先輩が可愛らしいです。村を案内してくださいます
この方が私の先輩となる聖女ケイト様、いやはやそれにしても―――
「都会の方じゃ“千年に1人の天才”が出たとか“史上最年少での高位聖女任命”だとか騒がれてるけど……よく覚えておきなさい! 真の天才とはこの私! ケイト様だってことをね!」
「なるほどなるほどー……これはすごいですね」
「そうでしょう? もっと敬いなさい!」
私はケイト様に向かって頭を下げつつ目線を合わせて改めて挨拶をします。
「ケイトちゃん可愛いです」
「はぁん!?」
「間違った。若輩者ですがどうぞ宜しくお願いします」
「ふざけてんのアンタ!?」
怒らせてしまいました。
「私今年で13歳になったんだから立派なレディなのよ!? アンタ本当にわかってんでしょーねー!」
「ごめんなさいごめんなさい反省してますっ。うわわ、揺さぶらないでぇ~」
服を掴まれて前後にがっくんがっくん揺らされております。お歳よりも幼い外見ですね。心の声がつい出てしまった私にケイト様は怒り心頭。どうしましょうか、怒ってる姿も可愛らしいです。深紫色の長い髪を二つ結いにしてるのもよく似合ってますし赤銅色の肌もぷにぷにしてそうで……ってあれ? この特徴は確か―――
「こんのバカタレ! 何やっとる!」
「ぴぎゃッ!?」
私がぐらぐらしているとケイト様の頭に拳骨が落とされました。い、痛そう……でもケイト様の手が止まったので解放されました。どちら様でしょうか? スレンダーで綺麗な人がいつの間にかケイト様の背後に立って居ました。お歳は30代ぐらいでしょうか、紅い唇で咥えた煙草を取ると紫煙を吐き出しながらケイト様を黒眼鏡越しに睨んでいます。
「お、お祖母様!? 痛いじゃないどういうつもりよ!」
「如何いうつもりかなんてこっちの台詞だ、会って早々後輩いじめてんじゃないよ!」
あらまあ、どうやらケイト様に拳骨を落として止めてくださったのは彼女のお祖母様だったようです……おばあ、さま? あれ? え? ちょっと年齢と外見が合ってない気が……まあゲイル様もそうでしたし高位の聖女様は若々しい姿を保っているのかもしれません。すごいですね。
「うちのバカ孫がすまなかったね。アリサ・グレイだったか? 歓迎するよ」
「いえいえこちらこそケイト様に失礼してしまって……宜しくお願いします“血癒の聖女”ファン・エマ・セラピア様。お目に掛かれて光栄です」
「楽隠居した身だがね。近所の婆と思って気楽に接しておくれ」
私やケイト様が袖を通す聖衣よりも古い年代の聖衣を露出多めに改造して更に着崩すファン様はニヤリと笑い手を差し出します。握手を求めるその手に私も笑顔で応じました。
ファン様はケイト様の前任であり長年この村で聖女として勤めてくださった大先輩、これからお世話になることを思うととても緊張してきました。震えてませんよね手。
ファン様は握手した手をがっしりと掴みながら問い掛けてきます。
「それで? 此処に来たってことはこの地に眠る秘密は知っているね?」
「は、はい。ゲイル教官から」
「そうかい。なら良し!」
手を離したファン様は私に背を向けると今度はケイト様に近付きその頭をわしわし撫でます。
「ケイト、先輩としての初仕事だよ。アリサにこの村を案内してやりな」
「わ、わかってるわよお祖母様! 言われなくてもするつもりだったのよ!」
「ひっひっひ。留守番はアタシがやっとくから行っておいで」
「……ふん!」
撫でられて乱れた髪を手櫛で直したケイト様は私の方へ来ると見上げます。可愛い。私も撫でたいです。
「付いて来なさい! 私がこの村を案内してあげる!」
「わかりました!」
小さな体で力強く歩き出すケイト様の後ろを付いて行く。後ろでは教会の長椅子にどっしりと座り込んだファン様がひらひらと手を振りながら「行ってらっしゃい」と言っていたので私も「行ってきます」と手を振って応えました。そういえばファン様は普通の肌色をしてましたね。旦那さんかお子さん夫婦の何方かが赤銅の肌なのかもしれません。
私は祭壇に置かれた“大聖霊様”の偶像に向かって何とか一礼し、手を引かれるまま教会を後にしました。
●●●●
ケイト様の〈眠り歌の村〉案内が始まりました。
「このしわくちゃのお爺ちゃんが村長よ。日向で寝てることが多いわ」
「儂、村長。よろしくね」
「初めまして。アリサ・グレイです。今日から宜しくお願いします」
テラスでお茶を飲んでいたお爺さんに私は礼をする。とても柔らかな雰囲気の方でアリサ様と私が来たのをにこにこと笑顔で迎えてくれました。近所の私を可愛がってくれたお爺さんを思い出してほっこりします。
「お茶飲むかい?」
「お爺ちゃん、私達これでも仕事中なの。後で―――」
