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【完結】押しかけゆうれい嫁と御曹司の夫婦生活の事情。  作者: 路明(ロア)
5 身分違いの恋と条件はプロポーズ

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33/51

「あたしが養うので、安心してお婿さんになってください」

「はるくん、おっかえりぃ」

 アパートに着くと、玄関のドアが内側から開き、久々にキャピキャピのやかましい出迎えをされる。

「今日に限って居るなよお前……」

 陽真は顔をしかめた。

「ん? ん? 今日に限ってって?」

 さくらが大きな目を見開く。

 清水にあんな条件を出されたとはいえ、今夜一晩くらいは考える時間があると思ってたのに。

「はるくん、カバン」

 さくらが両手を差し出す。

「ああ……」

 カバンを片手で渡してもう片手でネクタイを緩める。

「ネクタイよこして」

「ああ」

 さくらにネクタイを手渡した。

「シャツ、お洗濯するから」

「ああ……うん」

 ボタンを外し終えると、さくらが脱ぐのを手伝ってそのままシャツを持って行った。

「部屋着、そこに置いたから」

「ん……」

 部屋着に着替えようとして、ハッと陽真は我に返った。


 すっかりさくらとの連携が当たり前みたいになってんじゃねえか。


「いや、待て待て待て待て!」

 着ようとした部屋着を陽真は脱ぎ捨てた。

「別のにする」

 押し入れを開け、屈んで部屋着の置いてある引き出しをさぐる。

「ん? ん? どうしたのはるくん。その服、気に入らなかったの?!」

「もうやめろ、お前。嫁のつもりもないんだろ」

 引き出しから引っ張りだしたTシャツの(えり)に頭をくぐらせ、陽真はもぞもぞと両手を動かした。

 さくらが目の前にスッと正座する。

 

「あたしははるくんのお嫁さんになりたいけど、はるくんがやめろって言ったんだよ?」


 上目遣いで言う。

 なにこいつ。

 陽真は屈めた身体を少し引いた。


 こいつ俺がプロポーズする前に、スルッと結婚を受け入れやがった。


 何か、ガクッと力が抜けて陽真は(たたみ)に手をついた。

「どうしたの? はるくん、具合悪いの?」

 さくらが同じように畳に手をつき顔を覗きこむ。

「いいか、さくら」

「うん」

 顔を覗きこんだままさくらが答える。

「俺は、実家の会社を継ぐ気はサラサラない」

「知ってるよ?」

 さくらは答えた。

「いまの会社に定年退職までいたい人間だし、出世したいとか起業したいなんて野望もない」

「前に聞いたよ、はるくん」

「しかもクソ兄のスパイ活動で副業をバラされて、もしかしたら今の会社を解雇されるかもしれない」

「あっ、じゃあ、そうしたら堂々とうちのコンビニのオーナーやれるね、はるくん」

 さくらがパンッと両手を叩く。

 陽真は無言でうつむいた。

 なんだこれ。

 話が解決方向に行ってないか。

「いや、そうじゃなくて!」

 陽真は顔を上げた。

「俺が失業しても嫁やる気あんのか、お前。マジでやんのか」

「うん、やるよ」

 何でもないことのようにさくらが答える。

「もっとよく考えろ。お前の人生って、これから長いんだぞ。あと六十年はあるんだぞ。下手したら八十年。二十二世紀まで生きるかもしれないんだぞ、お前」

「はるくん、考えるスケールおっきい」

 さくらが目を丸くする。

「明日にはもしかしたら失業してるかもしれない男に、次の世紀まで付き合う気か」

「うん」

 さくらが当然のようにそう返事をする。

 スッと畳に手をつき、折り目正しい感じでお辞儀をした。


「はるくんが失業したら、あたしがコンビニと研究者で養うので、安心してお婿さんになってください」


「……は?」

 ストンと力が抜ける。

 陽真は呆然とさくらの下げた頭を見た。

「あっ、はるくんのご実家にも言わなきゃ。息子さんをくださいって」

 さくらがガバッと顔を上げる。

「……やめろ」

 陽真は顔をしかめた。

「なに先にプロポーズしてんの、お前」

「どうしたらはるくんに分かってもらえるかなと思って、講義中とか一生懸命考えたの」

「……ちゃんと講義聞いてろ、馬鹿」

 陽真は眉をよせた。

「ん? 先にってなに?」

 さくらが目を丸くする。

「いや……」

 すっかり力が抜けて、陽真は四つん這いでちゃぶ台まで移動した。

「……俺は後日」

「うん?」

 さくらがよく分からないというような顔をしたが、女のさくらにあんな堂々としたプロポーズされたら、立場がない。

 これを上回るプロポーズするとしたら、サプライズでもやるべきか。

 いやしかしああいうの苦手だ。

「お夕飯にするね」

 さくらがパタパタと台所に立つ。

「……ああ」

 そう返事をして、陽真はげんなりと座っていた。





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