗟の判断だったとは言え、天后の中でも納得のいくものではないことが伺える。


「そして……、二つ目」


「うん……」


 目の前の来栖、そして俺は固唾を呑んで天后の話を聞いていた。


 ***




 俺は天后からおおよその()()()()を聞き、そのあまりの情報量に頭がパンクしそうになっていた。


『なるほど……。

 霊力、式神、十二天将……。

 やっぱり、なかなか信じられないな……』


 俺の言葉を聞き、目の前の天后は静かに苦笑を浮かべる。


『……それもそうじゃろう。

 この世界の人間にとっては御伽噺も御伽噺。

 空想も空想じゃ』


 しかし。

 俺の全身を漂っているこの『霊力』……。

 そして、刀を振るい魔を殲滅する()()()()

 奇怪なこの状況を説明するためには、天后の話を信じるより他はないように思われた。


『それで……、これから先どうするんだ……?』


 天后は、一瞬躊躇うような素振りを見せたが、すぐに口を固く引き結び。

『―――――『宮本新太』に、協力を仰ぐ』と呟いた。


『……私には、もう力がないのじゃ。

 

 ……『』が途切れ、数年。

 霊力の供給が絶たれたタイミングで奴らからを受けた。

 そして、己が身一つで新都(ここ)までやってきた』


『……』


『流浪の式神である私に……、十二天将中の術者数人を相手取ることは不可能じゃ。

 トドメをさされる一瞬を縫い、私はなけなしの力を振り絞り、新都に存在する十二天将を転移させた―――――』


『……』


『転移させた中には、敵勢力以外の十二天将も交ざっていた。

 桐月の小僧、そして……宮本新太。


 桐月の小僧の方は信用できるかはさておき……、宮本新太の人となりは()()()()


『お前に似て優しい奴じゃ』と天后は昔を懐かしむような、そんな郷愁に浸るような、そんな表情を浮かべている。


『助けて貰えるかもしれない、と。

 それだけの理由で、多くの者達を混乱に陥れている……。

 自分で言っていて嫌になる。


 私は、他人任せのどうしようもない奴なんじゃ』


『―――――!

 そんなこと……!』


 話を聞いている限り、天后はただの被害者。

 この子の力が欲しい奴らに、一方的に追われている可哀想な女の子にすぎない。

 しかし、俺の言葉を否定するように、天后は静かに頭を揺らす。




 『―――――結局、()()()()()()()()()





 ***



「……という感じじゃ」


 俺が聞いた内容と寸分違わぬ天后の話。

 すると黙って聞いていた来栖の肩がプルプルと震え始めた。


「それって……、()()()()()何も悪く無くないっ!!?」


「……??

 えっ……?

 こうちゃんって誰……、私……?」


「その悪い連中に追われてるってだけじゃん!!!

 ほんっと可哀想だよ!!」


 来栖は天后のことを涙ながらに、わしっと熱く抱きしめる。


「あ……、う、うむ。

 あ、え……あ、ありがとう……?」


 来栖の抱擁に困惑している天后。

 しかし……、「可哀想」。

 その点に関しては俺も来栖と同意見。

 だからこそ、俺は天后の力になりたいと思った。

 「で、ウチはどうすればいいの!!?」と天后に詰め寄っている来栖も、それは例外ではないようだった。


「あ……、えっと……。

 さっき……、ここに跳んでくる最中に追っ手を撒いたから……、その隙に『宮本新太』と合流したいと……」


「……なるほど。

 ()()()()()、ウチを呼んだんですね?」


 納得したように何度か頷く来栖。

 元々賢い子故に、こういうときの話の飲み込みが早くて助かる。


「……そう。

 来栖だったら『宮本新太』と接触している可能性があった」


「だったら……、最初にに連絡を取る方がいいんじゃ……?」


 来栖の言うことも最も。

 接触している可能性、という視点で思考すれば、同じクラスである「古賀京香」や「蔦林虎ノ介」の方がまだ可能性がある。


「―――――愚問、ですね」


 俺の煮え切らない表情を見て、来栖は察したようだ。

 そう。

 既に、()()()()


