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私、どうやら“最弱聖女”らしいです

 私ことアリサ・グレイは幸せ者です。

 出身の村は首都に近く、良く言えば牧歌的で悪く言えば田舎な場所。そこで畑作と養鶏を営む優しい両親に育てられ、家の手伝いをしながらも食べる物に困らずのびのびとした日々を送っていました。10歳になる頃には自分もこの村で誰か良い人を見付けて両親と同じように暮らしていくのだろうと……漠然とそんな風に思っていました。


 そんな生活に転機が訪れました。12歳になる子供を集めて行われる神事〈天恵の儀〉で私に“聖女”の素質が在るのがわかったからです。

 聖女は凄いです。憧れの職業トップ3には入ります。何と言っても【浄化】を使えるので食べ物を腐りにくく出来るのが便利です。昔、〈天恵の儀〉などの特別な神事を行う時に立ち寄ってくれる聖女様がくれた聖水が普通の水よりも長期間痛まなかったのを今でもよく覚えています。折角作った干し肉や漬物にカビが生えたり痛んだりしたら悲しいので私は浄化が使える聖女になれると聞かされてとても喜びました。


「アリサちゃんは変な喜び方するわねー」

「聖女は神事を担ったり魔物を追い払えるからどんな場所でも重宝されるんだけど……」

「アリサちゃんは食べるのが大好きだものねー」


 両親にそう言われて思い出す。確かに浄化の力は神事や退魔に使うのが普通で食品などに使うのは一般的では無くあくまで副産物のような扱いでした。でも私が最初にそう考えたのにも理由があるのです。

 数年前、近くの村が水害に遭って作物が殆ど駄目になった時に大勢の餓死者が出そうになったと聞かされました。当時はうちの村を含めた近隣の村々が食べ物を分けて事無きを得ましたが、私の心にはとても怖かった話として印象に残っていました。餓死者は幸運にも出なかったのでその点では良かった話なのかもしれません。

 これが私に食べ物は大事、腐らせるなんて勿体ないの精神を育ませたのです。実際の所肥料にはなるので完全に無駄にはならないのですけど。


 ちょっと脱線しました。私が聖女の素質が認められた後に話を戻します。

 素質が在る、だからといって直ぐに聖女に成れるわけではありません。特別な勉強が必要になります。先達の聖女様から教えを授かり力の使い方【聖術】を習得するのです。そうしなくては基本的な浄化も使い熟せません。

 ですので私も聖術の勉強を始めることになったのですが……この村では残念ながら勉強出来ません。教会はありますが形だけの物で聖者も聖女も勤めておらず冠婚葬祭の時は聖気も持たない普通の村人が聖句を読み上げるのみ。特殊な神事で巡回してくれる場合を除いて聖術が必要な時は首都に務める方々に頼めば良いので近隣の村々は大体ここと一緒です。変に首都が近い田舎の悲しい弊害ですね。私はそんな村が大好きですけど。

 そんなわけで私は一人前の聖女に成る為に首都で勉強することが決まりました。


「アリサちゃんウキウキしてるわねー」

「首都に行くのが本当に楽しみなんだね」


 ……はい。実は首都に行くのすっごい楽しみです。田舎に住んでいたら都会に憧れるのは多かれ少なかれ普通なんです。ここでは食べられない珍しい物も沢山在るでしょうし。





「元気でねアリサちゃん」

「体には気を付けるんだぞ」


 首都に行く日、私はそんな風に両親に見送られました。仲良くしていた友達や近所のおじさんおばさんも見送りに集まってくれてます。寂しくなってきました、ちょっと泣きそうです。


「アリサは泣き虫だな」

「ほらほらハンカチよー」


 嘘です号泣してました。両親と離れるのが悲しくてわんわん泣きます。後から考えれば首都まで馬車でたった二日の距離なのにとても恥ずかしいです。鼻の奥痛いです。


 そうして大好きな両親と村に別れを告げ馬車に乗り込んだ私は首都へ向かうのでした。まだ産まれてない弟か妹ちゃん、お姉ちゃんは頑張ってくるよ。

 聖女の勉強は最低でも5、6年掛かるらしいので弟か妹に会う時は元気に鶏と共に走り回る年頃になっていることでしょう。赤ちゃん抱っこしたかったよー!





