表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2部 始動】蛮鬼―安寧ト絶望―  作者: 松浦 雀
第1部 新起動 ≪Generation≫
7/20

File.04 復活 <刺激少なめバージョン>

 


 ※こちらは、前の章で宣言しておいた通り刺激的な描写が少ないヴァージョンです。前の話を読んでいただいた方は、読まなくて結構です。




 ピッピッピッ

 電子音が聞こえる。

 それからわたしの顔を覗き込む顔もいくつか見える。

 それから、すごく眩しい

 わたしの意識はまた、深い闇へと

 落ちていく。



 目を覚ます。体の節々が痛い。わたし‥‥は?

 そこまで考えると、また意識を失ってしまう


 目を覚ます。さっきよりも少し意識がはっきりしている。わたしは藤宮(なずな)。15歳。うん。思い出せる。

 ここはどこなんだろう。

 周りを見渡そうとしたが、身体は思ったように動かずまたもや視界が暗転してしまう。



 そして意識を取り戻したり、失ったりしながら、わたしは体感で言うと丸2日くらいかけて完全に覚醒した。

 どうやらわたしは死ななかったようだ。


 わたしは今、6畳間位の白い部屋の中にぽつんと置いてあるベッドに横たわっている。動きたいが、まだそれほどには身体が思うように動かない。


 ん?

 ‥‥あれ?


 身体が‥‥ある。

 わたしはあのロボットによって殺されたはず‥‥いや、今現にこうして息を吸って生命活動をしているんだから、訂正しよう。わたしはあのロボットによって全身を粉砕とは言わないにしろ、ばらばらもいいところにされたのではなかったか。


 誰がそんな奇跡みたいなことを?


 というかそんなことが出来るならどうして隠されてた?だって、こんな技術があったんだったら、交通事故で虫の息になった人でも簡単に戻すことが出来るのだろう。


 かなちゃん達は?


 わたしが意識を失う前に走ってきているのは見えた。ただ、これは考えても考えても一人じゃ結論は出ない。この疑問は考えるのは後回しにしよう。


 そして、最大の疑問。


 なんで?


 全ての疑問はこの一言に収束する。

 なんでこんな冴えないどこにでもいるような少女を?なんでわたしは襲われた?


 よく分からない。


 そんなわたしの疑問は消えないまま、ただ何もできない時間を悶々と過ごしていると病室と、廊下と思われる通路の間にあるドアに取り付けられたガラスに人影が。そして、ガラガラと何の気はなしに開けると次の瞬間に驚いた顔を浮かべ、


「ワァーッ!患者が、藤宮薺が起きています!先生、早く!」


 そうやって叫ぶ。

 いや、誰?


 見たこともなければ話したこともない女の人。ただ、すごーく美人。端正な顔をしている和風美人。そんな人がわたしを見て驚いている。

 いやいや、驚きたいのはこっちの方だ。

 本当に誰なんだね。あなたは。


 パタパタとスリッパの足音が近づいているのが聞こえる。

 そして、ひょっこりと女の人が出てきた。

 髪はぼっさぼさでメガネをかけている。もとは美人なんだろうけど、その格好のせいで残念美人となり果てている。


 どうやらこの人がわたしのことを元に戻してくれた医者らしい。


「よっ。藤宮ちゃん、様子はどうだ?」


 いや、おったまげた。まさか担任の会津先生だったとは。

 いつも先生は髪を整えているから分からなかったのか。確かに目元に面影が残っている。


 驚くわたしを尻目に、先生はベッドの隣に置いてあった椅子を引きそこに腰掛けると、どんどんわたしに繋がれている計器の数値を持っているバインダーに挟んだ紙にメモってる。


 様子というか‥‥もうこの状況が全部分からないこと尽くめで逆に分かっていることを挙げた方が速いくらいだ、と冗談も交えて話そうとしたが、わたしの喉は思った通りに発音してくれなかった

