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【完結】押しかけゆうれい嫁と御曹司の夫婦生活の事情。  作者: 路明(ロア)
5 身分違いの恋と条件はプロポーズ

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「他の条件にしろ」

「はあ?!」

 陽真(はるま)は顔をしかめた。

 社用車のビラーに柄わるく腕をかけ、目を眇める。

 運転手が車内で戸惑った顔をしたが、すぐに黙って顔をそらした。

「他人をくっつけたり離したりして、面白がってんじゃねえぞ、おっさん」

「さくらさんにそれとなくお聞きしました。陽真さんと結婚してもいいという意思はあるのではないかと」

「あいつは、おままごとやってるだけだって前に言ったろ」

 陽真は吐き捨てた。

「あいつ、まだ二十歳だってさ。江戸時代や昭和じゃねえんだから、二十歳くらいならおままごと気分がふつうだ」

「結婚なんて、勢いですよ」

「……生涯独身を選んだやつが言うなよな」

 陽真は頬をひきつらせた。

「わたしは、おんざきと結婚したもので」

 ケッと陽真は吐き捨てた。

「ちなみに、なれそめはどんなだったんです。さくらさんにお聞きしても、どうにもつかめないお話で」

 清水が不可解な感じに首をかたむけて問う。

 陽真は複雑な表情で目を泳がせた。

「今の若い方の出会いもずいぶん変わったのかなと」

「……いつの時代に聞いても訳分からんだろうよ」

 陽真はあさっての方向を向いた。

「陽真さんからご説明いただければ助かるんですが」

「……大学の階段から落ちて昏睡状態になったあいつが、そのあいだ生霊飛ばしてなぜか俺のアパートに迷いこんで、寝てた俺が寝ぼけて言ったらしいことがなぜか気に入って住み着いて、どういうわけか夫婦ごっこ始めて、起きたあと夢だと思ってたら実在する俺とバッタリ遭ってビックリして、そのまま惰性で夫婦ごっこ続けてる。いまここ」

 陽真は早口で一気に説明した。

 どうだ、分からんだろと口元をひきつらせながら清水を睨む。

 清水は、珍しくポカンとしていた。

 ややしてから、ふぅ、と息をつくと、おもむろに腕を組む。

「……さくらさんのお話とほぼ一致します」

 冷静にそう返してきた。

 さすがベテラン社長秘書。動じねえなと陽真は頬をさらにひきつらせた。

「ひとことでまとめると、これ以上ない運命的というか……」

「まとめんな。しかも都合のいい方向に」

 陽真は眉をよせた。

「それで、こちらの条件は飲んでくださるんでしょうか」

 清水が問う。

 強引に話進めるの本当に慣れてやがんなと陽真は思った。

 親父と手法が似ているが、どちらがどちらに影響したのか。それともたまたまか。

「情報次第だ」

 陽真はそう答えた。

「では、プロポーズを終えたとの報告のあとで」

 清水がそう告げて社用車のドアを開ける。

「ちょっと待て」

 陽真は、清水の腕をつかんだ。

「そうやって反故にするんじゃないだろうな」

「反故にされたくなければ、会話の録音くらいしておくべきだと思いますが」

 清水が口の端を上げる。

「交渉ごとのさいも、あとで裁判になることを考える上でも大事ですよと学生時代にお教えしたでしょう、陽真さん」

「てめ……」

 清水が自身の胸ポケットをさぐる。小型のボイスレコーダーを陽真の顔の前に差し出した。

「仕方がないので、いまの陽真さんとの会話は録音して差し上げました。元家庭教師としては減点したいところですが」

 腹いせにボイスレコーダーをひったくろうと陽真は手を伸ばした。清水がスッと避けて胸ポケットにしまう。


「では。さくらさんからのプロポーズされたとのご報告を楽しみにしています」


「他の条件にしろ」

 社用車に乗りこもうとする清水に向け、陽真は声を張った。

「こちらのメリットと合致しません。メリットのない条件を提示されたら、断るだけです」

「……のやろ」

 譲歩の話し合いとかねえのか。さすが親父の懐刀だなと辟易する。

 ほかに提示できる条件はあるだろうかと頭の中をさぐったが、清水がメリットと認識するのは自身が会社の跡を継ぐのを承知するくらいしかないだろう。

 

 今度は、清水の野郎の弱味も握っとこ。


 陽真はそう思い、目を眇めた。

 エンジンをかけ発車する社用車の後部車体を、陽真はじっと睨んで見送った。





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