 ●●●●





 辿り着いた首都はすごかったです。

 この国の首都でもある〈王都ローマン〉は建物が大きいだけで無く地面も石畳で舗装されるなど風景が田舎とは全然違います。これだけ作るのにどれだけ時間を掛けたんでしょうか? 首都開発に携わった大工さん達を尊敬します。

 聖女の力について学ぶ教会へ向かう道中のこと、首都だけあって見たことも無いような食べ物を販売する屋台が多く見受けられました。買って食べてみたかったのですが所持金は雀の涙、そして乗っている馬車は教会へ直行……残念ながら食べることは叶いません。勉強の合間に(いとま)が在れば食べに行こうと心に決めました。魔物肉を食べられるなんて流石は大きな都市だなー。





 そうして教会に着くと先達の聖女様が出迎えてくれます。


「よく来たなアリサ・グレイ。私は新たな聖女(なかま)を歓迎する」


 出迎えてくれた緑髪の聖女様、見習い聖女達の教育を担当してくださる“教導聖女”のゲイル様はとても美しく格好いい方でした。

 ゲイル教官と呼ばれるその方はお母さんよりも年上で(ピー)歳なのにとても綺麗で全然そうは見えません……でも年齢の話題を口に出すと怖い笑顔をするのは何故でしょう? 以後あんまり触れないように決めました。独身らしいです、お尻叩かれました痛いです。


 私のように聖女の素質を見出されて教会に呼ばれた見習いの子達も何人か居て、上の世代の方々を合わせると20人程でしょうか? みんな可愛くてびっくりです。灰色の髪からお婆ちゃんみたいと揶揄(からか)われてきた私はちょっと気後れしてしまいます。変な臭いとかしてませんよね? 養鶏ってぶっちゃけ酷い臭いですし……お掃除は重労働です。


 慣れない場所に新しい環境で不安を感じる……だけど物怖じなんてしてられません! だって両親や村の皆が私を信じて送り出してくれたんですから、その期待に応えないと!

 一人前の聖女に成れるよう頑張るぞー、オー!






「貴女才能が無いわね。故郷に帰った方が良いわよ」

「…………」


 大変です。私に才能が無かったと発覚しました。

 いえ無いと言うと語弊が在るのですが……正しくは才能に乏しいと言うべきでしょう。同世代であり同室でもあるセシルさんにそんなことを言われたのは勉強開始当日のことです。ショックでしたが何も言い返せません。だって一番基礎となる聖術の浄化さえまともに使えなかったのですから。無念。


「……ゲイル教官。私の力って今までの子達と比べてどんな物でしょう?」


 ゲイル教官は言いにくそうにしていましたが顔を逸らしながらも私に教えてくれます。


「そのだな……ああ、うむ……最も弱い、な」

「…………」


 ガーン。どうやら私“最弱聖女”だったようです。セシルさんも私の才能の無さに呆れたのか興味を失ったのか、この日からしばらく会話はおろか挨拶さえろくに返してくれなくなりました。寂しいです、実家のヒヨコが恋しくなりました。





 それはそうとセシルさんです。セシルさんはとてもすごい方でした。

 最弱な私とは真逆で才能に恵まれたセシルさんは何と初日から浄化を完璧に習得(マスター)、それだけに留まらず中位聖術に分類される【癒やしの光】さえ苦も無く発動出来るようになっていました。他の方達だって私ほどでは無いにしても浄化の習得に苦労していたと云うのに……確かにここまで才能に開きが在ると私なんて木っ端にしか見えないのでしょう。

 そして才能とは違って外見の話になりますがセシルさん、見目がとても麗しい。

 碧い髪と瞳に白い肌はそのどれもが宝石の如く輝き、術を唱える声は涼やかで心地良い。初めて顔を合わせた時なんて天使が絵画から飛び出してきたのかと思った程です。なので私はセシルさんと何とか仲良くなりたくて声を掛けたのですが……


「貴女と話すのは時間の無駄。必要な報告以外は話し掛けないでください」

「……ぁ、はぃ……」


 結果は御覧の有様、氷よりも冷たいです。以降は完全に無視、同室なのにまるで居ない者のように扱われてしまいました。悲しい……でも仲良くなるのは諦めていません、これから頑張ってセシルさんに認められるぐらい立派になってきっと友達になってみせます!


 そんな感じで私の見習い聖女生活が始まりました。

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