帰って早々休めと言われました。元気なのに
ネロさんが邪神であることは伏せることにしました。魔物の問題も当面は気にしないでも大丈夫と聞いたので〈眠り歌の村〉に住む方々に要らぬ不安を与えることも無い……そうしたことを私はネロさんと話し合って決めてから村へと向かいました。
私達が村の入り口に辿り着くなりウェルナーさんから変な目を向けられました。
「……この人は?」
「ネロさんと言います! さっきそこで知り合いました!」
「ネロだ。魔狩りをしながら旅をしている」
「…………」
自己紹介もそこそこにウェルナーさんは私達の後ろを指差します。
「それで、その……それは?」
「魔物です! ネロさんが仕留めました!」
「宿泊許可を貰うのに手土産も無しではと思ってな。狩ってきた」
「…………」
首無しになったフリアエの亡骸を見たウェルナーさんは頭痛を堪えるように掌で顔を覆うと「……わけわかんねぇ」と呟きました。ええ、ええ、突然の事態に混乱する気持ちは私もよーくわかりますよ。ですが今はゆっくり説明する時間も惜しいのです。
「入って良いですか!」
「……良いが……それは門をくぐれねえだろ」
「大丈夫です! ネロさんが浮かしてくれるので上から入れられます!」
「……もう好きにしたら良いんじゃないかなー?」
「ありがとうございます!」
門番さんから許可が出ましたよ! さあネロさん行きましょう行きましょう!
「……あの男、中々強いな」
「ウェルナーさんのことですか?」
「ああ。よく鍛えられた良い戦士だ。魔術士か聖術士を後ろに付ければフリアエぐらい狩れるかもな」
邪神さんの目から見てもウェルナーさんは優秀な方のようです。やっぱり若くして大任を任せられている方は違いますね。でもフリアエを狩れるぐらい強いのは予想外です。王都に居たら引っ張りだこになる人材ですね。
遠い目をしたウェルナーさんに別れを告げて村を進む。私は跳ねるように軽い足取りで歩きます。
「ふんふふ~ん♪」
「魔物を拾ってから元気が良いなお前は」
「はい! 食べるのがすごく楽しみで、運んでくれて本当にありがとうございます!」
私の後ろを少し離れて歩くネロさんにお礼を言います。こんな大きいのを持って帰るなんて私には無理だったので本当に助かりました。これだけ有れば村の方全員にお肉を分けても足りるでしょう。
ふっふっふ、これは腕が鳴りますねえ。村の皆さんは見慣れない魔物の亡骸にびっくり……いえ、もしかしたらネロさんの美貌にびっくりしているのかもしれません。私も全然慣れて無いので急に見ると見惚れてしまいます。拝んだら御利益が在りそうなぐらい綺麗です。
とにかく注目の的になっていましたが、私が森から帰って来たとだと知ると村の皆さんは「おかりなさい」や「怪我はしていないか」と親しげに声を掛けてくれます。はい、怪我も無く無事に帰りましたよ。ネロさんのお陰ですね。
「良い村だな」
「はい! とっても良い村なんですよ! 皆さんとっても優しくて―――」
ネロさんもこの村の雰囲気を気に入ってくれたようで微笑みを浮かべています。それが嬉しくて私はこの村の良い所をもっと教えようと思った……そんな時です。
「―――アリサー!!」
村の奥から私の名を呼びながら勢いよく走ってくる女の子が。あのぴょこぴょこ跳ねる特徴的な髪型はケイト様ですね。
「ちょっとアリサーっ!!」
「ケイト様、ただいま帰りました」
「おかえり……ってそうじゃない!? これはいったいどんな状況!?」
駆け寄ってきたケイト様は私の服の裾を引っ張り詰問します。えーっと……どこまで説明したら宜しいでしょうか。
「あの魔物、フリアエじゃない!? 何で死骸!? 何処で遭遇したの!? どうやって倒したのよ!?」
「あぁ~、説明するのであんまり引っ張らないで~」
「歩いてるけど怪我は!? 本当に無事だったの!?」
裾を捲られてお腹をペロンと晒されます。そんな所を見ても傷なんて有りませんよ? ちょっ、あはっ、あははは、ぺたぺた触られるとくすぐったいですよー。
「私は大丈夫ですよ。フリアエはこちらの魔狩りの方が仕留めた物なので、私は何も関わっていないんです」
「……そうなの?」
「はい!」
あの戦いを振り返ると私って反応しかしてません。何も関わっていません。見てただけで終わりました。
「じゃあこの近くで遭遇したわけじゃ無いのね?」
「はい!」
森が小さく見えるぐらいの上空だったので近くでは無いと思います。距離で考えると村から森までよりも遠かったのでは? ネロさんどれだけ高く跳び上がったのでしょうか、すごい力ですね。
