皆で夕食、お腹いっぱい食べてくださいね!
調味料を擦り込んだ鳥胸肉で下拵えした野菜やパンを包み綿糸で縫合します。うん、綺麗に包めましたね。
フリアエのお肉は皮を剥がされ部位ごとに分けられていますが一つ一つがとても大きく、これなら丸鶏じゃなくてもローストチキンが作れるのでは?と思って挑戦してみましたが上手く行きました。形はほぼ球体に近くなってて面白いです。そうしてローストチキンならぬローストフリアエを深めの天板に乗せてオーブンへ、火を入れれば後は様子を見ながら焼成して完成予定です。
「主力はこれで良いですね。ふっふっふ~、今晩は鳥尽くしですよー」
包丁を手に取れば常に発動している浄化の力が柄から鋒まで包み込む。その刃でまな板に置いていた肉を一口大にカットしていき鍋の中へと放り込んでいく。このお肉はローストフリアエを作る時に厚みを調整した際に削ぎ落とした物で、トマトを中心とした具材と共に煮込みにしようと考えています。
「後は蒸し鳥のマリネソースに揚げ物……肉や野菜の端切れは朝食のオムレツに回しましょうか」
ささみを蒸し、もも肉をタレに漬け、切れ端を叩き切ってミンチにする。その間にもオーブンで焼いているお肉の様子はしっかり確認、乾燥しがちな表面に天板に溜まった肉汁を回し掛けます。脂の焼ける良い匂いに食欲を刺激されながらもオーブンの蓋を閉めて誘惑を断ち切ります。
「ローストが出来る時間が―――だから―――ソースを―――他の料理の出来上がりは―――仕上げに必要な―――」
夕食の時間と料理の出来上がりを合わせる為に段取りを確認しつつ作業を進める。台所内に充満する料理の香りには僅かに聖気も混じっており、それは魔物肉の処理や洗浄した器具の消毒に用いた浄化の聖術の名残でもある。
浄化はとても便利です。目に見えない毒気や病気を除去出来るので調理や掃除の際には常時使うようにしています。自分の体で実験した経験から腐敗した食材も浄化をすれば食用出来ると知っていますが……美味しく無いのでわざわざ使う意義は少ないです。人に食べて貰う料理なら尚更です。
「うーん、やっぱり量が量ですし一割も使えないですねー……残りは保存ですね」
手付かずの肉塊へ手をかざす。大量に残ったそれらは後日使うので痛まないよう浄化で処理しておきます。
(抵抗確認……でも少しずつ小さくなる……抵抗消失……これで浄化を全体に行き渡らせて……)
毒気や病気の原因となる物は抵抗を持っています。私の弱々しい力でも時間を掛けて浴びせ続ければその抵抗を弱めて浄化を通すことが出来るようになります。
「他の人でしたら直ぐに終わるんですけどねー」
段取りを調整した際に時間が浮いたので一息吐く。オーブンで焼かれるお肉を眺めながら私は両手の間に聖気を発する。属性を帯びていない聖気はただの発光として発現します。これに個人の適性が付与されれば、セシルなら青白い冷気が伴いケイト様やファン様なら血液に似た臭いと赤が伴います。
聖気や魔力を扱う上で適性は重要です。それは力の方向性を示すので知らなければ空回りします。料理で例えるなら適性とは調理器具に近いかもしれません。包丁は切ったり叩いたりが普通で、無理をすれば焼き料理に使えないこともありませんが煮込み料理は不可能でしょう。そんな感じで私達は適性を自覚することで初めて聖気や魔力を扱うスタートラインに立てると言えます。
「……私の力……」
適性を知らずとも術は使えるので基礎は鍛えられるでしょう。しかし発展はしません。浄化を使い続けて持続時間ばかり延びましたが効力も効果範囲も殆ど成長していない私が良い例です。悪い例かもしれません。
「聖杯」
だからあの時の光景が強く心に残る。
「黒ずむ銀、壊れる封印」
そこまで思い出して気分がすごく落ち込む。
「周りに迷惑を掛ける力だったら嫌だなぁ。使い方全然わからないけど」
ああ駄目だ。1人で考え事をしていると悪い方向に行ってしまいます。これから楽しい夕食だというのにこれじゃあいけません。
「……よし! お料理仕上げちゃいますよー!」
目指せ、邪神さんに美味しいと言ってもらえるお料理!