(この時には知らなかったが、私が襲われてから実に一週間近く経っていたので喉が正常に動く方がおかしいのだ)。


「あぁ。すまんかった。まだ全快じゃないもんな。そんじゃひとまず、藤宮ちゃんが気になりそうな事を言っていくよ。」


 そういう言葉と共に、先生はわたしの持っている疑問点をほとんど解決してくれた。


 まず、わたし達のいるところは、あのロボットに襲われた山の頂にある研究施設だという事。

 その研究施設は、体面上は研究施設だが、本質上は要塞のようなところであるという事。正確には要塞というよりも城壁みたいなものだが持っている戦力的に要塞の方が近いらしい。


 勿論、何から人を守るのかは言わずもがな、あの恐ろしいロボットからだ。

 なかなか状況を理解できていなさそうな様子のわたしを見て(この時にはもうわたしは首ぐらいはほぼ自由に動かせるようになっていた)、あとで見せた方が早いか、と先生は呟いた。


 それから‥‥


「山に入っていったあなたたち五人のうち、死者はいないわ。」


 会津先生からまさかの神のお言葉が聞こえた。彼女によると全員が保護、又は救助されたらしい。

 あの状況から考えると、まさに奇跡だ。


「さて、藤宮ちゃんも元に戻ってきたことだしわたし達の置かれている状況について説明しなくてはいけない時が来たのかもしれないわね。

 (かなえ)ちゃんの話もしてあげる。心配でしょ?

 ついてきなさい」


 そう言うと、会津先生は立ち上がりドアを通って廊下を歩いて行った。


 いや、この状況でどうやって考えればわたしが付いて行くことが出来るとお思いで‥‥と思っていたらさっきの和風美人看護婦さんAがベッドを押して、運んでくれた。あ、車輪がついてたんだ。


 連れていかれている最中に廊下からガラス越しに外を見ると、そこは‥‥


 大きな倉庫?基地?みたいなところだった。

 全体が薄暗く、なんか全体的に灰色のコンクリートがむき出しになっていて、おしゃれとは言い難い空間だ。

 そして、巨大換気扇が動いているような轟音がしている。


 イメージで言うところの、まさしくロボットアニメとかで出てきそうな基地だ。

 そこには謎の30メーター位の巨大な物体がある。あれは何なんだろう。


 そんなことを思っていると、その廊下の突き当りにある巨大なドアの前に先生は立つと何やらポケットからカードキーらしきものを取り出すと、スキャンした。


 大きな起動音と共にドアが動き始める。


 そこの部屋の中には‥‥


「あ、なずなじゃん!心配したぞーっ!」

「なっちゃん‥‥お帰り」

「薺さん、おかえりなさい‥‥って、二人とも先ずはその涙と鼻水拭いてよ‥‥」

「涼華だって泣いてるじゃんかよぉー だって、だって、死んだと思ってた、なずなが生きてたんだよぉ

 泣かないわけないじゃん」

「みんな‥‥」


 涙と鼻水にまみれた千夏(ちなつ)涼華(すずか)(なつめ)がいた。


 そりゃそーだ。わたしだって死んだと思ってたんだ。しかもあれから一週間もたっているし。いくら死んでいないと聞かされてたとしても、心配しないわけがない。

 本っ当に生きててよかった。


 ベッドにいるわたしに抱きついてきて再開を喜ぶもつかの間、会津先生の声により遮られてしまう。


「それでは、再会の喜びもそこそこにして、みんなに重要なお話がある。心して聞くように。」


 そこにポツンとあった書類だらけの机にある、錆だらけでギシギシいうパイプ椅子を引いてドカッと座ると一寸長くなるから君たちも座りなさい、と三人に座るよう促してから先生がまた口を開く。


