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1年経ちましたよ! 皆さん仲良くしてくれてます!

 都会のご飯美味しいです。沢山盛った料理を前に御満悦。


「おーい、アリサ。今日もいい食べっぷりだな」

「はーい、どうもミミーさん」

「隣り良いか?」

「どうぞー」


 ここに来てもう1年が立ちました。長かった気がしますし短かった気もします。こうして食堂でご飯を頂くのも随分と慣れたものです。おかわり良いですか?


「おはようアリサさん、今日の夕食当番って貴女でしたっけ?」

「おはようございますチェルシーさん。当番は私とムジトットさんですね」

「やった! 貴女のご飯楽しみにしてるわ!」

「御期待に沿えるよう頑張ります」


 最弱聖女だなんて当初は遠巻きにされていましたが今では皆さんと仲良くさせてもらっています。優しい人達ばかりですね、聖女の素質を持っている方々なので元々そういう性質(たち)なのかもしれません。雑談楽しいです。今度お休みの日にみんなで流行中の演劇見に行く約束をしたのでワクワクしてます。

 それと1年経ったということで新たに来た見習いの子達を見て自分も去年はあんな感じだったのかなーと懐かしく思いました。初々しくて可愛いです。


 しかしこの1年、本当に色んなことが在りました。過ぎた年月に思いを馳せながら私はその中でも一番嬉しかったことを思い浮かべ―――


「…………」

「あ」


 来た。彼女が現れるとまるで世界の中心が()()に存在するような気がしてきます。自然と皆さんの意識が彼女へと集まります。


「お帰りなさいセシル!」


 そう、それはセシルさんでした。

 私がセシルさんに挨拶をしたのを皮切りに他の方々も彼女へ挨拶していきます。セシルさんはそれに目礼を返しながら食堂を優雅に歩きます。歩く姿でさえ美しいのは本当にすごいなと思います。セシルさんは才能に胡座を掻かない努力家なので普段からの振る舞いも頑張って身に付けたのでしょう。本当に尊敬します。


 天才の名を欲しいままにするセシルさん。彼女は能力の高さが認められ限定的にですが見習いでは無く一人前の聖女として扱われています。たった1年でこの扱いは快挙と言って良いです。

 セシルさんは教会から依頼が来ると他の聖女様方と共に外へ出て神事や退魔を行います。格好いい。でも一度外に出たら二日三日、長ければ数日は帰ってこないので私としては心配になります。今回だって昨日から外に出て今帰ってきたばかり。無理をしてないといいんですけど……何て考えていたらセシルさんが私の後ろに立っていました。

 これはあれですね、いつものです。


「―――ただいま、アリサ」

「わっ」


 セシルさんが私を後ろから抱き締めてきました。

 これ、もう何度目かになるんですけど未だちょっと慣れません。密着するセシルさんに胸がドキドキしてきます。


「癒やされる」

「え、えーと……ありがとうございます?」


 最弱聖女である私の癒やしなんてたかが知れていますが、それとは無関係にアリサさんは私を抱き締めてリラックスしています。私はと言えば逆に落ち着かず顔もちょっと熱くなってきました。


「まーたやってるよセシル様」

「それだけアリサさんが大好きなんですよ」


 ほら見られてますよ、恥ずかしいです。皆さんだって初めの頃は私と一緒になって驚いていたのに……いつの間にか慣れすぎだと思います。そして視線が何だか生温かい気がします。


「……あと1時間」

「朝食の時間終わっちゃいますよー。セシルもご飯食べましょう?」

「アリサの料理が食べたい」

「今日は夕食担当なんです」

「じゃあ代わりに食べさせて」

「良いですよ」


 そんな他愛の無いやり取りをセシルさんと交わし、私は何とか彼女を説得して離れてもらい食事を再開することに成功しました。ほらほらセシルさんも食べましょうよ私の顔を見ててもお腹は膨れませんよ? はいあーん。いっぱい食べて英気を養ってくださいね。


 ―――一番嬉しかったこと、それはあの氷のようだったセシルさんと仲良くなれたことでした。人生何が起きるかわかりませんね。


 私は隣り合って座る友達と共にご飯を食べる。それはとても温かな時間で自然と笑顔が溢れてきます。そんな私を見てセシルさんも笑顔を……笑顔……笑……ううーん……

 セシルさんってば表情が殆ど無です。どうやら感情を(おもて)に出すのが苦手なようで笑い声を上げている所なんて同室の私でも見たことがありません。思ってることが直ぐ顔に出るらしい私とはこの部分でも違いますね。いつかセシルさんの満面の笑顔を見てみたいです。





