本当は独占欲でもあるのではと
「さくらさんに言われました。陽真さんに黙秘権を行使しろと言われたと」
おんざきコーポレーション系列のバー。
カウンター席で清水はオン・ザ・ロックを口にした。
「馬鹿か。そのまま伝えてる奴があるか」
陽真はぼやいた。
ブラック・ルシアンを注文する。
「ウォッカ好きですね」
「カクテルの中身は考えたことねえよ。今たまたまコーヒーが飲みたかった」
コーヒーリキュール入りの黒いカクテルがカウンターに置かれる。
「あんた何なの何回も。話なら電話でもできるだろうが。何ならライン」
「なるべくなら自社の売上に貢献したいじゃないですか」
清水が答える。
陽真は顔を歪めた。立派な秘書さまだよなと内心でぼやく。
ずっと独身のまま親父に仕えて、むかし家庭教師をやった社長のボンボンに成人してまで付きまとって、なにが楽しいんだかと思う。
「ボトル入れてんのか?」
陽真はカウンター内側の酒棚を眺めた。
「入れてます」
「そのチョコレートみたいな匂いするウイスキー?」
「グレンリベットですが。陽真さんも入れます?」
「いい」
陽真は答えた。
「そんな手でちょくちょく実家とつながり持たされてもな」
「他意は無いですよ。統真さんと子猫同士みたいな喧嘩をしていた陽真さんが、お酒の話ができる年頃になったのが嬉しくて」
……だから子供の頃から知ってる人間はイヤなんだと陽真は顔をしかめた。
「今はさしずめハブとマングースですか」
ブフッと陽真はブラックルシアンに泡をつくった。
「お前か……」
「はい?」
清水が平然とカウンターの方を向き返事をする。
「……さくらに妙なイメージ植え付けたのはお前か……」
眉根をきつくよせる。
さくらの奴、マジでどんだけの頻度でこいつと連絡取り合ってたんだ。
「さくらさん、何か言っていらっしゃいましたか?」
「俺と統真のバチバチの場面見て、ハブとマングースって」
「統真さんが、そちらへ伺いたいとおっしゃっているとさくらさんにお伝えしたさい、お二人が顔を合わせるとそんな風だとお教えしましたが」
清水がオン・ザ・ロックを口にする。カラン、と氷の音がした。
「間に挟まれて、さくらさん大変だったでしょう」
「あいつハイパークラスのド天然だから、俺も統真も毒気抜かれて喧嘩にならなかった」
「それは……」
清水がくすくすと笑う。
「いい奥さまになりそうですねえ」
「いい加減にしろ、お前」
陽真はブラックルシアンを飲み干した。トン、とグラスを置く。
「カミカゼ。それとサムライロック」
バーテンダーに注文する。
「……お口の中が変になりませんか?」
「うるさい」
先に置かれた日本酒ベースのカクテルに口をつける。
「陽真さんの奥さまとなったら、社長夫人になる可能性もある方ですからね。やはり泰然自若に構えている方がよろしいかと思っています」
「大きなお世話だ。俺はさくらと結婚する気はないし、実家継ぐ気もさらさらねえ」
陽真は眉をよせた。
「さくらさんは、その気なのでは?」
「あいつはお飯事やってるだけだ。お前に説明しても通じんだろうけど、たまたま俺のところに来て、そのあと起きた偶然に酔ってる」
「ならば陽真さん」
清水が言葉を遮るようにして言う。
「さくらさんが誰と話そうが関係ないのでは? さくらさんを突っぱねておきながら、わたしと話すのはやめろと勝手な指示をする。いったい何の権利があって」
陽真は口をつぐんだ。
ややしてから、眉根をよせる。
「お前がつまんねえこと焚きつけるからだろ。俺に関係しないことなら関知しねえよ」
「成程」
清水がゆっくりとこちらを向く。
「あなたに関係のないことなら、さくらさんといくらお話しをしても構いませんね」
陽真は無言で清水の顔を見た。
「あなたはさくらさんの夫でもないし身内でもない。さくらさんは赤の他人で成人した方だ。あなたに行動や関わる人間を指図されるいわれはありません」
陽真は無言でウォッカベースのカクテルを口にした。しばらくチビチビと口をつけたあと、グッと飲み干す。
言われてることは正論だ。
まったく間違えていないのに、すぐに納得できない。
こいつはたださくら個人の権利を語っているだけなのだろうに、本当は独占欲でもあるのではと揶揄されているような気分になる。
煽ってんのか、こいつ。
「……スレッジハンマー」
陽真は次のカクテルを注文した。
もはや惰性で飲んでる感がある。酒があとに響きにくい体質なので平気だろうが、何をやってるんだかと自分で思う。
「……勝手にしろよ」
そう陽真は返す。
清水がにっこりと笑った。