「みんな、神隠しって知ってる?」


 そんな唐突な言葉から先生の説明は始まった。


「神隠しって、日本に古来から伝わる、あの急に人がいなくなっちゃう奴ですよね。知ってるに決まってるじゃないですか。」

 気分だけなら(体調はまだ復活はしてない)元気いっぱいなわたしが答える。


「そうそう。その神隠し。そんじゃあ、ハーメルンの笛吹き男は知ってる?」


 聞いたことだけならあるかもしれない。でもよくは分からないから言わないでおく。3人を見やっても、千夏と棗はさっぱり分からん、といった顔だ。


「私、知ってます。確かヨーロッパの方で15だか6世紀ごろからある、子供大量連れ去り事件の昔話のことですよね」


 涼華は知っていたらしい。涼華の言葉により、わたしも思い出した。


 確か、あらすじはこうだった。


 中世の、ネズミの被害に悩まされているある都市に、奇妙奇天烈な格好をした笛を持った男がやって来た。

 その男が言うには、お金をくれればネズミを全部退治してくれるらしい。

 半信半疑ながらも村人たちは夢中で飛びついた。


 すると、男は持っていた笛を吹き始めた。男の笛の音色に誘われて、ネズミたちが至る所からやってきて、男の下に集まる。男は笛を吹いた状態で川に入るとネズミもついてきて、おぼれ死んでしまった。男は報酬を貰おうとするが、急にお金が惜しくなってきた村人たちは報酬を払わなかった。


 そして、あるお祭りの日に大人たちが出かけている隙に男は笛を吹き始める。その笛の音に誘われるようにして、今度は子供たちが後ろをついてきた。その数時間後に大人たちが祭りから帰って来た時には、外で遊んでいる子供は一人もいなかった‥‥


 という様な話のはずだ。


「おぉ。良く知ってたな。でさ、突然なんだがこの二つってすごく似てないか?」


「‥‥確かに」

 先生の言う通り、二つは相当酷似している。大人がいない所で、子供がいなくなる。

 でも‥‥


「確かに似ていますが、それは遠く離れているからこその物語上の偶然の一致じゃありませんか?」


 涼華さん、まさしくその通り。

 会津先生は少し悩んだ顔をした後、衝撃の話を始めた。


「この両者が物語だったら、偶然の一致で済んだんだよ。でもな、これが現実だとしたら?」


「現‥‥実‥‥?」


「そう、現実。現実だとしたら、すべてが変わって見える。

 神隠しってのは、子供1.2人がいなくなるだけだろ?

 それに比べてハーメルンの野郎は町の子ども全員。

 まぁ正確には一人だけ家に引きこもっていた男の子は助かったらしいがな。」


 そう言って、近くにあった紙コップの水をグイっと一息で飲むとさらに続ける。


「実はこれ、ハーメルンの奴はもう犯人が分かっているんだよ。」


 は???


「ただ世間にはこんなことが漏らされたら混乱の渦に飲み込まれるからな。

 それぐらいにこれから話す話は強烈だ。

 お前たちも覚悟して聞いておけよ。」


 は?????


 わたし達にこれでもかと疑問符を浮かべさせた後、先生は静かに話し始めた。


「実は、ハーメルンの笛吹き男の犯人が分かっているといったが、正確に言うと犯人はいないんだ。なぜなら、奴らは人じゃないからだ。


 奴らは、金属生命体。事実上最強の生命体だ。


 あいつらは、自分より強いものを何でも模倣する。そして、そのアップデート版となり、最強の座を維持し続けるんだ。

 勿論、その姿よりも強いものが現れたら元の形態におさらばしてそっちに移り変わる。故に自分の本来の姿というものを持たない。


 奴らはそうして生きてきたんだ。


 んで、前の世紀まではあいつらは神隠しを模倣してハーメルンの笛吹き男となっていたんだが、ついにそれをも上回る究極の兵器が出来てしまったんだ。


 その兵器名は、バーバリアン・アサ。


 アサっていうのは、北欧神話で出てくる神族の名前だ。戦の神。

 まぁ、こう言っても口だけじゃ分かんないだろうから、少しだけ学校で教えられない歴史の授業をするぞ。


 今の日本には、町村が合計9あって、それらを合計した全人口は約5万人。これは知ってるよな?」



(作者注:申し訳ありませんが、一部、舞台設定を書き忘れていました。第一章の設定の所をご覧になりながら読み進めて頂けるとありがたいです)



