意味がよくわからなくとも元気良く返事をすれば何とかなります!
そういえば邪神は聖気が弱点だと記されているのですがネロさんにそんな素振りは一切有りません。普通に癒やしの光で傷の治癒が可能でしたしそもそも彼自身が聖術を使えます。
邪神っていったい何なのでしょうね? 疑問は深まるばかりです。
「…………」
そんなことを私は祭壇に向かって祈りを捧げるネロさんを見ながら考えていました。
すごい光景ですよね。邪神さんが大聖霊様にお祈りをしてますもの。いったい何を祈っているかはわかりません、本人が口に出さない限り聞き出すのは無礼であるとされているので。でもちょっと気になりますよね。
―――あれから教会に着き、そこでネロさんは先ず大聖霊様に祈りを捧げたいと言ったので、私はこうしてお邪魔にならないよう後ろの方で待つことにしています。ネロさんからは「自分は適当に過ごすから部屋で休んでて良い」と言われたんですが、ベッドで横になるほど疲れてはいないんですよね。
そんな私の隣にはファン様が居たりしています。ファン様は楽しそうに口角を上げて私を見ています。
「美人だねぇ。あんな色男、何処で引っ掛けてきたんだい?」
「え~っと……森の外れです」
「へー。名前はネロって言うんだろ。勇者様と同じで良い名前じゃないか。それにフリアエを単身狩れるとなれば腕前だって一級品さ」
「そうなんです、とてもお強いんですよ」
「そうかそうか、ひっひっひっひ」
ファン様は笑いながら華奢な腕を私の肩へと回してきます。
「そんな奴が居れば直ぐに噂になるのにねー、不思議だねー。あんな傑物が居ただなんてこの婆は寡聞にして知らないねー」
「……そ、そうですねー。世の中不思議なことも有るんですねー」
目が合わせられません。額から冷たい汗が滲んできました。ちょっと嘘を吐いているのですごく気不味いです。でもネロさんが実は邪神だと打ち明けるのも難しいです。大きな混乱が起きるかも知れませんし、それにもし打ち明けたのが原因でネロさんに討伐隊が差し向けられでもしたら……とても悲しいです。だってそうなれば誰かが傷付くかも知れません。そんなのは嫌です。
ああ、だけど封印が稼動していないのは遠からず発覚してしまうでしょうし……どうしたら良いのでしょうか? そんな風に悩んでいるとファン様は耳元で囁いてきました。
「で? 封印の様子はどうだった?」
「…………」
うん……あれ? これもしかしてバレてます? 頭の血が足下にストーンと落ちた気分になりました。何と言ってこの場を乗り切ろうか考えていると、ファン様は私の頬をぶにっと指で突きます。
「……ふ。何顔を青くしてんだい。別に無理に聞き出す気なんて端から無いさ」
「へ?」
「大丈夫大丈夫、アタシはちゃんとわかってるから」
「ファ、ファン様……もしかして……」
「ひっひっひ」
ファン様はとても良い笑顔を浮かべます。や、やはり全部知って―――
「封印の様子を視るの、サボって男漁りしてきたんだろ?」
「……ん?」
今、何と?
「良いさ良いさ!ここ数百年間な~んにも変化が無い封印なんて今更一回や二回サボったって問題なんて起こらないさ! 若いんだからそんな無駄な時間を過ごさずイイ男の一人や二人を探してきた方がずっと有意義ってもんだ! そうだろ? ひっひっひ!」
おかしいです。何だかすごい勘違いをされている気がします。
「良いかいアリサ。10代20代なんて長いようで過ぎちまったら一瞬。どんな綺麗な花だっていつかは散ってしまう……もし機会を逃したらゲイルみたいに行き遅れちまうかもしれない」
そうなんですか? 一瞬なんですか? 全然言っている意味わかりません。教えてくださいゲイル教官。
「アンタが佳い女なのはアタシが保証してやる。だからバーンと誘惑してやんな!」
「…………」
ファン様が言っている意味を頑張って考えて考えて……取り敢えず私は―――
「はい!」
理解出来ぬまま返事だけは元気良く返しておきました。何はともあれ封印が消えているのは誤魔化せたようで良かったです。でも先延ばしにしただけで根本的に解決してない気がします。とりあえずネロさんと相談して何か理由を考えておきましょう。
その後お祈りを終えたネロさん、彼が寝泊まりする場所は何処が良いかファン様に相談した所―――
「部屋余ってるしここで泊まったら良いよ。婆と小娘を除いて年頃の娘なんてアリサしか居ないしね。そこだけ気を付けときゃ安心だろ」
なんて答えを返されました。そ、そんな……殿方と同じ屋根の下で生活だなんてっ!? 私どうしたら良いか全然わかりません!?
