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第一章 10.シェロとの約束①

 4人がワイワイと話しながら村の端から中央広場への道を戻っている途中、前から2人の親子がやってきた。父親の大柄な獣人は片手で娘を抱えつつ、軽く手を挙げながら声をかけてくる。


「よう4人とも……って、すげぇ格好で運ばれてんな、ソウシ。何かの遊びか?」


「違うんっスよ!タイアーさん、コイツ無理に肉体強化の魔術を使って荷車を1人で運んだもんだから、体がバッキバキで動かなくなったんっスよ!動けない本人を運ぶ身にもなって欲しいっスよ」


「だからごめんって言ったじゃんさぁ〜。お礼も言ったし許してくれよぉ〜」


「はははっ!それは何というか、ソウシらしいアホっぽさだな!……ん?待てよ?肉体強化ってソウシ、魔術を使える様になったのか?」


「そうなんですよっ!遂にって感じです!これからは色々任せちゃってください!……ん?あれ?タイアーさん今、僕らしいアホって……」


 そう息巻くソウシだが、残念なことに動けずに担がれており説得力に欠ける。

 タイアーはそんなソウシを見て、困ったように頭をかいた。


「そうだなぁ。ま、考えないといてやるが、その格好で言われてもなぁ」


 そこでヴォルクが話が進まないと思ったのか、割り込んで質問をする。


「タイアーさん、わざわざこんなところまで何かあったンですか?急ぎの用でも?」


 親子の父の名はマック・タイアー。身長217cmの筋骨隆々の獣人で、固有魔術は“隠密”。過去に学園国家の獣人先遣隊の隊長を勤めていたが、妻が娘の妊娠と同時に急速に衰弱し始め、出産と同時に他界したことにより育児の為に引退したそうだ。自身の能力と過去の経歴から、村では哨戒などの警備を取り仕切る事が多い人物である。

 ソウシは他人の過去について詮索するタイプではないが(自身も聞かれると返答に困る為)、タイアーについては娘の容姿から過去に関連した噂が流れてくるので薄らとだが知っていた。

 ソウシがいつも関わるのは優しい村人達ばかりだが、部外者である以上は疎む輩も多く、そこを避けると必然的に優しい人達との関わりが増えているだけだ。当然のように、リコス村にも他人の噂をする少し嫌なタイプの村人は少なからずいる。とはいえ、嫌がらせなどがないだけでも、村のモラルは高い方ではあるのだろう。

 もしかすると、自分を保護してくれた村長のアスアジャやタイアーなど権力者の道徳心が高く、陰で守ってもらえているのかもしれない。


 そんな偉大なる守護神タイアーが進んでいるのは村はずれの森へと続く道。狩のために大人達で通るならまだしも子連れで来るような場所ではないため、ヴォルクの疑問はもっともであった。


 その質問にタイアーはヴォルクとマーパーの2人を見て話す。


「ヴォルク、マーパー。お前達がこっちにいるって聞いてな、シェロとの散歩ついでに呼びに来たんだ。先日、村の縄張りの中で鮮血狼にお前ら4人が襲われただろ?会議で周辺の哨戒ついでに、その時の詳しい場所と状況を見分しようって話になってな。お前達に現地で詳細を聞きたい。この件について、最初は偶然か、縄張り争いが少し過激になっただけで一時的なものだろうと然程気にしていなかったんだが……。念のために哨戒を強化してみたら確かに縄張り付近の鮮血狼の数が異常に多い。想定よりもかなり深刻な問題かもしれん。できる限り接敵は避けるが、戦闘の可能性もある。気を引き締めて行くぞ」


 タイアーの呼び出しに最初は少し驚いていたヴォルクとマーパーも、話が終わる頃には集中した面持ちで引き締まった表情をしていた。


「了解です」


「了解したんだなぁ」


 タイアーが娘を連れてきたのは呼び出しのついでの散歩。どうやら、男手一つの育児で忙しい身の上でも合間を見て娘とのコミュニケーションを忘れない性分らしい。しかも“呼び出しのついで”ではなく“散歩のついで”である。しかし、帰りは急ぐならば最愛の娘はどうするのだろうか。


 担がれたソウシは地面に降ろされる。そして、チョノとソウシはタイアーの元へ向かう2人を見つめて、置いてけぼりに少し焦りを覚えた。言外に、自分達は足手まといだと言われていると感じたのだ。


「あ、あの!僕たちは……」


「アニキ達が行くなら俺も行くっすよ!」


 それを聞いたタイアーはゆっくりと、しかし有無を言わせない口調で首を横に振った。


「ダメだ。何が起きるか分からん。お前らは14、15だろ。ここは大人に任せとけ。代わりに、お前達にはシェロを家に送る任務を授けてやる。可愛い愛娘だ。怪我でもさせたら命がない重要な任務だぞ。ん?」


