登りたい山
毎日の早朝ウォーキングコースの途中に、小学校がある。
十年ほど前に新設されたこの小学校は、やや郊外ということもあってか、わりと規模が大きい。
広い運動場、近代的なデザインの校舎、バリアフリーを意識したフラットな足元、カラフルで目を引く遊具…、この辺りの子供たちはさぞかし楽しく安全に快適にすごせそうだなと思いながら、いつも横を通り過ぎている。
風の強い日、横を通るのが憚れるほど運動場の砂が砂が舞うのが少々気になるが…この平和な光景が好きで、毎日欠かさず誰もいない小学校を望みながら公園へ向かっているのだ。
この小学校で、とりわけ私の目にとまるのは…校庭の一角にある大きな山である。
2メートルほどの標高を誇る、登れば校庭を見渡す事ができそうな穏やかな山は、もともとは学校の造成の時に余った土を山のように盛ったものだった。はじめこそただのむき出しの土の塊でしかなかったのだが、子供達が踏みしめることで丸くなっていき、雑草が生えて表面が緑色になり…天然の遊具として残ったのだった。
天然の雑草は生命力があり、成長が著しい。 ぼうぼうと生える雑草は山の表面を貪欲に覆いつくすため、山は頻繁に膨張している。
時折、膨張し過ぎた山には人の手が入る。 入学式前だったり、運動会前だったり…時期はランダムではあるが、年に二回ほど伸びすぎた雑草が根元からガッツリ刈り取られるのだ。それはさながら、少年のざんばら頭がいがぐり頭のように刈り上げられるようで…実に胸がすくような、晴れやかな気分になる。切り揃えられて芝生になった雑草は実に手触りが良さそうで、天気のいい日には寝そべって空を仰ぎたくなるのだ。
……自分がこの小学校の生徒でないことが、残念でならない。
あの山に、登ってみたい。
あの小さな山の頂上から近代的な校庭を見下ろして、ヤッホーと口に出したい。
あの山のなだらかな部分に寝そべって、のんびりと空を流れていく白い雲を眺めたい。
だがしかし、私は小学生では…ない。
あの山に登ることは、できないのだ。
素知らぬ顔をして小学生に混じり、山に登ることは叶わない。
閉じられた校門を乗り越えて、山に登ることは叶わない。
開いている校門を通り抜けて、勝手に山に登る事は…やめておくべきだ。
開いている校門を通り抜けて、山に登りたいと教職員に申し出るのも…やめておくべきだろう。
こんなにも近くにあって、どう見ても容易く登れそうなのに、おおよそ登ることが難しい…山。
今日も私は、登りたい気持ちを胸に、小学校の角を曲がったのだった。