 わたし達の世界は、先時代の滅亡戦争によりほとんどの場所が草木も生えないような不毛地帯となってしまった。

 また、その戦争で巨大殺戮兵器が生み出されてしまったことによりちょっとした小競り合い程度でも数万の死者が出るようになった。


 人口が激減して、その生き残りが集まり村を作った。そうしてできたのがこれらの9都市だ。

 世界で合計しても人のいる都市は113あるのみらしい。


 先生が続ける。


「大戦での死者のうちの9割強を殺したのが巨大殺戮兵器、バーバリアン・アサだ。

 こいつは、とにかくめっぽう強い。一機あれば一つの市なんか半日で焼け野原に出来ちまう。

この情報は間違いじゃないが、間違っている。どう意味かって言うと、これらはその金属生命体に”真似”されたんだ。

大戦での死者のうち、実際に2割は人間のせいだが、残りの7割はこの金属生命体のせいなんだ。


 そんで怪物が生まれちまったのさ。


 あの金属生命体には、型番がつけてあって確認した順番で名称を付けている。

 差し当たりアサを真似ているのは4番目という事で⊿型、デタックスと我々は名づけることにした。


 こんだけ奴らは強いって話をしたが、あいつらはどこからでも攻めてこられるほど、万能ではない。世界で三か所しか攻めてこられるゲートが無いんだ。

 そのうちの一つ、西浦ゲートがこの山のてっぺんにはある。

 そこの防衛ラインとしてここに研究施設という名前の基地が出来たってわけ。


 でもどうやって立ち向かうのか、分かんないだろうから君たちに良いものを見せてやる。」


 そう言って会津先生はパイプ椅子をきしませ立ち上がり、また部屋を出た。わたし達もそれに続く(尤もわたしはベッドにいるままだが)。



 会津先生に連れられて案内されたのは、さっき廊下から見えた基地のようなところだった。


 こちらはさっきとはまるで違った厳重なロックシステムで、カードキーの他に静脈認証装置までついている。

 ピーッという認証音と共にロックが解除される音がして、その音が合図であったのかのように重厚なドアの開くモーターの唸り声が聞こえる。

 ドアが完全に開き切ったところでわたし達は中へと入った。


 そこの基地では、先ほどと変わらず轟音が鳴り響いている。また、ベッドからガラス窓を覗いて、見ることのできる角度は限りがあったのでさっきは分からなかったが、作業服姿の人たちが何人も走り回っている。


 踵を返し、振り向きざまにわたし達全員がちゃんとたどり着いたのを確認すると、彼女は口を開く。


「見ろ、あれこそが私たちのデタックスに対抗するための切り札、バーバリアン・バニルよ!」


 彼女のビシッと伸ばした指先のその向こうに目を見やると‥‥


 巨大ロボがいた。鉄らしき装甲で覆われている。大きさは20メートルぐらいだろうか。胸が大きく前に張り出している特徴的なボディで、なんか華奢だが流線型をしていてデタックス(やつら)とは違う。


 デタックス‥‥


 それ以上考えようとしていたら急に胸元がつっかえてきて、口の中が酸っぱくなってきた。そして体の欲するままに口元に戻ってきた生暖かいものを出す。


「なずな!?」

「なずなさん!」

「なっちゃん!」

 三人の声が遠くに聞こえる。


 あぁ、わたし、吐いちゃったんだな。


 駆け寄ってきた千夏、涼華、棗の三人が背中をさすってくれているが、まったくと言っていい程効果がないみたいだ。


 一分後わたしの吐くのが、ひと段落し

(たぶん胃の中の物が本当に全部なくなってしまったのだろう)

 息も絶え絶えにゼェゼェと呼吸したタイミングを見計らって、先生がベッドの上にいるわたしの隣に立ちはだかると‥‥


 結局、わたしは(この状況だから仕方ないとはいえやっぱり割り切れるものではない)みんなの前で服を取り払われ、体液でまみれた身体を先生に拭かれることとなってしまった。


