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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第四章《陰陽師―――――、消失。》
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第119話『普通科の泉堂学園』


 体育。

 炎天下の中、マラソン。

「休み明けで弛んでいる気持ちを引き締めるためのマラソンだ」という体育教師の言い分を聞き流し、隣に並んでいるクラスメイトの愚痴へと耳を傾けていた。

 名前も知らない初見の同級生は、本当に嫌そうにうなだれている。


「お前もそう思うだろ!!?

 文化系はマラソンなんてやったら死んじまうんだよ!」


「うん、そう……だね、ははは……」


 この男子の中では、どうやら俺は文化系らしい。

 俺に対する周りの認識も、ひょっとしたら変化しているのかもしれない。


「でも実際、マラソンなんてダリーよなー……」


 会話に参加してきたのは学校指定のジャージに身を包んだ虎だった。

 体育はいちいち制服からジャージに着替えなければいけないようで、俺も、そして隣の自称文化系君も例にもれずジャージ姿。

 女子の着替え待ちの、この時間。

 体育教師と俺ら男子は日陰で時間を潰していた。


「蔦林は別にいいじゃないか……、運動得意だろ?

 でも()は違うんだよ!」


 あれ。

 いつの間にか、一括りにされている。

 さっきの文化系発言と言い、俺って運動できない奴みたいな扱いなんだろうか。


「運動できても、全然モテないから意味ねーよ」


「それは見た目の問題じゃ……」


 その変な髪型とか。

 ダルダルなジャージとか。

 しかし、虎は俺の発言を華麗にスルーし、「あっ、ようやっと来たぜ~」と校舎の方を指さす。

 校舎の方――――――。

 こちらに向かって歩いてくる()

 その集団の先頭を陣取るのは、我らが総大将、古賀京香。

 何やらクラスの女子と楽し気に話しているからか、その表情は穏やかでどこか京香っぽくない。

 と言うか、あんな笑顔を()()確実に見せていなかった。

 それは生まれた家柄故のものもあるだろう。

 陰陽師の家に生まれ、その後を継ぐ者としての矜持。

 そして何よりも、序列第一位としてのプライドに端を発するものだった。

 弱みや気のゆるみを微塵も見せない。

 ただ頂点に君臨するものとして、日々京香は過ごしていた。

 でも。

 もしも京香が、陰陽師に一切関係ない家に生まれ、高校も陰陽師とは縁もゆかりもない学校に通っていたら――――――。


 こんな表情を浮かべる女の子に、なっていたのだろうか。




「古賀、可愛いなぁ~~~~」


「「……」」


 名もなき同級生は、京香の姿を見るやいなや、そんなことを言い始めた。

 対し、俺と虎は目を見合わせ、バツの悪そうな表情を浮かべた。


「おいおい、丸井。いっつも言ってるけどさぁ……、悪いことは言わねぇ、古賀はやめとけ」


 丸井と呼ばれた男子は、それでもなお、キラキラした視線を京香へと送っている。


「あの丸井……君」


「……?? 

 んだよ。他人行儀だな。

 普段通り丸井でいいぞ?」


「えっと……丸井。

 参考までに聞いてもいい?」


「なんだ?」


「京香のどこがいいの?」


 すると丸井君は、待ってました!と言わんばかりに小鼻を膨らませ語り始めた。


「まずは、顔だな!!

 超可愛い!!

 もうアイドルレベルだろアレ!!

 あとは、スタイルもいいよなっ!

 出るとこ出ててるくせに、引き締まっているところはキチンと引き締まっててエロい!!

 俺は一番足がいいな足、うん足足。

 カモシカみたいでいいなぁ~~~~!!」


「うん……、ごめんごめん。

 もういいよ、ほんとにごめん」


 聞いた俺が間違いだったようだ。

 虎も呆れた顔で聞いているから、多分俺と同じ感情を抱いているだろう。

 しかし、丸井君はそれでもなお、京香の魅力を喋りたいらしく、俺の静止なんてなんのその、ずっと一人でベラベラ喋っている。


 確かに客観的に見れば、京香はいわゆる「可愛い部類」に入るのかもしれないが……。

 いかんせん昔から知りすぎている仲であるため、いまいち京香の魅力というものが分からない。

 虎も俺も尺度が完全に狂ってしまっている。


「あっ、え……、大丈夫?

 マラソンやるの?」


 男子の中に俺の姿が混ざっているのが意外だったのか、京香は俺の顔を見るなりこちらへと走り寄ってくる。

 朝の一件のこともある。

 心配しているのがその表情から見て取れた。

 ついでに、丸井君の京香愛を語る声も止んだ。

 と言うか、露骨に俺と虎から離れていった。


「俺は全然大丈夫。

 朝はちょっと貧血っぽかったんだ」


「貧血だったらなおさら!

 そんな状態で走って大丈夫なの?」


「だから大丈夫だって……」


 不安げな京香をよそに、体育教師は全員そろったことを確認し、マラソンを始めるべく、俺たちに学園の外へ行くように促した。

 そして始めるマラソンのコースやら注意事項やらの説明。

 その説明の大部分は、こんなあっつい中マラソンを行う理由をダラダラと述べているだけだった。


 マラソンと言っても、コースは泉堂学園の外周を一回走るだけらしい。

 それでも元の陰陽科の学園では、色々な修練場やらなにやらといった附属施設がわんさかあるため、敷地面積的にはかなり広い。

「普通科」になってしまった泉堂学園も、それを踏襲していると仮定すると……。


「大体、四キロ無いくらい……じゃね?」


「そんなもん、だよな」


 俺も虎と同じくらいの計算。

 肌感ではもっと短いかなーと思っていたけど。

 意外と距離的には短い方なのに変わりはない。


 しかし。

 俺らの反応に対し、クラスの面々は「えー」とか、「まじでー?」と思い思いの反応を体育教師にぶつけていた。


「異論反論は一切受け付けん。

 ただ途中で体調が悪くなった場合は、外周の要所要所に先生方が立っている。助けを求めろ」


 他の先生まで動員しているのか。

 そこまでしてやることかな……。


 先生の話では男女に分かれて走るらしい。

 はじめは、女子から――――――。





 割愛。







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