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第一章 1.自称勇者の来訪

「ヤバイヤバイヤバイっ!!」


「黙ってろ!舌噛むぞ!!」


 森の中で男が4人走っている。より正確には獣人が3人、その内1人の人間が抱えられながら叫ぶ。

そして、その後ろを追う複数の獣の影。


「ヴォルクの兄貴!何でこんな浅い森に大量の鮮血狼がいるんすか!」


「知るかチョノ!死にたくなきゃ走れ!」


 ヒョロッとして背の低い獣人チョノに、大柄な獣人ヴォルクが人間の少年を抱えている。

 すると、正面にやや木々の少ない空間が見えた。街道が近いのかもしれない。足場が固まり障害物がなければ、村まで逃げ切れる可能性はまだある。


 ヴォルクがすかさず指示を出す。


「マーパー!全員に“加速”使えるか!?」


「わ、わかったぁ!あっ!」


「くそったれ!こんな時に躓きやがってっ!!」


 マーパーが飛び出た木の根に躓いて転び、それを見たヴォルクが足を止めて叫ぶ。

 一度止まれば最後。鮮血狼の姿は見えずとも、既に周囲は囲まれていることだろう。そうすればジリジリと包囲を狭め確実に狩られる。もはや猶予はない。


「あ、アニキ……」


「どうするんだなぁ……」


「ごめん……僕がいなければ……」


 窮地に振る少年たち。


「こんなところでッ!終わってたまるかよ!」


 ヴォルクの咆哮が、日中にも関わらず薄暗い森にこだまする。


 絶体絶命。

 まさに、その時。


「とぉう!オレが来たからには、もう安心だぜっ!!」


 わざとらしい掛け声と共に、原始人の様な男がひと薙ぎで3匹の鮮血狼を切り裂きながら現れた。


 ✳︎✳︎✳︎


「助かりました。ありがとうございます。まさに急死に一生。この出会いに感謝します。俺の名前はヴォルク。村長の息子として、この恩に報いる為、村にいらしてくだされば手厚くおもてなし致します」


 突如として現れた男は隠れた鮮血狼をも刹那も迷うことなく炙り出し、傷ひとつ負わずに撃退してみせた。森の王者とも言われる鮮血狼を、だ。その実力が尋常ならざるものなのは、それだけでも充分に理解できる。


 その超人は凄まじい声量で豪快に笑う。


「ハッハッハッ!感謝される程の事でもないさ!そう畏まるな!お礼も、全く無くていいぞ!まさか、こんなところで人助けができるとはっ!やはりオレは運が良いな!!そういえば、まだ名乗っていなかったな!名乗りは重要だよな!しっかりと、決めなければ」


 話を挟む隙すら与えず、息すら吐かない勢いで怒涛の様に話し切った超人は、ここで一拍大きく息を吸い、仮面を被ったヒーローの様にポーズを取る。


「『勇者』と書いてメシアと読むッ!そうッ!オレの名前はキリオス・ルトカ・ユースティシアッ!!『勇者』キリオスッ!ッだ!!」


 まるで背景が爆発する派手な演出を錯覚、いや、実際に背後の木々を爆発四散させながら大声で名乗る自称勇者ことキリオス。ポーズものキレも良く非常に決まっている。

 ある一点を除いては。それはつまり、容姿である。森に住む原住民の如く髪はボサボサ、髭はモジャモジャ、服は腰巻きのみで、武器は木の棒である。もはや、腰巻が生き残っていることが奇跡であるとすら感じられる有様だ。しかし、髭と髪から覗かせる瞳は優しげで整っているし、原住民にしては物言いも判然としている。完全な原住民という訳でもなさそうだ。何か訳ありなのかもしれない。


 爆発で飛び散った木屑を払いながら、ヴォルクはその原住民らしからぬ言動に違和感を感じたものの、とりあえずは助けて貰った恩を返すことにした。


「そう……ですか。しかし、恩を返さず放り出したとなれば、村の恥。こんな時間ですし、せめて一晩の宿と夕食だけでもご用意させて頂ければと。お風呂などもご用意できますが……」


