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第一章 7.獣人と人間と魔術の関係①

「い、痛てぇ……全身がぁ~、複雑骨折してる……もうむりだぁ」


「何処も曲がってもなけりゃあ、腫れてもねぇ。そんなことを言える元気があんなら全く問題ねぇだろ。まぁーた、調子に乗っからそうなンだよ、ったくよぉ」


 ソウシが呻き、ヴォルクが嗜める。


 もうすぐ日が登りきろうかという頃。ラスカの魔術講座から1日が経ち、毎朝の勇者キリオスの1日分の食事を届けた後の帰り道でのこと。気持ちの良い夏の日差しと金色の稲穂の中を、キリオスへの食糧配達を終えた帰りに4人が進んでいた。ヴォルクを先頭にマーパー、チョノの2人が最後尾。ソウシは足を進行方向にして3人に仰向けに担がれている。


 チョノもヴォルクに続きソウシをさいなめた。


「アニキの言う通りっすよ。肉体強化の魔術は体の負担を減らす訳じゃないんだからさ。ソウシも調子に乗りすぎだったんじゃね?」


 チョノは自身も調子に乗るタイプではあるが、今回ばかりは共感してくれない。チョノにとってアニキの発言は絶対であるので、ヴォルクが嗜めた段階で共感するよしもないのだが。


 更にはマーパーまでもが心配する。


「初めて魔術が使えて嬉しいのはわかるけどさぁ。運んでもらわないと動けなくなるまではさぁ、流石に途中でわかるだろぉ。それに、加減を間違えると骨が本当に折れるんだからなぁ」


 ソウシにとってはまさに四面楚歌。とはいえ、しっかり運んでくれている上に心配からくる叱責であるので優しい友人たちである。


 皆の叱責を聞いたソウシは悔しそうな顔をした。


「う、でもさぁ。毎朝さぁ、手伝って貰うのも申し訳ないじゃん?今朝なんてマーパーだけじゃなくチョノも来てくれてさ。やっぱり一人で荷馬車を運べた方がいいと思ってさ。ちょっと頑張って一人で引いて行けるなら良いかなぁなんて、思ったんだけどなぁ……。あとは、回復魔術も使えば何とかなる!的な!完璧なはずだったんだよ、ホント!」


「はぁ、志はわかンけどよ。それで迷惑かけたら本末転倒だろが。そういうのが、調子乗ってるって言ってンの」


 ヴォルクはソウシの足をつねる。


「いっっつ!?獣人の力でそれはだいぶ痛いんだが!?」


 更にはチョノの追撃。


「しかもソウシ、回復魔術の書かれた魔法陣の板を忘れてんじゃん?」


「う、もはや何の反論もできねぇっ!でも、みんな優しいよぉ。運んでくれてありがどぉ~。あ~がらだがいだい~……」


 再び呻くソウシだが、言動とは裏腹に内心は素直に落ち込んでいた。何せやっと役に立てると思って張り切ったらこのザマだ。


(まーた、迷惑かけて。空回りばっかだなぁ)


 とはいえ、落ち込むのは以前と比べて“少し”だ。やはり魔術が使える様になり挽回のチャンスがあるのが大きい。今までの何の取り柄も活躍もできないという絶望とは違うのだ。今回はやり方を間違えただけで改善の余地がある。魔術が使える以前の自分とは雲泥の差なのだ。ここから世紀の大活躍!っと夢見るソウシ。


 もっとも、ソウシの周りの人達は彼ができる限りの事を頑張っているのを知っているので、全く役に立たないなどとはこれっぽっちも思っていないのだが、それを本人が知る由もない。


 そこでマーパーがふと疑問を口にする。


「それにしてもさぁ。ソウシ、魔法陣しか使えないって初めて聞いたよぉ」


「そうっすよね。なんというか……普通は逆じゃね?みたいな」


 2人の発言を聞いてソウシは驚く。


「え?そうなん?割とあることなのかと思ってたんだけど、そんなに珍しいんだ」


 ヴォルクは頭だけ振り返りながら「当たり前だろ」っと返す。


「そもそも魔法陣を使うンも、詠唱で魔術を使うンも理論上は大して変わらねぇンだ。逆に魔法陣しか使えねぇってどういう感覚よ。まぁ、獣人の俺らは固有魔術以外は得意じゃねぇらな。あまり偉そうなことも言えないんだが」


