11:震えて眠れ【芒野こっこファンクラブ】
『カズキくんが初コロシアムで初バトル!? がんばれー!』
芒野こっこが自身のSNSに投稿した一枚の写真は、瞬く間に10万の【いいね】を稼いだ。
そこには黒とピンクのアシメカラーで有名な美少女配信者と、黒髪短髪の、ごくごく一般的な男子高校生といった風貌の少年の後ろ姿が写っていた。
そして、芒野こっこの手には、【三番コロシアム】と書かれたTPもきちんと写し出されている。
国内最大手の掲示板には早速、現場に突撃して実況する輩が現れた。負けじと二番煎じ三番煎じ……何十人もがコロシアムへとダイブして、【三番コロシアム】のアリーナへと駆けつけた。
それだけじゃない。ダンジョン配信者、コロシアム配信者、芒野こっこの切り抜きの人まで寄ってたかって、【カメラファンネル】を飛ばし合った。
『世界で一番知名度の高い高校生の実力にせまる!?』
『ミスター裏ダンジョンこと山本カズキがコロシアムに殴り込み!』
『ダンジョンジャンキーVS無敗のプロバトラー! 勝つのはどっち!?』
そのような見出し文句で数々の動画が生配信。
そして、それよりも遥かに多くのやじうま達がスタジアムにひしめき合い、大したイベントもない平穏な日曜日を過ごす予定だったスタジアムは、急遽として入場規制をかけて、臨時の警備員を配備し、職員は泣きながら激務と化した業務に明け暮れた。
――そして始まる冒険者バトル。
最初に登場したのは、筋骨隆々といったスキンヘッドの男。冒険者バトルに詳しい者が見れば、その男が10戦10勝8KOの無敗プロバトラー、【クラッシャー英司】であることがわかる。
さらに詳しい者が見れば、彼が【芒野こっこファンクラブ】の会員であることもわかるだろう。
次に入場してきたのは、黒髪短髪の、平均的な男子高校生といった少年。だがその実態は、表ダンジョン未クリアなのになぜか裏ダンジョンを探索していた、世界一知名度のある高校生、【山本カズキ】だった。
今回、コロシアムをパンク寸前まで追いやった要因の一人である。
そしてこの事態の原因である芒野こっこといえば――。
「みんなー! やっほーやっほー! 芒野こっこでーす! 今日はカズキくんと一緒にコロシアムで遊んでいたんだけど……見て!? このアリーナを埋め尽くす人たちー!? これ、みーんなカズキくんの冒険者バトルを観戦しにきたんだって、マジ!? すごくない!? 私はカズキくんサイドの控室から応援だー! がんばれー!」
―――
【コメント】
『フラレたんちゃうんかお前』(ミラクルチャット:10000円)
『なんで二人で一緒にコロシアムいるんだよこっこ?』
『高校生に押しかけ女房すな』
『フラレたくせにデートしてんじゃん』
『こっことカズキが戦うんじゃないの?』
『相手誰? 新しい企画?』
―――
「だから、私フラレてないからねー!? てか、そういえば相手誰なんだろ? なんかカズキくんと仲良さそうにしてたから、カズキくんの知り合いなんじゃないかなー?」
―――
【コメント】
『相手、界隈で有名な無敗のプロバトラーじゃん』
『スマッシャーじゃん。プロバトラーじゃん。やっぱ企画じゃん』
『クラッシャー英司? ググったらなんか強いらしいじゃん。カズキ大丈夫なん?』
『あいつファンクラブ会員だろ。どゆこと? こっこ、ファンクラブとまだ絡んでんの?』
『は? ファンクラブ?』
『うわファンクラブかよ。こっこマジで知らなかったん?』
『あいつらに何されたか忘れた訳じゃねーだろうな? こっこ、ファンクラブとだけは絶対に今後一生、和解とかすんじゃねーぞ』(ミラクルチャット:10000円)
『ファンクラブとコラボ? ふざけてんの?』
―――
「え……? うそ……?」
バトルが始まるまでの間にコメントを読み進めていた芒野こっこは、不穏な名前と、それに付随する思い出したくもない過去がフラッシュバックした。
途端に青ざめて、しかし、この大盛況のコロシアムの状況を見て、何もかも手遅れであることを悟り……こっこは……、一転して、口を真一文字に結び、決意の表情をしてみせた。
「がんばれー! カズキくん、負けないでー! あんなやつら、ぶっ倒しちゃえー!」
芒野こっこは、開き直った。
弁明も釈明もしない。見苦しい言い訳は逆効果だと瞬時に悟ったのだ。
だから、もう目いっぱい、自分が信じる男の応援をするのだった。
コメントも、最初こそ、こっこを非難するものが相次いだが、彼女の応援姿に感化され、次第に山本カズキを応援するコメントが溢れてきた。
そして【芒野こっこライブチャンネル】に集まったリスナーの士気が最大値まで高まったその時――!
