表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
100/226

第96話『追想 零』


 

 [7月16日(火) 清桜会新都支部4F 科学解析部技術開発班  1:06]




「いったた……」


 ずっと同じ体勢でいたが故に、肩が鉛のように重い。

 時間も忘れて没頭していたために、時間の感覚が無くなっていた。

 普段であれば泊まり込みなんて日常茶飯事である部署だが、今日は例外。

 僕以外に残っている者はいないようだった。

 そう言えば、誰かに帰宅する旨を伝えられた、ような気もするけど……。

 覚えていない。


「……一時」


 壁に掛かった時計で時間を確認し、既に冷えてしまったコーヒーで喉を潤す。

 そのまま僕は白衣を着て、様々なものが散らかっている乱雑な自身のデスクを後にした。

 全身が痛い……。

 デスクワークの弊害、だな。

 煌々と電灯のついた本部の廊下を歩き、エレベーターに乗り、そして向かう先は―――――屋上。

 僕以外、誰もいないだだっ広い空間。

 ましてや、霊災以降中央区で機能している建物なんてこの清桜会本部ぐらいなものであるため、人工的な光はほぼ皆無に等しい。

 星や月明かりと言った自然光だけが、辺りを照らしていた。


「~~~……」


 思いっきり伸びをすると、体に蓄積された疲労が滲み出てくるようで、少しだけ心地よかった。




 ―――――楓の残した、最後の式神。

 新都の至る所に人工的に組まれた儀式用の霊場。

 大気中の生体光子(バイオフォトン)を永続的に供給し、それを式神の起動及び発動に転化する、名もなき式神。

 その解析が、()()終了した。

 解析に約三ヶ月の期間を有してしまったが、それに見合うモノだった。


 結果から言う。

 この式神の機構及び術式は、()()()()()()()()()


 これまで術者の霊力に依存していた式神を用いての戦闘は、周囲の生体光子(バイオフォトン)という新たな選択肢を得た。

 故に、「一術者一式神」というこれまでの原則が壊れ、式神の同時併用を実践レベルで行うことが可能となる。

 発現事象の複雑化、それによる戦術の拡大―――――。

 加えて、来栖まゆりに端を発する、『制御破壊(リミットブレイク)』。 

 様々なが行われるのは、想像に難くない。




「本部付きの大出世だったろうに……」


 正しい手続きを経て世に出ていたら、の話である。

 役職だけには飽き足らず、後世に名を轟かす術者になっていたのかもしれない。

 しかし、そんな未来は来なかった。

 楓が残したモノは。

 ()()()と、汚名のみ。

 楓は「新型」としての名声よりも、「旧型」としての進化を選んだ。


「……」



 ―――――一体何が、楓をそこまで駆り立てたのか。





 知っていた。

 本当は、気付いていた。

 彼女を構成する()に。


 気付いていて、見ない振りをしていた。



 僕は、一組織の長としての責任よりも、私情を優先した―――――。










「……」


 体の力を抜き、屋上のフェンスに寄っかかった。

 

 蒸し暑い外気。

 陽光で焼けたコンクリートの匂い。

 ―――――屋上(ここ)にいると、どうしても思い出す。



 懐かしい、君の声を―――――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