 天后の先ほどの言葉。

「イレギュラーな世界線移動、それに伴う弊害。同一世界に同質の存在がいることの影響」。

「宮本新太」の所有するは、恐らく俺と全く同じ―――――。

 それは電話番号やSNSのアカウントのID、パスワードに至るまで全部。

 それ故に、通信手段が正しく機能していないものと仮説立てた。


「……メッセをとばした中で、唯一返信があったのは来栖だけだった。

 だから合流をしようと思ったんだ」


「古賀先輩や虎先輩に学園に会いに行くことも、()()()()()……ですもんね」


 来栖の言葉に、俺は頷いた。

 昨夜のこともあり、俺は今やネットの中でのお尋ね者に他ならない。

 顔も名前も周囲の人間に割れている以上、大衆に身を晒すわけにはいかない。

 ネットでは、警察も俺の行方を捜しているらしい情報もあった。

 拘束されれば、身動きが取れない可能性がある。

 常時であれば許されることでも、()、それができないもどかしさがあった。


「ウチも、昨日まで……その……新太、さん?と連絡が取れていたんです。

 でも……」


「……今は、違うよな。

 ()連絡できているから」


 ―――――『宮本新太』が、どこにいるのか。

 情報通信機器が役にたたない以上、原始的な手段でしか捜索ができない。

 急にこちらの世界に跳ばされたことにより、向こうも『天后』を捜している可能性は充分にある。

 俺らは逆に動かない方がいいのか……?

 自宅にいる可能性は?

 いや……、()()にまず身を隠すのが普通。

 となると、向こうも潜伏している……?

 一人で?

 協力者の存在は……?


 うーぬ、と一人で思考を働かせていると、俺の方を天后がじーっと見つめていた。


「……どした?」


「……いや、当たり前じゃが。

 本当に()()()()じゃ、と思ってな」


「宮本新太……、と?」


 天后は首肯し、また何かを懐かしむような表情を浮かべた。


「私が困ってどうにもできないとき……、奴は今のお前と同じようにあーでもないこーでもないと、頭を捻らせておった。

 まだ「宮本新太」が年端もいかない頃の話じゃ。

 お前達は、本当に同じなんじゃな」


「いや、本当にウチも全然気付きませんでしたもん!!

 あっ……、てかウチ、キス!!

 ヤバい!! キスしちゃいそうになってた!!!」


「っ……!!?」


 ―――――な、何だって!!?

 来栖は()を思い出すように顔を紅潮とさせている。


「いやでも、あの人も一応奏多さん?なわけだから浮気には、ならないのかな……?

 ……未遂、そうそう未遂だったし!!」


「いやいや、そう言う問題じゃないでしょ!」


 これは……。

 宮本新太。

 俺と同質の存在であることをいいことに、来栖とよろしくやっていたのか……?

 これは……、会ったら一発文句を……!


「……ふふふ」


「「何がおかしい(のよ)!!?」」

 

 口を押さえて笑みを浮かべている天后。      

 とてもじゃないけど笑い話じゃない。

 これは、由々しき事態ですよ……!


「いや……、すまん。

 久々にこんなに()話をしているから、面白可笑しくて……」


 俺と来栖は笑う天后を横目に、互いに肩をすくめた。


「……こうちゃんって、本当に『式神』なんだ」


『……そうじゃ。

 ―――――ほれ』


 天后の掌からほんのりと灯る明かり。


「うわ……」


 その灯りは、やがて天后の手を離れて中空へと浮きあがった。

 一つ……、また一つと光源が生まれては、薄暗くなっている拝殿の前を明るく照らす。


『人間は、こんなことできんじゃろ?』


「そりゃそうだな……」


 この世ならざる奇跡。

 そんなものが存在するとは、にわかに信じることができなかった。

 ……しかし。

 こうして目の前で巻き起こる不思議なことの数々。

 天后が元いた世界。

「陰陽師」や「式神」、摩訶不思議な「妖怪」やら「悪霊」のいる世界―――――。

 皆が皆、霊が見える世界は一体どんな風なのか。


 思ったよりも楽しいところなのかもしれない、と奏多は呑気にそんなことを思っていた。

 

「しっかし、どうしようかね。

 宮本新太はどこに……」


『そう急がずとも良い。

 先ほどの追手は撒いた。

 時間的な猶予はまだまだ……』


 天后の言葉が、そこで止まる。

 不思議に思い天后の方を見ると、を見つめて固まっていた。


「……?

 どうした?」


 参道の始まり、つまりは鳥居のある方―――――。

 何気なくそちらを見やり。


 ―――――背筋に冷たいものを当てられたが如く、寒気が走った。


 天后の発した灯りで、ぼんやりと照らされている境内。

 薄暗い鳥居の下、()()


 中学生ぐらいの幼い体躯。

 病的なまでに純白の

 真夏だというのに上下の学ランを着ているのが、さらに怪しさに拍車をかけている。


『どう……して……!!』


「……!!」


「……?」


 突然の来訪者の存在に、頭に疑問符を浮かべている来栖。


「誰……?」


「コイツだ……」


「……?」


「コイツだよ……!!

 ()()()()()()()()()()()……!!!!」


『朝から襲ってきおって……!

 私は、十二家紋で、お前を知らん!

 お前は一体誰じゃ!!』


 天后の声が、境内の中を木霊する―――――――。


「……」


 すると。

 今朝からずっと沈黙を貫いていた目の前の学ランは、静かに口を開いた。






「―――――服部、椿」


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