サンタクロースの使い魔スノウの大仕事
ノリで書きました。
軽く読んで頂けましたならば幸いです。
よろしくお願いします。
ハロー、みなさん。
ホワイトウィング国支部担当サンタクロース様の使い魔がひとり、ぬいぐるみ作製部門ネコ隊リーダーの白ネコ、スノウ・ソリッドホワイトです。
僕は今、1人掛けのソファでくつろぎつつ、ぬるいミルクを嗜んでおります。優雅です。
ええ、ええ。何せつい先ほど、1年かけた大仕事がようやく終わった所なのです。
大仕事とはなんなのか、それを今からご説明いたしましょう。
まず僕達が担当するホワイトウィング国。この国には子供が大体1000万人います。そのうち、サンタクロース様に手紙を書く子供は大体600万人くらいでしょうか。子供といえど赤ちゃんは書けないし、成人が近づく子供はお手紙を書いてくれなくなってしまうのです。淋しい。
まぁ、その600万人の子供のうち、毎年大体10万人くらいがお手紙に「〇〇のぬいぐるみが欲しい」と書くのです。
そこで我々ぬいぐるみ作製部門の出番です。何を注文されてもいいように、ありとあらゆる種類のぬいぐるみを1年かけて、10万個以上縫い上げるのです。余裕を持たせて、多めに縫います。
そうして先ほど、ようやっと縫い終わったのです。
後はホワイトウィング国支部に所属している100人のサンタクロース様のお仕事です。世界で1番暇で、世界で1番忙しいお仕事です。なにせ1年で1日しか働かないのですから。でもその1日の忙しい事、忙しい事。
サンタクロースは神様のご指名により就く尊きお仕事ですが、正直僕には無理です。
今年は2週間も前に僕の仕事は終わりました。クリスマスも300回目ともなれば慣れたものです。
子供からの手紙が出揃い、プレゼントの仕分け作業が終われば次の仕事の始まりは年明けから。
今は集計待ち。しばしの休憩です。
「スノウ隊長!スノウ隊長!!大変にゃん!」
そう叫びながら部屋へ飛び込んで来たのは、三毛ネコのオリバー・カリコブラックです。三毛ネコと言いつつ、茶色いのは鼻の周りだけ。腹が白いほぼ黒ネコです。
「にゃんですか、騒々しい」
「集計が出たんにゃ!」
「そうですか。今年も1番にゃん気はキャシーちゃんぬいぐるみですか?」
キャシーちゃんは10年くらい前からずっと1番人気のピンクのカバのキャラクターです。毎年1万個近い注文が入るので、今年も勿論用意しています。
僕は慌てず優雅に尋ねますが、オリバーは開ききった瞳孔で答えました。
「ヴィッキーちゃんです」
…………………………。
「だれにゃーー!?」
つるりと前足が滑って、カップがガシャリと落ちます。
「情報収集部門によると10月くらいからじわじわ人気が出キャラクターらしいにゃん」
いえ、まだ焦ってはいけません。そう僕達はプロ。ありとあらゆる希望に応えられる様に、この1年準備をしてきたじゃあありませんか。手直しすれば使えるぬいぐるみがあるかも知れません。いえ、きっとあるはずです。
「…して、そのヴィッキーちゃんにゃるキャラクターのデザインはどんにゃにゃんですか?」
「それが…紫の」
「紫の?」
「……フラミンゴにゃんです!!」
「げふぅっ!」
思いがけない角度からのダメージに、口から毛玉が出てきました。なんたる事。失礼、失礼。
「しかも」
「まだあるにゃん!?」
「頭に空色のカタツムリ飾りをつけているとか」
「空色の、カタツムリ…だと!?」
フラミンゴのぬいぐるみは勿論作りました。ただしピンクです。カタツムリのぬいぐるみは作ってすらいません。ここ数年…十数年……いや、数十年と注文が入っていないからです。
「今年キャシーちゃんの希望は1632個、ヴィッキーちゃんの希望が21256個です!」
「にゃまんっ…!!」
目の前がくらりと揺れました。もうダメです。終わりです。神は使い魔を見捨てたもうた。1万個近いキャシーちゃんも見捨てたもうた。お蔵入りです。
「くっ…いいえ!私は神の御使たるサンタクロース様の使い魔!あと2週間ある!やるだけやらにゃば!!」
肉球をぐっと握り込み僕は立ち上がります。
「オリバー!全クマ隊、イヌ隊、アライグマ隊、ネコ隊を招集!!全白クマに布集め、全灰色クマに綿集めを命じます!イヌ隊はデザインを元に型紙の量産!出来次第アライグマ隊は裁断を!ネコ隊は糸の準備を先行して下さい!!急いで!」
「サー!イエッサー!」
僕は部屋の片付けをメイドのモルモットに頼むと、急足で部屋から出ました。
途中、クマ隊のリーダーレイリー・ポーラと合流します。
「すみません、クマ隊へ勝手に命令を出してしにゃいにゃした」
「構わん。緊急事態だ。今年もキャシーちゃんだと思っていたんだがな」
「僕もです。一体ヴィッキーちゃんにゃるキャラクターはどこから流行り出したにゃか」
そこへイヌ隊リーダー、ハイネ・マラミュートシルバーが加わります。
「おい、聞いたか?ヴィッキーちゃんはレインボードリーム国から来た流行りらしいぞ」
「「レインボードリーム国だって!?」」
忘れもしません。あれは38年前の事。
クリスマス3ヶ月前に突如現れた“デイジーちゃん”。黄緑地に白い小菊柄のブタのぬいぐるみでした。もう一度言います。
黄緑地、に。小菊柄、です!