 そこで、ソウシは根本的な疑問を思い出す。先日のラスカの魔術講座でも頻発していた不明な単語についてだ。


「質問なんだけどさ。その、固有魔術とかってなんなの?あと、固有魔術以外は得意じゃないとかあるん?それは個人差があるみたいなこと?」


 それを聞いた3人は酷く驚いて互いに顔を見合わせた。


「オイオイオイ、それはマジかよ、お前」


「えぇ、ソウシ、今まで魔術を習っていたんじゃないのぉ?」


「実はやってるフリしてサボってたんじゃね……?」


「いやいやいや、まって!?ちょっと待って??ちゃんとやってたから!マジで!だからこそ、今まさに魔術を使えてる訳じゃん!?確かに使えるまでが長くって、人よりはだいぶ時間を無駄にしてたかもしんないけどさっ!」


 予想外の言われように焦って早口になるソウシの発言を聞いて、ヴォルクはふと何かに納得した様に頷いた。


「あー、あれか。当たり前すぎて知らないとは思わねぇからな。飛ばしちまったンじゃねぇかな。それに、これで腑に落ちたわ。ソウシが俺ら獣人に対して平等どころか、謙ってさえいる理由が。小せぇ頃にそういう基本的な教育、というか常識を教えられてねぇンだわ、これ」


「あぁ〜、なるほどなぁ。オイラなんか全身が獣っぽくて、いっつも人間には凄い目で見られるからなぁ……。だから人間って苦手なんだけど、ソウシからは一度も感じたことがないなぁ」


「やっぱ流石アニキっすね!オレなんて違和感も何も感じなかったっすよ!」


「いや、それはお前が鈍感なだけなンじゃねぇかな……」


 そんな会話を獣人の3人がする中で、話についていけないソウシは会話の切れ目を見計らって質問する。


「あ、あのぉ〜。誰でも知ってる当たり前の事で大変恐縮なのですが、僕は知らないので教えて頂けると大変に嬉しいといいますか、ありがたいなぁなんて……」


 ヴォルクが「あぁ、わりぃわりぃ」と説明を始めた。


「あまりに驚いたンで忘れてたわ。あー、どっから話すかな。つーか、そもそもどこまで知ってンだ?」


「えーっと、魔術刻印が臓器ってことくらい?」


「微妙なとこだけ知ってンな。まぁいいか。とりあえず全部説明すっから、しっかり聞いとけよ」


 ソウシは深く頷く。仰向けに担がれているので、頷くというよりも空を見上げる様になってしまっているが。


 ヴォルクが顎を撫でて悩みながら話し出す。


「そうだな……。まずその“魔術刻印”なんだが、これは魔力を知覚しコントロールする為の臓器だって事は大丈夫だな?」


「大丈夫だぜ!」


 そこまでの内容はソウシも既に聞いていた。魔術が初めて使えたあの後にラスカから少し聞いたので、知ったのはつい最近ではある。

 ラスカから聞いた話を纏めると、魔術を使う際に魔術刻印からビビっと何かの“力”の様なものを出して空気中の魔力を支配、すなわち占有しているそうだ。例えるならば、手(魔術刻印)でボール(魔力)を掴んでいる感覚に近い……かもしれないらしい。この辺の正確な感覚は実際に魔術刻印を持っていないとわからないのだろう。そして魔術を発動する場合には、そのボール(魔力)を手(魔術刻印)で発動したい魔術の形にして投げる様な感覚だそうだ。ちなみに詠唱や魔法陣は魔力を発動したい魔術の形にするのを助ける役割なので、熟練者は無詠唱でも魔術が使えるらしい。ソウシもいつかやってみたいが、果たしてできる日は来るのだろうか。


「んで、普通はこの“魔術刻印”を使って魔術を発動する。だからよ、詠唱による魔術も、魔法陣による魔術も、感覚的には大差ねぇンだよな。言うか、書くかの違いだけでよ」


 そこまで説明を受けて、ソウシは昨日の初めて魔術を発動した時のことを思い出す。

 魔術行使は詠唱でも魔法陣でも感覚に大差はないというが、ソウシは灯りの魔法陣を発動した後に詠唱で同じ魔術を発動しようとしても全くできなかった。加えて、感覚に大差がない以前にその“感覚”が何かすら未だにわかっていない。というか、そもそも異世界人であるソウシは魔術に必須の臓器である魔術刻印が十中八九ない。この世界の常識がソウシにだけ当てはまっていないとすると、やはりソウシの魔術は何かがおかしいのだろう。

 そう考えて、ソウシは昨日の出来事をもう少し詳しく思い返してみることにした。


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