20:師との別れ その3
「あー! きもちー!」
笑顔のこっこがハイテンションに叫ぶと、その剣技が一段と加速した。
黒とピンクの髪が逆巻くほど乱れ踊る。
師匠もそれに合わせて一進一退。褐色の肌が汗ばみ、上気する。
みてくれは、まるで二人してダンスでも踊っているように可憐だ。いつまでも眺めていたい。
だが二人からすればそんなに呑気な話じゃない。
互いに互いを、殺そうとしている瀬戸際なのだ。二人とも、相手の剣を避けきれず、うっすらと細かい切り傷を幾重にも作っていた。
そして剣を切り結ぶ音は、さながら工事現場。
こっこの攻撃の速さと、その一撃一撃が、小柄な彼女から放たれたものだと思えないほど重く強烈であるからだ。
さらに、こっこの双剣の驚くほどの回転速度もさることながら、それを師匠は曲刀一本で無駄な動きを一切排して受けきり、こっこの隙を捉えては一閃。確実に切り刻んでいく。
だが、こっこはそれすらも上回る――!
「最っ高! カズキのお師匠さん! いいよね!? もっと……ギア、上げてくよおっ!」
「うそ、まだ速度が……っ!? あなた、本当に人間なの!?」
ドリルが鉄板を穿つように、こっこの双剣の高速回転が師匠の鉄壁の受け流しを凌駕しはじめた。師匠の体に、たちまち無数の傷が浮かび上がる!
マジか、こっこ……勝つのか!? 【受肉】した師匠に……!?
「畜生……、ジェラるぜ、こいつは……!」
ふつふつと湧き上がる嫉妬心。こっこに先に、師匠とのタイマン勝利を奪われてしまうことが、たまらなく、心を掻き立てた。なんか寝取られた気分だ。彼女いたことないけど。
「もらったああああああ!」
勢いが止まらないこっこの斬り上げに、師匠はなんとか刃を合わせるが、とうとう、甘く受けた。いまのこっこがその隙を逃すはずがない。
まるで鋏のように、もう一方の剣で師匠の曲刀を……! 挟み折った!
「……見事!」
「これで、――おしまいっ!」
武器もなく、無防備な師匠へ容赦なく剣を振る。師匠に成す術はない。こっこが、勝った――!
「――【エネミースキル:赤よりも紅い朱】」
こっこが、師匠の首を狩り取るべく放った一撃は、師匠に事も無げに掴み取られた。
師匠は、まだ隠し玉を持っていたのだ……!
それは、炎だった。
師匠を取り囲むように炎が突如として湧きあがり、そして炎がこっこの剣を掴んだ。
師匠の肩から、もう二本の腕が生えたように、燃え上がる炎がこっこの一撃を防いで見せたのだった。
思えば、師匠はこれまで、一度もエネミースキルを使用してはいなかった。
こっこがそうだったように、師匠もまだまだ、本気じゃなかったってことかよ!
「なにそれ……っ! くっ!」
熱気で顔を赤くし、剣を掴んでいた炎の一部を切り取って一時撤退。こっこが俺の元へとやってくる。
あの【受肉】した師匠が、もっとパワーアップしちゃったんじゃ、流石のこっこもヤバいだろ。
「こっこ、大丈夫か? こうなったら二人で……」
「いらない」
……へ!?
「んん!? 落ち着けこっこ! 頭冷やせ! 意地を張る場面じゃないって!」
そもそも二人でも勝てるかどうか……わかんないんだぞ!?
だけどこっこは俺の心配をよそに……目がギラギラに輝いていた。
笑っているのだ。
そんなこっこに、俺は、ただならぬ寒気を感じた……。
「ごめん、カズキ。今、私、どうにも調子が良すぎるんだ。これまでにないってくらい。表ダンジョンの50Fで、ドラゴンを相手に繰り広げた死闘よりも……今がとっても充実してる!」
目線を俺に向けすらしない。目の前の強敵に、とびっきりの熱々ラブコールをぶちまける。
「もっとイケるって! 身体中が騒いでんの! こんなの誰にも、止められないよ!」
マジかよ……。でも本当に、このままじゃこっこは……。
いや、いけるのか……? やれるのか!?
「…………ああ、わかったよ! いってこい! ぶっ倒してこい! こっこ! お前が、ナンバーワンだッ!」
「よっしゃああああああああっ!!!」
キャットファイト。第三ラウンドが開幕する。
もうここまで来たら勝ってくれよ……! 頼むぞ、こっこ!
表ダンジョンの覇者の実力を見せてくれ!
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