 違和感があるとはいえ、見た目と匂いはしっかり原住民。そのキリオスから漂うかなり香ばしい匂いに引き気味になりつつ、ヴォルクはさり気なく入浴を勧める。

 この様な芳醇な香りで村を闊歩された日には、誰も仕事が手に付かなくなってしまうだろう。特にこのリコス村は犬や狼に関連する獣人が多いのだ。たった1人の体臭でリコス村の農産業が全滅の危機、など笑えない冗談である。しかし、それでもヴォルクが鼻を摘まないのは恩人に対する礼か、次代村長としての誇り故か。


 ちなみに、残りの恩知らずの3人は遠く離れて鼻を摘みながら様子を見ていた。とはいえ、それも仕方のないことだ。何せキリオスと名乗った男の今現在の情報は、異常な強さ、原住民風の見窄らしい格好、クソみたいな悪臭、自称勇者を名乗る痛い人、背後が爆発四散するヤベェ奴である。助けて貰ったとはいえ、関わってはいけない人間代表の様な要素がてんこ盛りの男。恩がなければ全速力で逃げていただろう。もっとも、ヴォルク抜きの3人だけであれば本当に全速力で逃走を試みたかもしれないのだが。


 キリオスと名乗った自称勇者の男は大袈裟に何度も頷いた。


「風呂か!風呂!それは良い!!是非とも頂こう!では、晩飯は米俵一俵ほどで頼む!!大食らいなものでな!ハッハッハッ!バランスの良い食事も重要なので野菜も是非とも頼むぞ!!デザートに果物も欲しいなぁ!後はそう!肉だ!!肉は欠かせない!!宿は村はずれで、人通りの少ない場所が良いな!数日ほどで大丈夫だぞ!ハッハッハ!」


 米1俵。それはつまり米60kg。なかなか想像できる量ではないが、わかりやすく言えば茶碗400杯の量。それを毎日、である。とても正気の量ではない。


 まさかの要求量にヴォルクも唖然として言葉が出ていない。謝礼は無くていいとは何だったのか。前言撤回も良いところだ。それに一晩の宿と夕食と言ったのに何故か勝手に数日に増加している。会話は成立しているのに成立していない、そんな気持ち悪さがあった。


 それを聞いた後方にいる食いしん坊の獣人マーパーは鼻を摘みながら囁き、ヒョロい獣人チョノとチビの人間ソウシが応える。


「米1俵に加えて肉に野菜とデザートを数日。村の蓄えを食い尽くちゃうんだなぁ……。そしたら、オイラの食事が減らされちゃうんだなぁ」


「マーパーは食い過ぎなんだぜ!オレらと同じの量で我慢すればさ。そうすれば、自分らの食事も減らされ……ないよな?」


「数日って、一桁でも2日から9日あるからさ。それに今は収穫期直前の夏。備蓄が1番減っている時期だし、2日ならまだしも9日だと……」


「「「自分らの食事が減らされちゃう!?」」」


 3人が声を揃えて自分達の食事の心配する。


 そのとき、ヴォルクはこの要求に対する解決策を考えていた。

 彼も予想外の要求に焦りを覚えていたが、助けて貰った上に自分から言い出した手前もあり否定し辛い。それに加えて


(あの尋常じゃない実力に支離滅裂な言動はとても常識を期待できる相手には見えねぇンだよな。ここで下手に前言撤回や交渉をして機嫌を損ねられンと……。村で暴れ出して、被害の方がデカくなる恐れもある。ただでさえ収穫直前の米が多いんだ。ここでダメにしたら取り返しがつかねぇ。……クソッ!助かったは良いが厄介な奴に遭遇したな、オイ!)


 ヴォルクは悩んだ末に判断を村に持ち帰ることにした。村の大人たちに報告もできるし、仮に2日で消えてくれるならば下手に刺激するよりも従った方が安全であろう。


「……わかりました。宿、と言うよりは使われてない民家が村の外れにあるので案内します」


「おう!助かる!ありがとう!」


(今はとりあえず案内するしかないか。食料は米を雑炊にして水増し、野菜は……)


 ヴォルクが解決策を考えつつ村外れの民家に案内をしようとした、その時。

 自称勇者ことキリオスは唐突に、ヴォルクの後方にいる3人の内の1人を指差した。


「あぁ!そうそう!そこの人間の少年!」


「……ぁえ?僕?……ですか?」


「ああ!夕食の運搬や身の回りの世話は、君がやってくれるかな?人が多いのは苦手でね!君1人で、頼むよ!」


この自称勇者の来訪が、ソウシの異世界生活を大きく変える転機となった。

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