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【完結】押しかけゆうれい嫁と御曹司の夫婦生活の事情。  作者: 路明(ロア)
4 スパイ兄と悪徳秘書と好きな人はスパイ

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28/51

「今日もスパイのお仕事ですか?」

 会社の昼休み。

 コーヒーでも買ってくるかと陽真(はるま)は外に出た。

 オフィスから近い非常階段を降りて会社の植え込みの横を通り、近くのテナントビル一階にあるコンビニの入り口前に来る。

 コンビニから、グレーのスーツを着た小柄な女性が出てきた。

 目が合う。

 女性は、もじもじとした感じで下を向いた。

 誰だっけと思う。一、二度ほど喋ったことがあったような。

 そして軽く嫌悪感を覚えたような記憶。

 

 晴峯 桃香(はるみね ももか)


 思い出した。総務の子だ。

 よく分からんが、玉の輿を狙っているような狙ってないような疑惑のある子。

 立花(たちばな)が、好きな相手がスパイだとかなんだとかよう分からんことを聞き出した話をしていたが、分からなすぎるので無視する。

 晴峯(はるみね)が、頬を赤く染めてうつむく。もじもじと口元を歪めながら口を開いた。


「きょ、今日もスパイのお仕事ですか?」


 「は?」と陽真は口を半開きにした。

 玉の輿にのる質問のつぎはスパイに挨拶ごっこだろうか。

 意味わからん。

「……晴峯さんだっけ」

「えと、外で張りこみしてたら、お、お寒くないですか?」

 晴峯が下を向いたまま、はにかんだように笑う。

 張りこみ。

 スパイってこんなビジネス街であからさまな張りこみすんのか。

 陽真は周辺のビルを見上げた。

「よ、よろしければ、わたしの上着とか持ってきますか?」

 陽真は眉をひそめた。

 どちらかというと外は少し暑い。わざわざ要るのか。

 相変わらず話の噛み合わないド天然な子だなと思う。

「ああああ、そ、そうか。男性だとサイズが違いますね。ごごごめんなさい」

 晴峯がわたわたと手を振る。

 スパイは男性って設定なのか。

 なんだこの子。妄想癖でもあるのか。

「あ、えと」

 晴峯がおろおろと自身の買い物袋を見る。

 会社に買い物袋を常備しているんだろうか。女性社員はやることが細かいなと思う。

 立花みたいなのは、あまり気にせずに買った弁当を手で持って帰社したりするが。

「こここここれ、お口に合うかどうか分からないんですが」

 晴峯が筋子のおにぎりと缶コーヒーを差し出す。

「張りこみ中にお腹すくかと思って」

 ますます意味分からん。

「……弁当持ってきてるんで」

 後退りしながら陽真は断った。

 さくらが作った弁当だ。

 毎日ムリヤリ持たされて邪魔だとしか思っていなかったが、初めて役に立った。

「そ、そうか。そうですよね。お口に合わないですよね……」

 晴峯が泣き笑いのような表情になる。

「ア、アクアパッツァとか、ミネストローネとか、そ、そういうお弁当ですよね」

 アクアパッツァもミネストローネも弁当にはものすごく向いてないと思うが、何なんだこの子。

 ここまで来ても話がさっぱり見えてこない。

「あの俺、コーヒー買いたいから」

 陽真はコンビニ店内を親指で指した。

「あ……」

 晴峯がなぜか哀しそうにこちらの顔を見上げる。

 なんだこの目。

 まるで俺がフッたかのような。

「そ、そうですよね。スパイってお忙しそうですものね」

 晴峯が作り笑いをする。

「お、お疲れさまです」

 ペコリとお辞儀をする晴峯に、陽真は「あ……うん」と返し、コンビニの入口ドアを開けた。




 缶コーヒーを買い、コンビニから出る。

 会社の門の横の植え込みでかがむ不審な男を見つけ、陽真はそっと近づいた。

 いざとなったら缶コーヒーを武器にしようと構える。

「おい」

 男に背後から呼びかけた。

 男がビクッと背中を震わせ振り向く。


 兄の統真(とうま)だ。

 

 まあ、背格好で何となく分かってたけどなと思いつつも、陽真は缶コーヒーを構えたままにしていた。

 一歳違いだが、あるていど大人になってからは背格好も顔立ちもよく似ていて、知らない人間には双子かと聞かれる。

 世界一ウザい相手だが、自身とよく似た容姿を間違えるわけもない。

「何やってんだお前。通報するぞ」

「別に」

 統真が立ち上がりスーツについた植え込みの葉をはらう。

「スパイみたいなことしやがって。増税と電気代値上げで不動産屋が倒産でもしたか」

「増税と電気代値上げが響くのは、お前のいる業種の方じゃないの?」

 統真が挑発するように口の端を上げて笑った。

 二人で睨み合う。

「何しに来た。吐け」

 陽真は語気を強めた。

「お前が職場を解雇されるようなネタはないかと思って」

「前からそうやってちょくちょく探ってやがったのか、卑怯もんが」

 昼休みの時間をめいっぱい使い、睨み合い続けた。





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