●●●●
夕食は年長者であるファン様の言葉から始まります。
「それじゃあ今晩も恵みに有り付けたことを感謝しようか。大聖霊あんがと、アリサは料理を作ってくれてありがとうね」
「いえいえ好きで作っているので。では皆さんどうぞ召し上がってください!」
大聖霊様への感謝がとっても軽い気がします、でもきっと大らかな方なので祈りを捧げる時はファン様ぐらいの距離感が丁度良いのかも……でも流石に……いやしかし……
まあ細かいことは置いて食事にしましょう!
「鳥ばっか! 目に付く料理全部鳥肉じゃない!」
「食べ放題ですねー」
ローストフリアエをナイフで切り分けて皆さんに配る。かなり変則的な丸焼きでしたが上手に焼けました。油を回し掛けながら焼成していたので表面が綺麗な褐色でパリパリに―――フリアエの皮は何層かに分かれていて廃棄したのは外側から数えて二番目まで、次に脂肪層を挟んで鶏皮のような皮膚が有ります―――とても不思議な身体構造ですが調理する分には助かりました。
ケイト様は受け取った料理を受け取るとパクパクと食べてくれます。
「料理の腕は本当に一人前ね!」
「ありがとうございます」
褒められました、頑張って作った甲斐が有ります。私は嬉しさに顔を綻ばせながらがらケイト様の頬に付いたソースをハンカチで拭きます。
「素直に褒めりゃあ良いのにこの子は……美味しいよアリサ。酒が欲しくなるねー!」
ファン様も料理を気に入ってくれたようで何よりです。ですが酒瓶片手にお酒が欲しいとはどういう意味でしょうか? ケイト様が「うるさい酔っ払い!」と怒っていますがファン様は「わははは!」と笑いながら瓶の中身を煽っています。賑やかで楽しいですね。
そうして皆さんが食べ始めた時です。
「美味い」
料理へのお褒めの言葉、それを言ってくれた方はネロさんでした。
「本当ですか? お口に合ったようで良かったです!」
「味わった事が無い風味だが、美味い。もっと貰って良いか?」
ネロさんは健啖家なようで用意した料理をどんどん食べていきます。千年の間に香辛料や食材が変化している筈なのでネロさんの好みに合うか少し不安でしたがその姿を見て安心します。
……あれ? つまりネロさんは千年振りの食事になるのでしょうか? ちょっと想像が付きません。私なんて1日ご飯が食べられないだけで悲しくなる自信が有ります。
「……沢山有るのでいっぱい食べてくださいね」
「ああ」
差し出した飲み物を手に取ったネロさんは飲み干すと自分の皿に盛った料理を平らげていきます。その姿をケイト様もファン様は何処か感心した様子で見ています。
「すごい食欲」
「余程お腹を空かせてたのかねえ? 酒は飲むかい?」
ファン様が新たに瓶の封を開けると杯に注ぎます。ネロさんはお酒もいけるようで「頂こう」と言ってそれを口にします。
「ふう……酒はあまり変わらないな。だがそれが良い」
「ここら辺の酒はみーんな昔ながらの製法だからねえ。教会じゃ何処の地下でも作ってるよ」
楽しそうにお酒を嗜む2人。私は調理や味見でしかお酒を口にしないのでお話しに加われませんが楽しそうな雰囲気に自然と笑顔になれます。そういえばお酒造りの過程で卵の黄身が沢山余るので、見習い聖女になってからは卵黄をふんだん使った料理やお菓子を作る機会が多かったですね。味わいが濃厚になって美味しいんです。
「アリサ。ありがとう、とても素晴らしい料理だ」
「よ、喜んでもらえて何よりです」
笑顔で感謝を伝えてくれるネロさん。とても魅力的な笑顔で見惚れてしまいそう……私は胸のドキドキを誤魔化す為に皆さんへの料理の取り分けを頑張るのでした。