『お待たせいたしました。それでは第三コロシアム、冒険者バトルを開始します。レディ……ファイト!』
アナウンスの合図と共に、会場にゴングが鳴り響いた。
いよいよバトルがスタートし、それと同時に山本カズキは、弓矢を構えて、即座に連射する!
―――
【コメント】
『すげえ、弓使ってる。まず当たらないのに』
『あのスピードで連射して狙って当たるの!? すごくね!?』
『クラッシャー動けてないじゃん。叩き落とすので精一杯なん草』
『あ、やばいクラッシャー【聖域魔法】で矢を全部弾いてる! ウザ!』
『いや弓矢打つの止めないじゃん逃げろしカズキおい!』
『クラッシャークソ野郎だけど立ち回りうまいんよ。地雷系の魔法で逃げ道塞いでる』
『あの図体で武器がククリナイフなんてバトル特化すぎやろ。もっと体格に見合った武器使えし』
―――
バトルは一瞬、カズキが押しているように見えたが、クラッシャーが魔法を駆使して、あっという間に壁際に追い詰めていた。【聖域魔法】で弓矢を無効化し、【反応爆炎弾】を使用限界まで敷き詰めて、さらに、三つ目の魔法である【火炎弾】は、カズキをさらに追い詰めるために、彼に向けて放つもよし。逃げるように誘導して、仕掛けてある【反応爆炎弾】に誘爆させるもよし。
こうなってしまえば、もうクラッシャーの勝ちパターンだった。
接近戦になっても、ククリナイフの変則的な斬撃軌道に加え、それに合わせた三つのスキルがあれば盤石である。
コロシアムで使用される魔法や武器に、相手にダメージを与えるシステムはない。
ただし武器の有効部位が防具にヒットすると、内側に電流が流れる仕組みとなっているのだ。魔法を感知しても同様に電流が走る。
相手を気絶させるか、有効ヒット数が一定に達した方がバトルの勝者となる。
――そして、クラッシャーは、【芒野こっこファンクラブ】が施した細工により、防具に電流が流れないようにしていた。
だからヒット数の取り合いとなっても、電流が流れず、小回りの利くククリナイフ使いのクラッシャー英司が勝つようになっていた。
――事態が、一気に傾いたのは、クラッシャーが使用していた【聖域魔法】の効果時間が、一瞬、切れた時だった。
もちろん、効果が切れるタイミングですぐにもう一度【聖域魔法】を展開して、極力隙間時間のないようには注意していたわけだが……。
カズキは、難なくその隙間を縫って、クラッシャーに二撃を与えて、【聖域魔法】が再び展開される前に範囲外へと着地した。
―――
【コメント】
『は?』
『カズキ消えたんだけど草』
『待ってなんでクラッシャーの後ろにいるんwww』
『逃げ足はっや! これワンチャンあるで!』
『うおおおお! 壁際から逃げた! いける! カズキやれ! 〇せ!!!』
『てかクラッシャー動かんぞ。カズキいきなり消えたから思考停止してるんか?』
『これなんて魔法? それともスキル?』
『うわあああああああああああああああああああ!!!』
『は!!!!!?!?!?!?!?!?!?!?』
『ええええええええええええええええええええええ!?』
『なんで!? クラッシャーなんで倒れてんのなんで!?』
『カズキ勝ったああああああああああああ!? 何したかわかんねええええええええええ!?』
『はあああああああああああ!?』
『やべえええええええええええええええええ!!!』
『草』
『ごめん今ちょうど瞬きしてた』
『ずっと見てたけどふと時計見て、また画面見たら、終わってたんだがwwww』
『うわああああああああああああああ!!!』
―――
割れんばかりの大歓声。スタジアムが震えている。
裏ダンジョンを探索している凄い高校生。そんな肩書きだけしか知らなかった、山本カズキという男の実力を、今まさに、まざまざと見せつけられた。
そんな誰しもが、心震えた――。
「きゃー! カズキくんすごいー! やばいー! あーもー、泣けてきちゃったじゃんー! しんじられない。カッコよすぎー!」
芒野こっこも震えるように、泣いていた。
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