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【完結】押しかけゆうれい嫁と御曹司の夫婦生活の事情。  作者: 路明(ロア)
4 スパイ兄と悪徳秘書と好きな人はスパイ

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29/51

「俺の嫁のつもりでいたんじゃ……」

「はるくん、お弁当箱は?」

 夜八時。

 陽真(はるま)がアパートに帰ると、さくらが台所で洗い物をしていた。

 こちらに手を差し出す。

 ここのところさくらの来る時間帯が不規則だったので、前日の洗い物が少し溜まっていた。

 来られる前に片づけておこうと思っていたが、見つかったか。

 素直に通勤カバンから弁当箱を取り出し、渡す。

 さくらが受け取ってパカッと開けた。

「今日も完食です」

 嬉しそうに言う。

 例えばどこかに捨ててるんじゃないだろうかとか、そういうことは疑わないんだなと思ってしまった。

 ちゃんと食ってるけど。

「完食はしたけど、いい大人の弁当にイカさんウインナーとか入れるのよせ」

「あれウサギさんだよ。はるくん」

 さくらが目を丸くする。

「何でもいいからウインナー入れるならふつうの形で入れろ。“温崎さんの彼女さん、お料理好きなんですねーくすくす” とか言われる方の身にもなれ」

「え? あたし、会社ではるくんの彼女とか言われてるの?!」

 さくらが顔を真っ赤にして後退る。シンクに背中をつけて、「ひぇ」と小さい声を上げた。

「……何のつもりでいたの? お前」

「なんだろ?」

 さくらが首をかしげる。

 ハイパークラスの大ボケだとは思ってたが、ここまでだったか。

「俺の嫁のつもりでいたんじゃ……」

「でもはるくんが、もっと大人の色っぽいお姉さんがいいって言ったし」

「……色っぽいお姉さんはまでは言ってない」

 陽真は顔をしかめた。

 こいつにしてみれば、元々は夢の中だと思っていた生活から始まっているのだ。そこからの何となくの惰性でここに来ていたのだろうか。

 大好きだの格好いいだの言っていても、夢の中の続きの感覚なのか。

「でもはるくんはお嫁さんのつもりでいると思ってたんだ」

「思ってない」

 陽真は眉をよせた。

 くるりとさくらに背中を向ける。

「その後、清水は何か連絡してきてんの?」

 言いながら陽真はネクタイを緩めた。雑に外しながら和室の方に入る。

「 “陽真さんの承諾を得たから、黙秘権は行使しなくていいですよ” って言われたよ」

 さくらがにっこりと笑う。

 陽真は無言で顔をしかめた。

「清水さんて、いい人だね」

「……どこがだ」

 シュル、とネクタイを外しハンガーにかける。

「まっててね、はるくん。お夕飯すぐあっためるから」

 そう言い、さくらが鍋に火をかけた。

「清水になに聞かれたの」

「就活のさいには、おんざきコーポレーションの面接を受けてみませんかって」

 ぶっと陽真は吹き出した。

「開発部門もいろいろあるから、希望の部門があればとか」

 あとは……とさくらが宙を見上げ、記憶をさぐる仕草をする。

「社長秘書に興味はありますかとか」

「社長秘書?」

 シャツのボタンを外しながら、陽真は聞き返した。

「自分の後継にでもする気か?」

 ムリだろと思う。

 開発の方ならともかく、さくらのようなぽややんとした奴は秘書には向かないと思うが。

「陽真さんが社長を継いだら、一人くらいは近しい方からの秘書がいた方がいいですからって」

 さくらが言う。

 陽真は頬をひきつらせた。そういうことか。

 まったく油断ならない。

 頻繁にさくらと連絡を取り合って取りこもうとしていたのは、そんな作戦で来るためだったか。

「あの野郎……」

 陽真はつい低い声でうめいた。

「将を射んと欲すればなんちゃらの戦法で攻める気か」

「ん? どういうことかな、はるくん」

 さくらが目を丸くする。

「お前、馬だとよ」

 陽真は言った。

 鍋がグツグツと音を立てる。

 さくらがくるくるの癖毛(くせげ)を両手で軽くつかんだ。

「ごめん、はるくん。あたし理数系は好きだけど例え話とかはあんまり」

 ああ、そんな感じだなと思う。

 やっぱり秘書には向いてないわこいつと思った。行間の読めないポンコツ秘書になりそうだ。

「つまり、俺におんざきの跡を継がせるためのエサにされかけてるわけ、お前」

 さくらが目を丸くする。

「馬鹿か。俺がそんな見え透いたもんに食いつくとでも」

「はるくんがあたしに食いつく……」

 さくらが宙を見上げてセリフを反芻した。

 陽真はシャツを脱ぎ、何となくもういちど着た。

 さくらがふたたび目を丸くする。

「ん? ん? いちど脱いだシャツ、なんでもういちど着ちゃうの? はるくん」

「……お前、変なとこでセリフ切んな」

 陽真は眉をひきつらせた。





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