「ぷはぁ、良い香りですねー」
「何くつろいでるのよアンタ!?」
村長様が入れてくれた橙色のお茶はとても良い香りがしました。鮮やかな色味に蒼い清涼感と仄かな甘い香り、お花が原料のハーブティーですね。
「これ、うちの村で作ったハーブティー。この蜂蜜を入れるともっと美味しいよ」
「ふぁー。染み入ります」
「ちょっと! 今日中に案内したい所はまだまだ有るんだからぼんやりしないでよ!?」
ですが折角振る舞ってくれた物を断るのは何だか申し訳無いですし……ああ~長距離移動で疲れた体に甘味が利きます~。
「ほら次行くわよ次! お爺ちゃんまた今度ね!」
「わぁ、行きます行きます。だから引っ張らなくても大丈夫ですよー」
「うんうん気を付けて行くんじゃよ。儂ここに居ること多いからいつでもおいで」
ケイト様に手を引っ張られながら次に向かいます。そういえばこの村は養蜂もしてるんですね。これは楽しみです。
そうしてケイト様と手を繋いだまま村を回ることになりました。
「―――ここがパン屋よ。自分で作る以外は皆ここでパンを買うわ」
「おいしい~」
「もう食べてる!?」
甘酸っぱいドライフルーツを練り込んだパン美味しいです。
「―――ここが鍛冶屋よ。農鍛冶が中心だけど日用品も取り扱ってるわ」
「包丁と鍋買って行っても良いですか?」
「荷物になるでしょう! 後にしなさい!」
隣国の様式を取り入れた調理器具が有りました。欲しいです後で買いに来ます。
「―――ここが仕立屋よ。靴も頼めば作ってくれるわ」
「この色っぽいなドレス、セシルに似合いそうです」
「はいはい物色するのはまた今度ねー」
襟ぐりが結構空いてるドレスが有りました。着熟せられたら格好いいと思います。
「―――あれは―――あそこは―――」
そうしてケイト様は村内での主要な場所を紹介してくれました。短時間で簡潔、ですが非常に分かり易く説明してくれるので私はとても助かります。
中天に上っていた太陽が傾いた頃、ケイト様は村の門に向かいながら言います。
「じゃあ最後は外に、森に行くわよ」
「森ですか」
「ええ。そこが私達聖女にとって一番大事な場所になるから」
その言葉を聞いて私は気を引き締めます。ケイト様が言った“森”は私がここへ来る前にゲイル様が言い含めた秘密と大きな関わりが在るのです。
門へと差し掛かるとそこには当然ウェルナーさんが居てました。お務めご苦労様です。心なしか私の手を引くケイト様の力が強くなった気がしつつ彼の元へ近付きます。
「お兄ちゃん!」
「ケイト」
やっぱり。ケイト様がウェルナーさんを兄と呼んだ時そう思いました。
「先程振りですウェルナーさん」
「ああ。無事に会えたんだな、ケイトに」
「ケイト様とは兄妹だったんですね」
私の言葉に首肯したウェルナーさん、そんな彼にケイト様が近寄ります。並ぶと身長差がすごいですね、服の裾を掴んで背伸びしているのが微笑ましいです。
「私達ちょっと森に行ってくるから!」
「そうか……付いて行こうか?」
「いらないわよ! この辺に魔物が寄り付かないのはお兄ちゃんもよく知ってるでしょ!」
「だが獣は出る」
「バカにしないでよね! それぐらい余裕で追い払えるわ!」
お兄さんに心配されたのが不満なのかケイト様は頬を膨らませてぷいっと顔を逸らします。抱っこしたいぐらい可愛いです。それと獣を追い払えるなんてすごいです。身に纏う聖気は量と質共にかなりの物で中位聖女の中でも上の方に入りそうなのはお目に掛かった時点でわかっていましたが……私なんて下位聖女の中でも最弱なので獣に襲われたら逃げるぐらいしか出来ません。体力には自信有りなので頑張って走ります。
申し出を突っぱねられたウェルナーさんですが嫌な顔一つせずケイト様の頭を撫でて言います。
「わかった。だけど何かに遭ったら直ぐに呼べよ。オレが直ぐに駆け付ける」
「……ん」
ちょっと意外でした。また負けん気強く言い返すと思ったのですがケイト様は私のそんな予想に反して素直に頷いています。それはきっと私が知らない2人の間で通じる絆だったのかもしれません。私は一応お姉さんですけど残念ながら弟君と暮らせていないので実感がまだ湧かないんですよね。早く会いたいです。
「じゃあ行ってくるから」
「ああ。……アリサも気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
「ほら早く行くわよアリサ!」
ケイト様はウェルナーさんから離れると再び私を引っ張り始めます。目指すは森、その奥深くに存在する……封印。
遙か昔、“光の大聖女”エリザヴェータ様が強大なる魔―――“邪神”を封じた地を目指して私達は森へと向かうのでした。