「そう、近くで出たわけじゃ無いのね。……はぁ、まったく……冷や冷やさせないでよ」
「はい、心配をお掛けしました」
「……本当もっとしっかりして欲しいわね! 仮に魔物に遭遇したらアンタなんて簡単に食べられちゃうのよ!」
「頼りなくてごめんなさい……」
「明日から1人でも自衛出来るよう私がビシバシ扱いてやるんだから覚悟しなさい!」
「ええ。頑張ります」
「……ふーんだ!」
ああ、ケイト様にそっぽを向かれてしまいました。怒らせてしまったようですね。もう一度謝ったら許してくれるでしょうか? でもあんまり謝り過ぎても怒っちゃうんですよねー、困りました。ケイト様は可愛らしいので笑っていて欲しいのですが……
そんな風に考えているとネロさんが私の隣に来て言います。
「……アリサ、この子はお前に怒ってるわけじゃない。魔物に襲われたかもしれないのに一緒に居てやれなくて後悔しているだけだ」
「へ?」
「随分慕われてるようだな」
そうなのでしょうか? もし魔物の件で気に病んでいたなら申し訳無い反面嬉しいと思います。ケイト様は優しい方です。
「……ッ!? ちょっとアンタ急に変なこと言わないでよ!? ちょっと顔が良いからって!」
「か、顔は関係無くないか?」
「うるさいうるさいバーカバーカ!? アホー!?」
「……す、すまん」
すごい、邪神さんがたじろいでいます! 私なんてあのご尊顔を直視しながらだと上手に会話する自信が無いのに……流石はケイト様! 構いなしに罵倒しています!
「アリサ!!」
「はい!」
あ、これ私の方にも矛先が向いちゃったのでしょうか? 姿勢正しく立ちながら私はケイト様からの沙汰を待ちます。そうしてケイト様は顔を赤くしたまま指を差して命じます。
「アンタもう今日仕事しなくていいから! 明日の昼まで好きに過ごせばあ!?」
「へ?」
お休みを頂いてしまいました。
そうだ思い出しました。確か封印の様子を観に行くと体調を崩すことが多いらしいので担当した人はこうして休みを貰えるのでした。私はまったく体調を崩さないので完全に失念していました。
成る程。つまり今から私は自由時間なのですね。
「じゃあ早速フリアエを解体して調理しましょう!」
「いや休みなさいよ!?」
「そうだなアリサは少し休んだ方が良い。これの処理は他の者に頼もう」
あれー? ケイト様とネロ様の2人から止められてしまいました。残念。でも本当に元気なんですよ私?
しかし私の言い分は聞き届けられず、ケイト様は村の猟師さんや獲物を捌くのが得意な方々を募ってフリアエの解体をお願いしていました。周囲の方の手を借りるのに慣れていらっしゃいますね、私は頼みごとをするのが苦手なのですごいと思います。
「アンタ、ネロって言ったかしら? 教会にアリサの部屋が有るから連れて行ってくれない?」
「構わない。元よりそのつもりだ」
「ん! ……でも変なことしたら許さないわよ!? 私とお祖母様とでぎったんぎったんにしてやるんだから!」
「……わ、わかった。心に留めておく」
「アリサも! アンタが連れて来た奴なんだから教会までの道中しっかり案内しなさいよ! 向こうに着いたらお祖母様が居るから後のことは頼んでおきなさい!」
「は、はい」
怒濤の如く私とネロさんに言い付けをしたケイト様は「ほら行った行った!」と背中を押してきます。その押しの強さに逆らえなかった私達はそのまま教会へと向かいます。お肉さん、少し休んだら美味しく料理する為に帰って来ますからね。
「……本当に体調は良いのか?」
「え? ……はい元気ですよ?」
教会を目指して歩いているとネロさんがそう尋ねてきました。聖気が残り少ない以外はいたって元気です。しようと思えば今から走って森まで行けるぐらいには。
「私なんかよりネロさんはどうなんですか? 胸の傷、まだ完全に塞がっていないですよね?」
「9割方治った。だからもう時間の問題だ」
「……風穴が空いてたなんて最初に見てなかったら絶対信じられませんでしたね」
ネロさんの胸元は一見何事も無いような滑らかな肌だけが有ります。傷が有ったとは思えない綺麗な胸板……じゃない、見惚れてどうするの私。
とにかくネロさんの傷は修復中の内臓を除けば完全に治った状態になっています。
「ただの傷なら一瞬で治るんだがな」
「擦り傷とかですか?」
「いや、普通に剣で首を落とされたり心臓を貫かれても、と云う意味だ」
「…………」
えっと……あの……首斬りとか心臓一突きとかただの傷の範疇を越えているのですが? 死ねないと言ってた気がしますしネロさんって不死身なんでしょうか? 見た目が美しい以外は人間と同じですが比べたら色々と違う物なんですね。