今から生地を一から織れと!?
そう叫び、結局布を新しく織り、柄を魔法でプリントました。そんな柄のストックあるわけない。全力で魔法を駆使して、全ネコ隊で高速織りし続けました。もう高速織りの記憶しかありません。全イヌ隊はきっと高速プリントした記憶しかないでしょう。
あのデイジーちゃんの流行の発信もレインボードリーム国でした。陰謀です。ホワイトウィング国のサンタクロース様が希望のプレゼントを配れないと、評判を貶める陰謀に違いありません。
「おにょれ、レインボードリーム!」
アライグマ隊リーダー、ノイン・イノートも加わり、工房の扉を開けます。
ズラリと100台並ぶミシンにネコ隊が次々紫の糸をセットしていきます。針山に刺さる手縫い針にも紫の糸が通されて行きます。
隣の作業台ではイヌ達が次々と型紙を作りアライグマ達が貰って行きます。
壁際の資材棚には白クマ達がとんどん紫と空色の生地を運び込み、運び込まれた端からアライグマが作業台へ布を広げて裁断を始めます。
「白クマ達は布の運搬が終わったら目等の飾りパーツの収集に向かって下さい。イヌ隊は型紙のストックをある程度終えたら縫製へまわって下さい」
隊長達で進み具合を確認しながら指示を出して行きます。順番に休憩を取りながら、日が沈み、日が昇り、日が沈みます。
「おい、綿が足りないぞ!」
「誰か、サンタクロース様のヒゲでも刈ってこい!」
「髪もだ!」
「いや、ハゲだった!」
疲れ過ぎて暴言が飛び交います。
「レイリー、綿集めの灰色クマはどうにゃってますか?」
「雲羊の毛の伸び待ちだ。朝になればまた刈れるだろう」
「わかりました。綿詰め一時中断!出来る作業へまわるにゃです!」
ある程度完成品が溜まってきたところで、隊長4匹での検品作業が始まります。チェックチェックひたすらチェック。
「OK、OK、OK…」
「よし、よし、よし…」
「合格、合格、こっちも合格…」
「問題にゃし、問題にゃし、問題…ん?目がにゃい、やりにゃおし」
一体どれ程時間が経ったのか。あと何日あるのか。目がショボショボしてきました。
「多分OK…」
「大体よし…」
「合格かな…」
「問題にゃしと言えばにゃし…」
限界が近いです。
その時、カウントしていた灰色クマ達が全員万歳しました。
「達成!達成です!!お疲れ様でした!!」
「皆さん!終わりですよ!終わりましたよ!!」
灰色クマ達がミシンに取り憑かれたような虚な仲間たちの背中を叩いていきます。
ハッとした仲間たちはその場で崩折れ、白目を剥いて倒れて行きます。
本当に、終わったのです。
そこへ我らが主、サンタクロース様が現れました。この方は第8位の方です。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。皆さん、お疲れ様でした。あとは我々の仕事。ゆっくりお休み」
そうして次々サンタクロース様達が現れます。
「1番ヴィッキーちゃんが多い担当は誰だ」
「確か36位のだ。4008個だったか」
「トナカイ達のルート暗記は終わってるな」
「ほらほら、どんどん袋に詰めろ」
「出発まで3時間切ったぞ」
サンタクロース様達が必要なヴィッキーちゃんを詰め終えて工房から出て行くのを見送り、我々隊長達もその場で眠りに落ちました。
どれくらい寝たのでしょう。
目が覚めると、全てのサンタクロース様が揃い、そこら中でパーティの準備が整っていました。無事プレゼントを配り終えた高揚感で場が賑わっています。
「皆の者、今年はぬいぐるみ作製部門でトラブルもありましたが、良くやりました!!さあ!飲んで食べて歌いなさい!我々のクリスマスパーティーのスタートです!」
第1位のサンタクロース様の掛け声でパーティが始まりました。
僕もマタタビをちびちび舐めながら、久々のぬるいミルクと洒落込みます。
パーティはこのまま年明けまで続きます。
終わればまた、僕はぬいぐるみを作り始めるでしょう。
それがぬいぐるみ作製部門ネコ隊リーダーたる僕の、誇りある仕事なのです。
〈おわり〉
〜とある家〜
娘「わぁぁ、ヴィッキーちゃんかっわいい〜!神様、サンタさんありがとう〜!」
父「おい…なんだその頭にカタツムリくっつけた奇天烈なフラミンゴは」
娘「えっ!?パパヴィッキーちゃん知らないの!?信じらんない!!今ちょーーー人気なんだから!」
父「知るか、そんなん。何が可愛いんだ?」
娘「はぁ〜あ、これだからパパは…」
何故ヴィッキーちゃんが短期間にこれ程の人気が出たのか。それは誰にもわからない。
…いや、本当に陰謀なのかもしれない。
ーーー
なんちゃって。
よいお年をお迎えください。
ありがとうございました。