14:当たり前の日常とセフレ
「おーい、野球部! こっちこーい! 集合!」
四時間目が終わり、昼休みに入ると、俺はまずクラスの野球部に招集をかけた。褐色に日焼けしたボウズ頭が、言われたとおりにぞろぞろとやってくる。突然のことに、ヤジウマも何人か集まった。
野球部の田中が不思議そうに尋ねた。
「なんだよ? カズキから話しかけてくるとか、珍しいな」
「いや……。この前、マジでサンキューな。変質者に襲われた時、助けてくれて……」
少し照れくさい。人にお礼を言うなんてな。しかも相手が、こいつらだ……。
案の定、予期した通りに、野球部連中はドっと沸いた。
「ああ、そのことかよ! いーっていーって! 俺ら図体デカいし、人数多かったしな! 囲めばビビるって思ったんだよ!」
「それに、助けた相手がミスター裏ダンジョンなんだからよ! 自分一人で切り抜けられただろ? ほんとに礼とかいいって! 友達だろ?」
「え、おいおいお前、世界一知名度の高い高校生と友達ってマジ!? じゃあ俺親友になる!」
「いやいや俺なんてズッ友ですが!?」
「俺ママ友だし!」
「セフレ!」
あーあーバカなこと言いやがる。思わず、吹き出してしまった。こんな低俗な下ネタ言ったやつ誰だよ出てこいコノヤロー。
……気を取り直して、改めて、お礼を口にして、しかし言葉だけの感謝は、なんかしっくりこないなって思った。
だから裏ダンジョンの魔石を、野球部にプレゼントすることにしていたのだ。
「ほらこれ、10Fのボスモンスターの魔石なんだけどさ、綺麗だろ? まあ、あんま価値はねーけど、俺がボス戦で勝たなきゃ手に入らないものだし、野球部の勝利の願掛けのお守りってことで、受け取ってくれよ」
大きさも、ちょうど野球ボール大なんだよな。透き通った紫色で綺麗な球体だ。
カバンから取り出して田中に手渡すと、奴は自身のボウズ頭よりもはるかに高く掲げて、感嘆の声をあげた。
「うおおおおおおおおおおおおお! すげえええええ!」
「ははは、大げさだな。表ダンジョンと同じようなもんだろ」
俺がこれまで、二年間。ずっと裏ダンジョンに潜っていたなんて気付かなかった由来の一つ。
それが、魔石もモンスター素材の換金相場も、表ダンジョンに出現するモンスターの相場と全く変わらないというところだ。いつも母さんに頼んで換金してもらっているのだが、10F前後なんて、稼げて小学生の小遣いみたいなもんだ。
師匠の魔石だって、1000円したっけ。まあ、その程度なんだよ。だからあんま喜ばれても、恥ずい。
「は? んなわけねーだろ」
ん……?
野球部の集団の後ろ。ヤジウマとして集まったほかのクラスメイトの一人が、俺の発言をおもむろに否定した。
「萩原?」
そいつは俺と同じく冒険者をしているクラスメイト。萩原だ。茶髪に染めて、クラス内にギャルの彼女もいる。
「それが10Fのボスモンスターの魔石? スケルトンキングの魔石だってのか? ……ンなわけあるかよバーカ」
なんだと。そんなわけあるから持ってきたんだろ。
これは正真正銘、俺が師匠を倒して、師匠からきちんとドロップした魔石だ。これくらい大きな魔石、間違うはずが――。
「ほらよ。スケルトンキングの魔石、こんなんだぞ?」
「ほえ?」
おもむろに萩原がポケットからスマホを取り出して見せてきたのは、ブドウの一粒と同じくらいの大きさの紫色の球体の画像だった。形もいびつで、ひび割れてある。
……なにこれ? 魔石?
俺がいつも回収するものと、ぜんぜん違う。俺がいつも見ているのは、ゴブリンの魔石だって汚れもひび割れもなく、球状の宝石みたいだってのに。
「……表ダンジョンの魔石って、大体こんなもんなのか? それとも下層だからこうなのか?」
「さあな。それはお前……芒野こっこに聞けよ。俺は25Fまでしか潜ったことねーから、わかんねーよ」
「あー、それもそうか」
「ま、だけどお前。この画像みたいな粗雑な魔石と、お前が持ってきたそれ。本当に同じ値段だと思うか? だとしたらバカだぜ」
萩原は、そう言い残して、彼女と腕を組んで学食に向かった……。くそ、あいつめ。人のことをバカバカと……!
テストの点数普通に負けてるからぐうの音もでねえよ!
……なので、萩原の言う通り、早速こっこに確認してみた。チャットアプリでピポピポパっと……。
既読と返事が秒でついた。
『あたりまえじゃんwww』
当たり前だった……。
『ところで今日、私の推しショップで新作の双剣の発売してるんだけど、一緒に行こうよ! また断るなんて、許さないからね!』
そして学校終わったらこっこと買い物行くことになった……。
未だにこっこと歩ける服ないけど、制服でいいか……。
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