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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
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第105話『宵の刺客』





 声の方向―――――。

 そこには、俺らに向かって近づいてくる一つの人影。


「ごめんなぁ、邪魔して。

 でもさでもさ、こういうのってお約束やん?

 いいとこに限って邪魔が入るーって」


 人影の表情や背格好が認識できるくらいの距離感。

 軽薄そうな若い男だった。

 髪は金色に染められ、耳はもちろん、唇や鼻にまで開けられたピアス。

 そして、何より警戒すべきは男の格好。

 ―――――狩衣。

 つまりは……。


「陰陽師……」


「おっ、女の子怖っ。何その顔」


「アンタ誰?

 本当にいいところだったんだけど……!」


 ここからは来栖の表情は分からないけど、予想では般若のごとく荒ぶっているのではないか思う。

 俺としては、ほんの少しだけ良かった気持ちと、残念な気持ちが半々くらい……。


「だ~か~ら~、ホンマにごめんって~~~。

 お約束を律儀に守っただけやん!?」


 こんな時間に、こんなところにいる段階で、この関西弁の目標は俺らだろう。

 いずれにせよ、嬉しい邂逅ではないのは確か。


「……来栖、気付いている?()()


「もちろんです。

 何ですか、()()……」


 男の体から立ち上る()()

 ただの霊力では、無い。

 あの霊力を構成する生体光子(バイオフォトン)を俺は知っている。

 それは、―――――こちらに対する明確な殺意。

 男の軽薄な口調とは、相反する性質をもつ霊力が立ち上っているのが確認できた。


「アンタ、誰だ?」


「名前を名乗るときはまず自分からやんか~、と言っても俺は君のこと知ってるで、『』」


「「……!」」


 仁が言っていたタカ派の『旧型』によって構成される組織。

 名は―――――『暁月』。

 他でもない。

 先月の全国的な妖の侵攻も、手引きしたのはコイツらだと父さんから聞いている。


「俺は弥生瑞紀いーます、()()()()()()()()

 なぜかというと、君使いこなせてないからですー」


「……言ってる意味が分からない」


「えっ、マジで!?

 お前さんめっちゃアホやなぁ……。

 だ~か~ら~」


 ―――――男は、懐から護符を取り出した。





「―――――十二天将(それ)は、オマエみたいなカスが持つもんちゃうゆーことや」



「……!!」


 男を覆う霊力量が爆発的に増加、完全なる臨戦態勢―――――。


「……来栖、下がってて」


「いや……、でも……!」


 俺は来栖を手で制し、後ろに下がらせた。

 確かに物量という観点では、二人で対峙した方が有利。

 しかし、俺の式神の、一対一に持ち込んだ方がいい―――――。


「あれ?嬢ちゃんは闘わへんの?

 何かよー知らんけど、けったいな式神使うんやろ?」


「……オマエは、俺一人で充分」


「おっ、おっ!! 何々!!?

 いっちょ前に挑発!!? やるやん自分!!」


 男の額に青筋が立っているのを、俺は見逃さなかった。

 コイツ間違いない。

 ―――――激情型だ。

 単純な挑発にも、これほどまでに食いつくとなれば……。

 もっと冷静さを失わせたところで、詰める。


「……弱いやつほどよく吠えるってね」


「……!!!!

 フフっ、ええやんええやん!!

 闘ろうや『六合』!!!

 グチャグチャにしてやるからなぁ!!!

 ひれふせぇ!!

級長戸辺(シナトベ)』、発動!!!!」


 男の感情と共に膨れあがっていた霊力、それが手に持った護符に集約してゆき、やがて形作られる一振りの


「新太さん……!」


「あぁ……!!」


 男が式神を発動させたのと同時に、変わったのは護符の形状だけでは無かった。

 俺らの背後から流れてくる

 この時間帯であれば凪はとっくに終わり、温度差によって、陸から海へと風が吹くはず。

 しかし。

 そんな当たり前の事象を無視し、周囲の風が()()()()()()()()()



『風』の発現事象―――――。

 自然現象型の式神故に、かなり複雑な術式を内包しているはずだけど、それでもこの男はかなり広範囲の空間内を制御している。

 先ほどまでに穏やかだった海面が波打ち、辺りには砂塵が舞う。

 目算で半径二十五メートル。


「……『六合』。オマエ、アホっぽいから教えたるわ。

 コイツの発現事象は、『風撃』。

 風にまつわる事象なら、()()()範囲内で再現可能や」


 発現事象に関しては、想像通り。

 しかし、気になるのは「想像の及ぶ範囲内」という文言。


「……!

 来栖、霊力を……!!」


 唐突に強まる風。

 それはまるで―――――台風。

 霊力での身体強化で、活動はできるが、それもあくまでも「ある程度」。

 体の機動力の低下は避けられない……!


「よっしゃ、―――――いくで」


「……!」


 肩で担いでいた長槍を構えた。

 俺が辛うじて見えたのは、そこまでだった。


「新太さんっ!!!」


「……っ!!」


 通常よりも、かなり多めの霊力を纏い、跳躍での回避。

 転瞬。

 今しがた俺が立っていたところを、槍が薙いだ。


「……うっさい、女やなぁ」


 コイツ……、この風の中を自由に移動できるのか……!!

 暴風や舞い上がる砂塵で対象の機動力を奪ったところで、長槍で奇襲する―――――。


「激情型のくせに、そこは合理的なのか……!」


()()()()こんなもんやな。

 所詮、風なんて台風くらいの強さが想像の限度や」



「……!!」



 今の今まで吹き荒れていた風が、不気味なまでにピタリと止まる。






「風ってな。

 ―――――()()()()も、できるんやで」













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