 ●●●●





「貴女を拒絶していた2ヶ月程無駄な時間は無かったわ」

「……私はそうは思ってませんけど」


 夜、同じベッドに入りながらセシルさんはそんなことを言ったので否定します。あとこのベッドなんですが他の部屋と同じ一人用のが2つ(ツイン)だったのにいつの間にか大きなベッド1つ(クイーンサイズ)に変わってたんですよね。不思議です。全然嫌ではないですけどセシルさんの麗しすぎるお顔がこうも近いと緊張して寝辛いのが難点と言えば難点です。消灯してるのに眩しいです。

 それに並んでみるとセシルさんのスタイルの良さがよくわかります。私よりも背が高く手脚はすらっとして細い、それなのにお胸やお尻は女性らしく大きい。まだまだ成長することを考えると将来がすごく楽しみになる器量です。本当に同じ13歳なのでしょうか? きっと目が眩むぐらいの美人さんに、それこそ“光の大聖女”エリザヴェータ様の再来だと言われるぐらいに……これ実際に言われてましたね。

 私はといえばお婆ちゃんっぽいって言われたりします、髪色の所為でしょうね仕方ありません。スタイルだって……あ、ちょっと服がキツく……太った? ……いやいやおデブでは無い、はず……うん、考えないようにしましょう。都会の甘味が美味しいのが悪いんです。早朝ランニングの時間を延ばしましょうか?

 そんな2人分の温もりを包むベッドの中で私はここに来てからの思い出に浸っていく。


「あの頃が在ったから私はもっと頑張ろうって思えたんです。無駄だなんて一つもありません」

「アリサ……」

「お恥ずかしながら聖術の腕は全然上達してませんけど」


 私なりに頑張ってきたつもりですが結果は実らず。相も変わらず私は歴代最弱のまま……きっと努力が足りなかったんでしょうね。まあ少しは成果が在ったのか浄化は遅々としながらも発動出来るようになったし他の聖術も使えはしないですが理論だけは頭に入っています。

 浄化と言えばお料理の時はいつも助かってますね、お肉や魚介の臭み取りに有効なのは自分で使って知った嬉しい発見です。


「皆さん優しいです、私と違って聖女様に相応しい……駄目な私にゲイル教官は根気強く教えてくれますし、皆さんは隔意無く接してくれて……お陰様で私は毎日楽しいです」


 私がそんな常日頃思っていた感謝を口にすると。


「…………」

「セ、セシルさん?」


 セシルさんが私を抱き締めました。それは朝のスキンシップよりもずっとずっと強くて、ちょっと痛いかな? なんて思う程の強さでしたけど、悪い気はしなくて……


「アリサ。それはね、私達が優しいんじゃ無い」

「え? でも」

「確かに一番簡単な浄化を普通の倍以上も時間を掛けて発動する割りには効果は半分だし、体力は有るのに聖闘術はセンスの欠片も無い、そして聖術を扱う上で必須の自らの()()を1年経った今も分からずにいるし、それに他人(ひと)からの悪意に鈍感だしそもそも嫌がらせされても気付かないし、根本的に間抜けなんだろうって感じなのがアリサだけど」

「…………」


 あ、あれー? 今すっごく責められてませんか? 責められてますよね? 流石にちょっと傷付き―――


「だけど、皆貴女のことが好き」

「――――――」

「好きだから優しくするの」


 セシルさんはそう言うと私の頭を撫でます。私は上手く言葉が出せませんでした。うー照れ臭い。セシルさんって表情に出にくい代わりに言動で気持ちを伝えてきます、なので最近はずっとこんな感じです。あとちょっと子供扱いされてる気がします。


「あ、ありがとうございます、私も皆さんのことが大好きです」

「分かれば良い」


 あれ、セシルさんの表情が心なしかすごい得意気(ドヤ)顔に見えます。気の所為ですかね? 

 少し経つとセシルさんは抱擁を解いて布団を被り直します。


「それじゃあ寝ましょうか。夜更かししては駄目よ」

「はい」

「私が居ない時も」

「うっ」


 も、もしかしてバレてる? 誰にも見付からないようしてた筈なのに……

 セシルさんはまるで苦笑したように息を吐くと私の鼻を指先で弾きます。痛い。


「おやすみなさい」

「うぅ、おやすみなさい」

「あとまたさん付けで呼んでた」

「まだ慣れないんですよぉ……」


 セシルさんはそれ以上追究せず目を閉じて眠りに入ります。私は赤くなってるかもしれない鼻を押さえながら同じように目を閉じる。そうしていると懐かしい気持ちになってくる。

 そうだ。私とセシルさんが仲良くなり始めたのもあの日、私が夜更かしをしていて―――……すやぁ。

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