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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第四章《陰陽師―――――、消失。》
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第133話『熱帯夜』




 その結合が解かれた悪霊の生体光子は、新都の夜へと霧散してゆく。

 今現在現界している個体は祓った、しかし現在進行形でセンタースクエア前の悪霊はその数を増やしている―――――。

 いくら祓ったところで、ここにが存在している限り、悪霊は無尽蔵に沸いてくる。


「何だっ……!?

 急にバケモンが……」


「今のうちに逃げよ!」


 センタースクエア前から逃走を始める人々。

 しかし、それは正気を保っていればの場合である。

 中には眼前の光景に完全に腰を抜かし、その場にへたり込んでいる人も見受けられた。


 ―――――傍らの来栖も、例に漏れずそのタイプだったようだ。

 来栖は再度自身の隣に戻ってきた来訪者である俺を、涙の溜まった両眼で見ていた。


「アナタ、……?」


「……」


「奏多さん、じゃない……。

 ねぇ、誰なの……!?」


「……」


 誰、か。

 本当に、俺は一体誰なんだろうな。


 その疑問に応えてくれる存在は、今はここにはいない―――――。



 ***



 眼科では、数多の悪霊がその数を増やしつつあった。

 そして、漆黒の霊力をまき散らしながら黒刀を以てそれらを滅する一人の少年。

 目にも留まらない高速、……いや光速―――――。

 あの刀の発現事象なのだろうが、もはやそれは移動というよりは「消失」と「出現」と言い換えた方がいい。

 ともかく、()がよくここまでの制圧力を身に付けたな、と泰影は半ば感心していた。


 今も尚、気を失っている背中の寧々、そして仁の十二天将の衝突――――――。

 それがこの現状を巻き起こした。


 霊力の認知されていない世界。

 それは均衡と調和を意味する。

 日常的に安定した地場と霊力、時折それを外れる者達も中にはいるのかもしれないけど、それでも俺らが元いた悪霊魑魅魍魎が跋扈する世界とは、一戦を画す。


 その均衡が、破られた。

 水が満タンに入ったコップ。

 そこに物を投げ入れたが如く―――――溢れて姿を現す存在もいれば、水面に生じる波のように不安定になる地場。


 安寧と秩序の崩壊―――――。


 普通、それを求める者は誰もいないはずだった。

 しかし。

 宮本新太が、自身がこの()の住人であることを再認識したように。

 泰影も、言いようのない心地よさを感じていた。


「……やっぱり、こうでなくっちゃね」


 やはり、だった。

 寧々と仁をぶつけたこと。

 そして……。

 嬉しい誤算。

 それは仁の『成神』による霊力出力が、一陰陽師のそれを当に越えていたことである。

 いくら結界で防ごうとしたところで、その余波は外部へと伝播する。


「……う……ん?」


「おっ、起きた?」


 背部からの声。

 寧々が意識を取り戻したようだった。


「アレ……やっすん?

 寧々、何でおんぶされてんの……?」


 記憶が混濁しているのか、目を擦りながら周りをキョロキョロと見回している。


「って、何コレ何コレ!!?

 何かすんごいことになってるけど!!」


 眼下の様子に気がついたのか、寧々は興奮したように背中でバタバタと暴れ出した。


「これ、ちょっと……。

 ……病人は暴れないでください。

 先ほどののせいでこんなことになっていまーす」


「先ほど……?」


 すると寧々は徐々に思い出しつつあるのか、バタバタと暴れることをやめ、その代わり肩を掴む手にギリギリと力が入り始めた。


「寧々……、アイツに……」


「あの、ちょっと痛いんだけど……」


「嫌だ!!

 認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない!!!!!!」


 再度バタバタと暴れ出す寧々。

 癇癪を起こした子どものように涙を撒き散らしながら泣く姿は、今年成人を迎える者とは思えない。

 ―――――まぁ、君の敗北も正直仕方が無い。

 仁は既に陰陽師として、そして十二天将の術者として。

 既に()になっていた。

 むしろ、闘えたことを誇りに思うべきだと思うけど……。

 ただそれを伝えたところでこの子の癇癪は悪化するだけだろうから、泰影は背中にいる大人子どもをあやすことに全神経を注ぐことに決めた。





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