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プロローグ

 崩壊する()()。砕けた水晶の欠片が陽を浴びて輝くようなそれを私は状況も忘れて見入る。それだけこの光景は美しかったのだ。


 封印。それは遙か昔1000年以上も前、凶悪な魔物を支配して世界を脅かした“邪神”を“光の大聖女”であるエリザヴェータ様が封じ込めるのに行使した聖なる御技。

 その偉大なる封印が泡のように消えていく。


「―――封印が破れたか」


 声が聞こえた。私以外の声が。

 輝きと共に消え去る封印の中から黒曜石のように美しい黒髪の男性が現れる。何故か体から力が抜けて地面にへたり込む私はただ見ていることしか出来ない……目の前に居る彼の()()など考えるまでも無いだろう。だけどその事実を受けいれてしまえば正気で居るのは難しいだろう。だってそれはとても恐ろしいこと。

 私の直ぐ傍にまでやって来た黒髪の男性はまるで夜空を溶かしたような瞳を向けて声を掛けてきた。


「いつの間に森に……そこの娘。今は創星暦(そうせいれき)何年だ?」

「…………」

「聞こえているか? どこか具合でも悪いのか」

「ひゃい!? え、えっとそのあの……創、星暦? はもう使っていなくて……今は聖暦(せいれき)1012年……です」

「聖暦。リーザが俺を封印して暦を新しくしたのか? まあ区切りを付けるのは大事だろうしな。成る程成る程、千年も経てば森に沈むか」


 彼は一人で納得したように頷くとその場で屈み、私の方へと手を差し出してきた。


「立てるか?」

「え? え? え?」


 落ち着いた声が私の耳朶を震わす。彼の纏う空気はとても優しく……それが予想する正体とはどうしても繋がらず混乱する。だから差し出された手を直ぐとることが出来なかった。理性は逃げろと訴え、本能は大丈夫だと囁く。危機的状況である筈なのに心身は安らぎを感じている……どうすれば良いのかわからない。


「娘。お前の名は?」

「……ア、アリサです……アリサ・グレイ」

「そうかならアリサと呼ぼう。俺はネロ・グラン・メラース。いや、こう言った方が通りが良いか? 俺は―――」


 逃げた方が良い。だって光の大聖女エリザヴェータ様が施した封印の中に居た存在なんて―――


「“邪神”だ」


 ああ、やっぱり。私は諦観と共に目の前の存在を見る。己を邪神であると認めた男性は見惚れるような笑みを浮かべて私に言う。


「急で悪いがお前に頼みたいことが在る。聴いてくれるか?」


 邪神からの頼みに私は体が震えてくるのを止められない。わ、私……これからどうなるんだろう? 

 絶体絶命の状況の中で私の脳裏にはここに至るまでの記憶が駆け巡っていくのであった。

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