日々お勉強です。私の適性って何なのでしょうね?
お昼になると村の人が礼拝へ来て祭壇に置かれた〈大聖霊様〉の偶像に対して思い思いに祈りや感謝を捧げてくれます。毎日来てくださる人も居れば数日に一度や神事の時だけ来るという方も居ます。これは“心赴くままに祈りを捧げよ”と聖書に記されているからなのですが……実は聖典の方に記されているのは少し違い、そこでは「暇な時に会いに来てくれたら良いよ」と仰ったとされており聖書の方はあくまで一般向けに行儀良く書き直されているのです。
偉大な存在である大聖霊様ですが聖典に記された言動や振る舞いはかなり緩いです。昼寝のつもりが1年間眠ってしまい大変な事態になったとか抜けた姿も描かれています。
大事な聖典なのにそんな感じで良いのでしょうか? そう疑問に思ってゲイル教官に尋ねたことが有ったのですが、その際には「後世で解釈の幅を広げる際に便利だから。威厳が無いように見えるのは気にするな」と云う旨の回答を貰いました。私にはその意味がよく理解出来なかったので申し訳無い限りです。頭の良い方は難しいことを沢山考えているんですね。
そんな親しみを覚える大聖霊様ですが、その御姿を象ったとされる偶像は生き物の形をしていません。
永遠を意味する捻れた帯、その上の輪と下の輪に内側にそれぞれ太陽と月のシンボルを抱えた姿をしています。不思議なお姿ですがこれにも意味が在って大聖霊様は「変に動物や人と似ていると諍いの種になるじゃん」と聖典で仰っています。賢い方々はこの言葉の意味もわかるんでしょうか? 私はわかりません。
そんな風に教会へ来てくれる方々への対応や仕事を熟しつつ私やケイト様は掃除などの雑務も行います。
こうして3日経ちました。仕事も随分と慣れてきたと思います。
「―――おっそ!? アンタちょっと浄化すんの遅いわよ!」
「うわわ、ごめんなさい」
嘘です見栄張りました。相変わらず聖術関連はダメダメです。
「仕方無いわねー! 私がお手本見せてあげる!」
「ありがとうございますケイト様」
真水を浄化しての聖水作成、最弱聖女な私と違ってケイト様は手早く作ります。それはかなり早さで私が知る人の中では3番目に入りそうです。1番は勿論セシルで2番目はゲイル教官です。
ケイト様は5秒程で片手で持てる小瓶10本分を一気に浄化して聖水へと変えていきます。うおーすごい、私がやれば10倍以上の時間が掛かりますよ。セシルさんはこの量なら多分2秒ですね。
ちなみに水をただ浄化をするだけでは聖水になりません。ただ綺麗な水になるだけです。更に強く聖気を込めて浄化の力が宿った水にしなければ聖水とは呼べないのです。
そうして小瓶に入った聖水を沢山作ると教会の出入り口付近の棚へ並べておきます。これは礼拝に来てくれた方に無償でお渡しする物で、朝昼の2回新しい物に取り替え夕方になると全て回収し廃棄します。
聖水は聖術の【浄化】より効果が低くしかも数時間程しか力が持続しない消耗品です。ですがその場に聖女が居なくても誰もが浄化の恩恵に与れたので昔は大勢の方に飲料の浄化などで重宝されていました。ですが現在では浄化に依らない浄水や地下水の汲み上げ技術が発達したので昔程の需要は無くなったようです。私の故郷でも飲料は井戸水で十分足りてましたからね。
「こんにちはアリサちゃん。今日も頑張ってるわね」
「こんにちはおばさん。はい、至らない所も多いですが」
礼拝に来てくれたおばさんに挨拶を返す。
「お祈りですか?」
「ええそうよ。そうだわ、空き瓶。返しておくわね」
「はい。いつもありがとうございます」
私はおばさんから空き瓶を受け取ると回収箱に入れておく。瓶は再利用できるのでこうして返却してもらっています。
「アリサ! 聖水が終わったら次は安息日での仕込みも有るんだからね! 早く来なさい!」
「わかりました、今行きまーす」
ケイト様が呼んでいるので残りの分も直ぐに陳列する。そんな私達の様子をおばさんは笑顔でみていました。
「ケイトちゃん今日もはりきってるわねぇ。アリサちゃんが来てくれて嬉しいのねぇ」
「そうなんですか? ふふふ、そうだと私も嬉しいですねー」
「ちょっと変なこと言わないでよ!? ほら置いて行くわよ!?」
ケイト様を怒らせちゃいましたね。ごめんなさい、だから置いて行かないでー。
●●●●
