第113話『霹靂』
「破ァァァっ!!!!!」
裂帛の気合と共に、僕の眼前に迫る大剣。
後方へ跳躍し薙ぎ払いを回避したのも束の間、真正面上空からの縦斬り。
虚空をきった刀身が、地面に吸い込まれたとき――――――。
眩いまでの閃光と、耳を劈く轟音が周囲の空気を震わす。
神社境内の石畳は破壊され、焼け焦げた地面がクレーター上に剝き出しになっている。
にわかに燻ぶった匂いが充満した転瞬。
土煙を切り裂く、一筋の雷光。
完全に虚を突いた一撃。
しかし、それは僕以外であれば有効だったことだろう。
真っすぐに放たれた雷撃は、僕の体へと吸い込まれ。
体を包む電圧を、更に上昇させる。
「……ふむ。
『麒麟』と同じ発現事象、か」
土煙の中から現れる、先ほどの雷撃を放った張本人。
肩に『麒麟』を担ぎ、悠然と黒色の狩衣を翻す。
「人の手で、そこまで『麒麟』を模すことができるか」
「――――――今度は、僕の番です」
――――――霊力装填。
全身を覆う雷が、更にその電圧を上昇させる。
『武御雷神』。
北斗に残存していた『麒麟』のデータを基に造り上げた、支倉秋人専用の固有式神。
『放電』の式神と銘打ってはいるが、その実、発現事象は『麒麟』と何ら変わらない。
対象との電圧差制御、及び周囲の電荷操作による放電現象。
そして、それを自身の身体に生かした蓄電。
先ほどの曹純さんのように、大剣などの鉄製兵器に雷を纏わせ、雷本来のエネルギーを破壊力へと転化させることも可能。
それ故に、差別化するべきは。
その、運用方法。
「……っ!!!」
曹純さんの息を呑む音が、聞こえた。
呼吸音すら聞こえるほどの超至近距離への瞬時の肉迫――――――。
帯電された雷の放出、それは同等の性質を持つ式神相手には効力は薄い。
その大剣で防がれるのは想像に難くない。
では、どうするのか。
「っ――――――!!!」
掌底で曹純さんの大剣に触れた瞬間。
曹純さんの瞳孔が開き、僅かに痙攣する筋肉。
その隙を見逃さず、大剣へと足蹴を加える。
「ぐっ……!」
境内を転がり、そして大樹を背にようやくその運動が止まる。
雷の発現事象相手に、普段通りの戦闘法は通用しない。
ましてや、相手は僕の式神の大元である『麒麟』。
言ってしまえばコピー元に他ならない。
贋作が、本物に敵うはずもない。
だからこその、小細工。
それは、『麒麟』の吸収量を超える雷を瞬時に流し込むこと。
雷の副次的な性質として観測されるのは、筋弛緩的な事象。
いくら電気に慣れている肉体といえど、許容量を超える電圧への肉体の反応を抑えるのは困難。
「……驚いた。
式神の持てる全電圧を放出し、筋肉のショック症状を誘発か」
曹純さんはその場に起き上りながら、再度大剣を担ぐ。
「――――――それでは、それすらも超えてみせよう」
――――――鳴動。
まさしくその字の如く、神社の境内が、その大気ごと震えていた。
曹純さんの身に纏う電圧が更にその出力を上げ―――――。
その中心に屹立する曹純さんは神々しくその身を輝かす。
「……!!」
――――――式神における戦闘では、貴方より僕の方が勝る。
つい先ほど、師に発した言葉は決して嘘偽りの類ではない。
今現在の僕自身の式神における戦闘技術、十六年前当時の白蓮曹純の実力を加味し、総合的に判断した予想。
しかし。
――――――見通しが甘かった、かな。
頬を一筋の汗が伝うのを秋人は感じた。
『武御雷神』の最大出力を、遥かに凌駕する霊力。
霊力から変換された雷は、周囲を大気ごと焦がし、地を舐めるように這う。
当たり前だった。
十六年という期間を経て、白蓮曹純が昔のままであるはずがなかった。
僕を、未完成ながらも一陰陽師として悪霊と闘えるまで育ててくれた男。
常に強く在り続けるために、僕らの前を歩き道を示してくれた男が、弟子に後れを取るようなことは決してない。
「――――――秋人。
さあ、どうする?」
挑発的な笑みを浮かべる白蓮曹純。
『麒麟』の霊力出力は、完全に『武御雷神』を上回っている。
先ほどのような小細工はもう通用しないとみていいだろう。
放電も、蓄電も、そのキャパも、向こうが完全に上――――――。
ともすれば、僕が打てる手段はたった一つ。
対『麒麟』相手に優位をとれる可能性は、『麒麟』を上回る出力を出すこと。
だったら。
――――――出せばいい。
「――――――制御破壊」




