表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
119/226

第115話『傾月下』






 ―――――――カリンの言うことを聞いていて、良かった。

 支倉秋人固有式神『建御雷神』に搭載された制御破壊(リミットブレイク)

 気を抜けば意識を刈り取られてしまうであろう、身体許容上限を遥かに上回るほどの電圧。

 過剰なまでの、霊力から電気への転化を防ぐ制御の破壊――――――。

 それがしてしまえばこうなるのか。

 ただの放電現象とは異なり、常に雷を身に纏う帯電状態が常態と化す。

 雷は紫色に可視化し、周囲へと爆発的に溢れ出ている。


「これが、制御破壊(リミットブレイク)――――――」 


 に満たされていた。

 脳内でのイメージを全て具現化できるような、そんな自信が溢れてくるような。


「ほう、……素晴らしい」


 その身、そしてその大剣に雷を纏わせながら、曹純は静かに刀身をこちらへと向ける。


 転瞬。

 目の前に迫る大剣を、僕は捉えていた。

 ――――――遅い。

 スローモーションかと思うほどの愚鈍な一撃。

『蓄電』の発現事象、電気を身体の抹消神経系に流すことで、曹純も相応の速度を獲得しているはず。

 それは、電気を戦闘に応用する上での、基本的な加速術に他ならない。

 しかし――――――。

 迫る大剣の剣先を避け、ガラ空きの胴に肘を置く。


 ――――――入る。


「っ……!!」


 苦悶にその表情を歪めるのを、見逃さない。

 インパクトの瞬間、帯電している電気を開放したダメ押しの中段蹴りを叩きこむ。

 そして、背後へと吹き飛ぶ黒色の狩衣――――――。





「閃」




 ――――――前方。

 刀印から放つ雷の一極集中放電が、曹純を貫通した。

 中空故に、回避行動不可能。

 出力はこちらが上回っている。

『蓄電』で雷を吸収することも、不可能。

 いや、まだだ。

 気を抜いてはダメだ。

 最後の最後まで敗北の可能性を潰す……!


 全身の電気をに――――――。


「っ!!!」


 バランスを崩した黒色の狩衣に肉迫し。

 今まさに、秋人の掌底が腹部へ突き立てられるという瞬間。


「やらせん……!!!」


 夥しい吐血。

 開いた瞳孔。

 手に持った大剣でその身を隠す。

 これだけの連撃を受けて、まだ意識が――――――!



 無理矢理でもいい。


 今はただ、大剣コレをぶち抜くを。






 本来、人体が百パーセントの力を出せば、肉体は自壊を始めるらしい。

 それを防ぐための、脳の制御(リミッター)

 過剰なまでの電圧をその身に宿した秋人は、その()を感覚的に理解していた。

 常体、20から30パーセントに制限された人体の力。

 それを外し、あまつさえ雷による加護を得たらどうなるのか。



 その答えは。

 神のみぞ、知る――――――。




「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」




 かつての師、白蓮曹純への一突。




 六坂(むさか)神社の奥に広がる森林地帯。

 そこに、一筋の雷光が走った。




 音が――――――、遅れる。





 天地を揺らすほどの轟音。


 もはや黒色と言っても差し支えない深い緑色の木々を薙ぎ倒し、直撃を受けたモノは蒸発。


 雷光は周囲の地形を変えながら、地を駆ける。


 野を焼き、地面を抉り、木々を焦がした閃光は、やがて電気火花(スパーク)を残し。


 中空へと霧散する。





 後に残るのは、焼けた植物の匂いのみ――――――。














「うぅ……!! ぐっ……!!!」



 焼けた地に伏す、()()

 既に発現事象は解除されていたが、身に纏う狩衣には点々と鮮血が滲み、地に着く右腕は、曲がってはいけない方向へとその形を変えていた。


 ――――――なんだ、これは。

 明滅を繰り返す視界。

 消失した平衡感覚。

 拍動に合わせ、全身を絶え間なく襲う激痛。

 分かっていた。

 分かっていて尚、対処することができない。


「うっ……!」


 不意に込みあがってくるものを吐き出すと、色鮮やかな血――――――。

 それを皮切りに、徐々に赤く染まる視界。

 顔を伝うドロリとしたもの。


 鮮血。


 血。


 紅く、朱く、赤い――――――。







「……これほどの陰陽術。


 は大きいようだな」




 ――――――――!



 砂煙の中から、こちらへと歩いてくる気配。

 揺れる砂塵の流れをかき分け、姿を現したのは。

 ()



「まさか、『麒麟』を()とはな」



 そう言いながら、曹純は破れてしまった護符を目の前にかざす。

 揺れる、紅い視界。

 加えて、立ち合いの最中、いつのまにやらメガネはどこかへ行ってしまった。

 それゆえに、彼が今どのような表情をしているかは分からない。



 ――――――無傷。

 この破壊の規模で……?



「恐ろしいものだな、人造式神(それ)は」



「……!」



「――――――――やはり。

  

 存在してはいけないものだ」



 曹純が出す一枚の護符。

 第二の式神――――――――!

 霊力を熾そうとするも、全身に力が入らない。

 応戦どころか、これでは――――――。


 しかし。

 その護符に霊力が込められることは無かった。

 曹純は唐突に踵を返し、僕に背を向ける。


「今日はただ、懐かしむためにお前に会いに来た。

 息の根を止めるためではない」


 視界が、揺れる、揺れる。揺れる。


「また会おう、秋人。

  

 次はこのような()ではなく、命の取り合いだ」


 霞む視界の最中、脳内に反響する声。



「お前に、陰陽道を教えなければ――――――――」



 そこまで聞こえたとき。

 

 秋人の意識は、完全に途切れた。





 三日月でもない、半月でもない、名もなき月だけが。


 二人の陰陽師の逢瀬を、静かに見ていた―――――――。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