どうしようどうしよう、ネロさんは「わかったありがとう」とすんなり受け入れてますし、本当に問題は無いんですか? ここ数年異性が殆ど居ない環境で生活してきたので何を気を付ければ良いのかすらわかりません。何でも優秀なセシルが居てくれれば簡単に解決したかもしれないのに~。手紙で聞いてみましょうか? 男性ってどんなことをしたら喜んでくれるのか、とか。
「アリサちゃーん。ふりあえ、だっけ? とりあえず魔物肉の解体終わったよー」
「本当ですか!? わーい! 直ぐに行きますね!」
フリアエの解体作業が完了したと村の方が報告に来てくれました。すごいすごいとても早いです!
「ネロさん! 私ちょっと行ってきますね!」
「俺も行こう1人ですることも無いしな」
「わかりました!」
そうして私はネロさんと一緒に解体が済んだお肉が置いてある場所へ向かうのでした。
●●●●
場所は肉屋さんの裏手でした。そこには椅子に腰掛けて寛ぐケイト様が居て私とネロさんを出迎えてくれました。
「来たわね。ここに置いてるの一応私達とイケメンの取り分、ってことになってるから」
「わぁ、沢山有りますねー」
「……イケメンって俺のことか?」
ケイト様は疲れた様子で仕分けされたお肉、籠に積まれた物を指し示します。量的に数十㎏は下らないでしょう、皆さんに配ってこれだけ残るとは……いっぱい食べられて嬉しいですね!
「村の皆に配ったのは“浄化”掛けたけど、これはまだだから」
「お手数お掛けしました。じゃあこの分は私が浄化しときますね」
浄化をしていない魔物肉は食べても消化吸収が上手くいかずお腹を壊してしまいます。だから解体と並行して浄化をしようと思っていたのですがケイト様が代わりにしてくれました。とても助かります。
「フリアエの羽毛皮は食用に向かないらしいから骨と一緒に洗浄して“売り”に出すけど……アリサは欲しい?」
「装備品や建材に使った方が良い部位なので私は無くて大丈夫です。それはそうと全部売っちゃうんですか?」
「アンタ馬鹿? この村に魔物素材を扱える職人なんて居るわけないでしょ?」
「そうでした」
長年魔物とは無縁の生活を送っていた〈眠り歌の村〉ではそういう技術は完全に廃れたのでしょうね。
「ああ、そうだ。アンタの大好きな内臓と血だけど、肉屋のおじさんが言うには時間経ってるから食べるの厳しいだって。肥料行きで良いでしょ?」
「はい。問題ありません」
お味が気になる所ですがそこまで贅沢は言いません。こうしてお肉が食べられるだけ御の字です。
さてさて、じゃあこれらを持って帰って早速調理してしまいましょうか。籠を持とうと近付くと……ネロさんが来て代わりに籠を提げてくれます。
「運ぼう」
「良いんですか?」
「料理してくれるんだろう? なら体力はそれまで温存してくれ」
ネロさん優しいです。これは頑張って美味しいご飯を作らないとですね。
「ありがとうございます。重くないですか?」
「……お前は俺が何者なのかよく忘れてないか? この程度の重さは無いのと同じだ」
「そうでした」
軽々と持っていますし、そもそも村まで運んだように魔術で持ち上げることも可能。ネロさんは邪神だけあって筋力も魔力も桁違いですね。でも外見は素敵な以外は普通の人と同じなのでうっかり邪神であることを忘れそうになります。
ふむ。ネロさんが運んでくれるなら私は手ぶらになりました。
「じゃあケイト様をおんぶしますね!」
「じゃあって何よ、じゃあって」
ケイト様は魔物肉の浄化でお疲れのご様子。ですので椅子に座り込むケイト様を背中に乗せた私は意気揚々と教会に向かって歩みを進めます。
「一緒に帰りましょう、ケイト様」
「……んー。わかったわよ」
あ、ちょっと素直です。最近知ったのですがケイト様は疲れている時や眠たい時はいつもより温和になるので可愛いです。いつも可愛いですけど! でもそれだけ浄化を頑張ってくれたんですね、本当にありがとうございました。
私はケイト様の温もりとネロさんの気遣いに笑みを溢しながら皆一緒に教会へと戻るのでした。