昼食にポテトパンケーキと鶏肉のトマト煮にサラダ、そして付け合わせの酢漬けを食べながらケイト様は険しい目で私に言います。
「適性よ適性! それがわからなきゃ話になんないわ!」
「困りましたよねー」
「アンタの話しをしてんのよ!? ちょっとは真剣に考えたら!?」
「ケイトー。せ~っかく旨い飯食ってんだからさぁ後にしないかい?」
賑やかな食卓、楽しいです。パンケーキのポテトは今回全て潰しにしたのですが次に作る時は敢えて形を残した物を混ぜても良いかもしれません。チキンも柔らかく仕上がっています、乳清で下拵えしたのがしたのが効いてますね。
「適性ですかー。結局4年間わからなかったんですよね。実は私に適性なんて無かった、なんてことは……」
「そりゃ無いね。アタシの経験上だが聖術でも魔術でも多少扱える奴は絶対に適性を持ってる」
「じゃあお祖母様は何だと思う? アリサの適性」
こってりした物の合間に食べる野菜の酢漬けが良い感じです。今度漬ける時は香草も入れてみましょう。
ファン様はケイト様の問いに頭を捻りながらも答えます。
「ゲイルが教導したのなら基本的な属性は調べただろう。それが違ったんなら……それ以外だね」
基本的な属性とは地・水・火・風の“汎”と呼ばれる物で大体の人がこれに当たります。調べ方も手順が出来ているので直ぐに判別出来ます。残念ながら私はどれも該当しませんでした。
「それってアリサが“稀少”かもしれないってこと?」
稀少属性とはセレスさんの“凍結”もそうですが該当者が文字通り少ない方々になります。一族に代々伝わっていたり祖父母や両親の属性が掛け合わさることで突然変異的に発現する場合もあるので別名“継承属性”と呼ばれる時もあります。ファン様の“血液”がケイト様に受け継がれて“鉄血”に変化したように。
「そうだね……だけどレアだって相性の良いコモンから取っ掛かりは掴めるもんさ。アタシやケイトなら水の属性から感覚を掴んだように……ねえアリサ、アンタはそんな感覚は無かったのかい?」
「え~っと……」
そうなんですよ。稀少も基本属性に内包された力になるのでそこから理解することが多いんです。でも……
「…………」
「それすらもわからないと。こりゃ難儀だ」
「ってか、こいつ鈍感そうだし気付いてないだけでしょ」
私ってそんなに鈍そうに見えますか? 学び舎で一緒だった皆さんも「まあアリサだしそんなこともあるか」って感じでした。ちょっと落ち込みます。
「レアならまだ良いんだけどねぇ……」
トマトで赤く色付いた鶏肉を頬張りながらファン様は難しい顔になりました。
「……お祖母様、もしかしてアリサが“唯一”持ちだと思ってるの?」
「可能性だけなら」
「いやいやいや無い無い無い! だってアリサよ!?」
あれ? すっごい含みの有る言い方に聞こえますが? 私のそんな疑問も知らずケイト様はフォークを置いて言います。
「ユニークだなんて誰も彼もが歴史に名を残すような人間! あのエリザヴェータ様の“光”だってそうだし勇者や仲間の英雄達だってユニーク持ちだったのよ!」
「同じ時代にそれだけユニーク持ちの方が集まるなんて運命ですよねー」
エリザヴェータ様の“光”、勇者ネロ様の“強化”、そして英雄達の“空間・変身・竜”等々……他に類を見ない唯一無二の強力な属性を宿した方々があの暗黒の時代に一堂に会していたのです。きっと邪神に立ち向かう為に大聖霊様が運命で皆様を導いてくださったのでしょう。
一応自分でも唯一は有り得ないと思っています。だって汎とは違う特殊な属性持ちの方は感情の昂りで発露することが多いと聞きます。つまり私がそうであるなら怒ったり泣いたりした時に何かが発露している筈なんですから。
「……まあ答えが出ない問題に今から頭を悩ませても仕方無いさ。当面は様子見してやろうじゃないか」
「お祖母様は悠長よ! 何年ここで修行させる気!?」
そうですよねー。ずっとここでお世話になると迷惑を掛けますし。
「アタシは美味しいご飯食えるからずっと居てくれても良いけど?」
「おばあっ……。…………」
あれ? ケイト様? どうしたんですか急に黙り込んで。どうしたんですか級に優しい顔で私の肩を叩いて。
「……まあ人には人の歩く早さが有るわよ。うん。ゆっくり考えなさい」
「……? はあ、ありがとうございます?」
「チキンのおかわり有る?」
「有りますよー」
お腹いっぱい食べましょう。今日も〈眠り歌の村〉は平和です。