 どうやら帰りはソウシ達に娘を預ける算段だったらしい。というか、失敗すると命が無いなら引き受けない方がいいのでは?そんな疑問がソウシによぎるが、もちろん口には出さない。それよりも、ソウシは自分が14歳だと言われたことにチクッと心が痛んだ。


 そこで空気を読んで大人しく黙っていたシェロと呼ばれた少女が、今だ!っとばかりに真っ直ぐソウシを見ながら満面の笑みで父の腕から飛び降りる。


「お兄ちゃん!あそぼ!」


 彼女の名前はシェロ・ラプス・テクタイト。歳は12〜13歳程だろうか。狼に関連する名前が付けられることの多いリコス村ではかなり珍しい名前ではあるが、それ以上に目を引くものがある。それは髪と瞳だ。宇宙の様に黒く、そして星が散りばめられた様に光る髪と瞳。日差しに照らされて、髪が銀河の様に()()に輝く。幻想的で美しい少女であるが、それより重要なのは“獣人の要素が一つもない”ことだ。獣人のタイアーが実父であると主張しているにも関わらず、だ。


 シェロに呼ばれて、そちらを見て、ソウシはすぐに視線を外して父親のタイアーに進言する。


「僕も哨戒に連れて行ってください!お願いします!」


 無視されたシェロはガーン!っと効果音が出そうな程に唖然と口を開けてショックを受け、それを見た父親は眉間に皺を寄せながら鬼の形相でソウシに迫る。


「オイオイオイオイ。うちの娘を無視した挙句に泣かせるとは良い度胸だな?おい。おら、うちの可愛い娘を見てみろよ。下向いて唇噛み締めながら泣きそうになってんじゃねぇかっ!どう責任とんだぁ?そもそもだっ!俺はお前がお兄ちゃんと呼ばれていることも気に食わん!!おう、やんのか!?」


 先程までの理路整然とした冷静さは何処へやら。タイアーはソウシのこめかみに拳を当ててグリグリとめり込ませる。


 ソウシはジタバタしながら


「ちょっ!いたっ!痛いです!マジで獣人の力でやるやつじゃないから!人間と獣人じゃ強度が違うから!!みんな、そこんところ考えてっ!?ちょっ!辞めてお義父さん!!」


「だーれがお義父さんじゃおら!まいったか!この!」


 そうこうしていると


「えへへ、お兄ちゃんもシェロを無視するからだよ?無視しちゃダメだからね?」


 っと、シェロが満面の笑みを浮かべた。娘の笑顔を見たタイアーは満足した様にソウシを離して、溜息を吐きながらいつもの冷静さで言い聞かせてくる。


「まぁ、お前の年頃だと色々と成果を焦るのもわかるがよ。生き急いでも良いことないぜ?魔術も習得できたばかりなんだろ。つい先日も鮮血狼の集団に襲われたばかりじゃねぇか。ちょっと焦りすぎだ。それはチョノもだ。まぁ、お前は実力もあるし大丈夫だと思うが、別にお前が弱いからメンバーから外した訳じゃない。あまり大人数で時間をかけて行動すると、ただでさえ殺気立ってる狼達を刺激しかねん。だから、今回は少数精鋭でスピードと隠密性を重視したんだ。マーパーはもしもの時の離脱に固有魔術の“加速”が有効だから選んだ。ってな訳で、2人とも今回は留守番だ。良いな?」


「了解っす……」


「はい……」


 チョノは特に異論はなかったようだが、少し残念そうにする。性格も固有魔術もバリバリの武闘派である。この手の任務には全て参加したいくらいなのだろう。

 ソウシはタイアーの優しさや冷静な所を尊敬しているし、反抗するつもりもない。それでも、だからこそ焦りを覚えた。


(タイアーさん……僕、14歳じゃなくて16歳なんだよ。騙していて、ごめんなさい。本当だったら、もっと活躍できてなきゃいけない年齢なんだ、僕は。だから、もっと頑張らないと。嘘をついていても、せめて年齢だけは見合うように。そして、認められたら、ちゃんと謝ろう。ごめんなさいって。それと、ありがとうって)


 その謝罪の言葉は思うだけで、ソウシの口からは出ることはなかった。彼らの優しさが、暖かくて、眩しくて、失いたくなかったから。

 保護された当初に、ここで生きていく為に吐いた嘘。“子供”という名の無能の免罪符。何も無いソウシが、異世界で保護される為の理由。生きていく為の偽り。

 その胸を刺す罪悪感だけが、いつまでも消えなかった。


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