「何しに来た」
「何しに来た」
コンビニの駐車場。一ヵ月ほど前に満開だった桜の樹は、青々と葉を繁らせ外灯に照らされている。
社用車の助手席に乗り込もうとした清水に陽真は問うた。
「特にこれといった用事はないですよ」
清水が答える。
「陽真さんの義理のお父さまになるかもしれない方です。なるべくご様子を見させていただこうと」
「勝手に決めんな」
陽真は目を眇めた。
明かりが煌々とついたコンビニの店内を見やると、さくらが奥のスタッフルームらしきあたりから出てきて父親と何か話している。
起きたのか。
じゃあ、これからアパートに帰っても一人か。
まあいいけどなと思う。
「さくらさん、ご在宅だったんですね。これから陽真さんのお宅に?」
「来ない」
陽真はそう答えた。
今の今までいたかもしれないが、こいつに言う必要はないだろう。
「いろいろお話をしたいのですが、今からではご迷惑ですかね」
「JDだぞ。変に取られたくないならやめとけ」
陽真はそう返した。
「ではまたメールかお電話で」
「何の話するわけ」
ついついそう問う。
「さくらさんが誰と話そうが誰と接触しようが、身内でもないあなたには関係ないのでは?」
「ふつうに気になるだろ。大企業の中枢にいるおっさんが、ただのぼんやり女子大生に」
「ただのぼんやりした方ですか?」
清水がそう問う。
陽真は目を眇めた。
「……たしかに専攻が量子力学なんて俺もびっくりした。だが、会社に役に立ちそうなジャンルやってる学生なんて、山ほどいるだろ。さくらの成績は知らんけど、あいつより成績優秀な学生も腐るほどいるはずだ」
「お調べしましたが、なかなか優秀ですよ」
「……なにそこまで調べてんだ」
陽真は眉をよせた。
「そうやって俺やさくらの周辺を無駄に引っかき回してる真意は何だ」
清水が少し身を屈める。
運転手と短いやり取りをすると、いちど開けていた車のドアを閉めた。
宙を眺める。
答えを考えているのか。
「最終的には、会社の将来のためですね」
ややして清水がそう答えた。
「まあそうだろうとは思ってるが、財閥ってわけじゃないんだ。俺か統真にこだわることないだろ。いざとなったら、社内の誰か優秀なやつを社長に着かせろ」
「じゃあさくらさんに……」
清水が店内を眺める。
「は?」
何言ってんだ、こいつ。
陽真は、店内で大口開けて笑っているさくらを眺めた。
「冗談だろ。社会にも出たことない学生だぞ。三日で倒産するわ」
「金銭の感覚がおかしな方なんですか?」
清水が問う。
「……買い物してんのは見たことない」
「陽真さんのご飯の材料はどうしていらっしゃるんです」
清水がわずかに目を見開く。
「俺が適当に買ってきて冷蔵庫にぶっ込んでるやつを勝手に使ってる」
清水が目を丸くしたままコンビニの店内を見る。
さくらがバーコードリーダーを手にレジの仕事をしていた。
「やりくり上手な方なんですねえ」
「どうでもいいからいちいちあれの評価上げるな」
何を考えてるのか知らんが、さくらがこいつの相当のお気に入りだということはここまでのやり取りで分かった。
ぽやぽやした性格のふつうの女子だと思うが。
家事や料理は古風な面もあるが。専攻が量子力学というのは恐ろしく意外だったが。
「ところで」
清水が車のフロントドアに身体をあずけ、腕を組む。
「その後、統真さんと連絡は取っていますか?」
「取るわけねえだろ」
陽真は即答した。
「ああ、そうなんですか……」
清水が呟く。
仲の悪さは知ってるだろうに、何だこいつと思う。
梅雨が近いのか、少し湿気を帯びた風が吹いた。雨が来るだろうかと陽真はチラッと夜空を見上げる。
「あんた、こっちにスパイ放ってたってことは統真にもそういうの付けてんだよな」
清水はさりげなくあさっての方向を見た。
本当に食えない秘書だよなと陽真は頬をひきつらせた。
「俺に聞かなくても、統真の動向なんて分かってんじゃねえの?」
清水は特に答えず桜の樹の方を眺めている。
「あいつの情報なんかあるか?」
ためしに陽真は問うた。
「情報の見返りは?」
清水が尋ねる。
「取るのか?!」
「見返りによります」
そう清水は答えた。




