変な出逢い方しちまったなと思う。
アパートに帰って来たときにはまだ七時前で明るかったが、気がつくとすっかり暗くなっていた。
途中で気まずくなりながら布団を出しカーテンを閉めたが、カーテンの隙間からまだ陽光が漏れていたところまでしか意識していなかった。
暗くなった部屋で、陽真は気だるく身体を起こした。
手を伸ばして明かりをつけようとして、かたわらのさくらの方を横目で見る。
「明かり……」
つけていいか聞こうとしたが、嫌がるかと思った。
「……もうこのまま寝るか?」
乱れた布団の上で座り直し、ふぅ、と息をつく。
「え、でもお夕飯。はるくん食べてないでしょ」
さくらが起き上がり、周囲をきょろきょろと見回す。
初めて関係していきなり所帯くさい会話かと思ったが、まあ別に悪くないか。
付き合いの順番がごちゃごちゃだ。
変な出逢い方しちまったなと思う。
こいつはこんなのどこら辺から納得したんだろうか。
「ちょっと待ってね。お洋服……」
さくらが起き上がり、布団の上を手探りでさがす。
「はるくん、どこに置いたの?」
手をあちこち動かしながらさくらが問う。
掛け布団を胸元まで掛けての手探りなので、そもそも効率が悪い。
「お前、自分で置いたんだろ」
「ウソだよ、はるくんだよ」
さくらが左右に首を動かして見回した。
「明かりつけなきゃ分かんねえんじゃね?」
陽真は天井から下がる引き紐を見上げた。
「ちょちょちょっと待って。お洋服着てからにして、はるくん」
「本末転倒じゃねえか……」
陽真は立てた膝の上に腕をかけた。
落ちた前髪を何度も掻き上げる。
「あーもういい。このまま寝る」
陽真は、ごろんと横になった。
「え、でもはるくん、夜中にお腹すくよ」
「夜中まで服着ろ」
陽真はそう告げた。
背後でさくらが「うーん」とうなりながら布団の周辺をさぐっている。
陽真は、すぅっと眠気に襲われた。
「温崎さん、今お兄さんのところに泊まってるって言ったっけ?」
会社のオフィス。
背中合わせの席に座る同僚の立花 弥生が、振り向きもせず問いかける。
「いや……アパート帰った」
陽真は答えた。PCのマウスを動かしながら頬杖をつく。
「総務の晴峯がさ」
立花が切り出す。
そういや統真のところに泊まりに行ってる間、遠慮してんのか一度も来なかったなと思った。
布団は一人で一組を使えたが、一度喧嘩が始まると止める人間がいないので延々と続いていた。
おかげで寝不足で、昨夜はさくらの横でぐっすりと寝入ってしまった。
「総務の晴峯、奈良漬け食べさせて酔わせたら恋愛の進展状況について吐いたんだけどさ」
「……何でそんなので酔ってんの? あの人」
陽真は顔をしかめた。
いちおう義理の姉ってことになるのか。ここにきて初めてそう思った。
「なんか、スパイの人がプロポーズしてくれたんだってさ」
「へえ……」
陽真はあいまいな返事をした。
酔っぱらったときは相変わらずスパイと言ってるのか。
たぶん脳内にはそっち刷りこまれちまってるんだろうなと、どうでもいいことを考える。
「んで温崎さん、いい知らせといい知らせ、どっちがいい?」
立花が質問する。
「……いい知らせ二回言ってね?」
マウスを動かしながら、陽真は顔をしかめた。
「いい知らせしかないもん」
立花が答える。
「前者のいい知らせ」
「遠距離の彼氏が、今度こっち勤務になったんです。お祝いして」
マウスをカチカチ鳴らしながら立花が言う。
「……おめでと」
「後者のいい知らせはね」
マウスのカチカチ音が背後から不規則に聞こえる。
「遠距離の彼氏が、今度こっち勤務になったんです」
「同じじゃね?」
陽真はマウスを動かした。
「ごめん。浮かれてて」
「あそ。おめでとう」
しばらくマウスをカチカチと鳴らしていた。
オフィス内には、二、三人の人間がまばらに座っているだけで、非常に静かだ。
カチカチとマウスを鳴らす音が聞こえる。
「晴峯、彼氏の弟さんと会ったけど、これがお兄さんそっくりなんだって」
立花がそう話し出す。
「どっかで間違えてなかったかな、って言っててさ。間違えてたら恥ずかしいなあって」
間違えてたな、と陽真は思った。コンビニのおにぎりを渡されそうになった。
「間違えるほど似てるのかね。双子なのって聞いたら、そういうわけじゃないんだってさ」
立花が言う。
背後でカチカチと音がした。
俺はまったく似てないと思ってるけどな。陽真は脳内で返した。