 改めて考えると恥ずかしいが、その時のわたしはそんな事を考えることが出来ない程余裕がなかった。


 しかしながら傍目に、大変な状況という事は分かっていながらも3人ともわたしの裸に目は釘付けで、話題も自然そのようなものとなっていた。


「なんか叶の隣にいつもいることもあって、自然に比べちゃってたから小さく見えたんだろうと自分では思っていたけど、やっぱり本当に胸ちっさかったんだな」

「千夏。それあなたが言えることじゃないでしょ」

「うぐっ」


「でも、なっちゃんの肌、きれいだね」

「確かに。本当にアタシたちと同じように過ごしているのかな」

「千夏と違ってお風呂でよくスキンケアしているからじゃないの?」

「いや、アタシだってちゃんと毎日風呂場では3分かけて体洗ってるぞ!」

「ちなつ、それはほぼ洗ってないって言うんだよ」

「私はお風呂あがってからも色々肌のお手入れしています」

「お前ら、本当に人間か!?」


 こういった具合に3人がわちゃわちゃと話している間に、看護婦さんと先生がわたしの上半身をきれいなタオルで拭いていく。


 真っ白だったタオルが吐しゃ物を吸い込み、少し黄色く染まる。


 そうやって、やっとこさわたしを拭き切ると今度はアルコール除菌シートのようなものでわたしを隅から隅まで拭き始めた。


 それが終わってから、また新しい服を作業員の人のうちの一人に言いつけて持って来させると、わたしにそれを着せてきた。そして、申し訳なさそうな顔をして、会津先生が話す。


「ごめんな、藤宮ちゃん。トラウマになっている率も考慮はしていたつもりなんだが、先の話を聞いても大丈夫だったから、ここまでは良いかと思ってしまった。担任もしているのに教師失格だな」


 そう言って少し苦しそうに笑い、みんなの方を振り向くと


「みんなにも悪かった。あまりにも急すぎる話だったな。

 つい一週間前までは普通の生活をしていたんだからな。今日はここまでにすることにするよ。


 積もる話もあるだろうし、今日はその4人で相部屋にしてやるからゆっくり休め。

 あとは、何か分からないことがあったらそこの(かなめ)さんに聞いてくれ。

 彼女が分からないことはほとんどが私も分からない。」


 と、言いたい事だけを言って彼女はさっさとさっき入ってきたドアへ向かい、ロボットが整備されている基地から出て行ってしまう。


 ガシャン、と音を立ててドアが閉じるとわたしのベッドを押してきた和風美人看護婦さんAが口を開く。


「皆さん、よろしくお願いします。

 私がいま会津先生のおっしゃった桐山要と申します。私を呼びたかったら要さん、と気軽に呼んでください。」


 その言葉に、弾かれるようにして千夏、涼華、棗が挨拶を返す。


「「よろしくお願いします」」

「よ、よろしくお願いしまう」


 棗が噛んだ。


 そんな彼女にもニコリと微笑むと、


「フフ、それでは皆さんも相当疲れていると思うので、早速今日おやすみになる、部屋へこれから案内しますので、ついて来てください。」


 と言い、わたしのベッドをさっき通ったドアとはまた違った方向のドアに押してゆく。

 またもやカードキーのようなもので開けると、そちらへとわたし達を案内していった。


 通されたのはさっきまでの殺風景な基地の光景と違い、ビジネスホテル(今となっては存在しない過去の遺物だが)のような部屋。

 大きなベッドが3つ置いてある。



 その日の夜はみんなで沢山話した。



 ~~~

 その頃。

 彼女たちが再開を喜び、楽しく話をしているその地下30メートルほど下でひっそりと少女が目を覚ました。



 ウゥン‥‥


 少女は目を覚ます。


 ここは‥‥何処?

 ‥‥なっちゃんは?

 今の私のままでは何も分からない。


 少女は考える。


 よし、いつも通り状況をまとめてみよう。

 私は草薙(くさなぎ)叶、15歳。

 大好きな幼馴染、なっちゃんがよく分からないロボットに攻撃されているのを見て、居ても立ってもいられずに走っていっちゃったんだった。

 で、あえなく私も攻撃を受けて‥‥それからはよく覚えていない。


 ただ、なんか別のロボットが助けに来てくれて、それによって私となっちゃんは運び込まれたような気もするがもうそこの方の記憶は曖昧で今の私には参考にならない。


 少女は推理する。そして、新たな事に気が付く


 ‥‥ん?

 そこまで考えていて急に気が付いた。

 なんか私、今浮かんでない?いや正確に言うと水の中に、だ。

 口元にはマスクみたいなのがつけられていて、そこからホースが伸びているらしい。

 自分の置かれている立場を見たいが、メガネは無いし第一、真っ暗で何も分からないから手で触れてみて触覚で感じる。


 試験管の内側に入ったような滑らかなガラスっぽいものの中に自分はいることだけは、かろうじて分かった。


 そして頭脳明晰な彼女はその少しの情報と、持っている限りの記憶だけで悟ってしまった。


 どうやら私達は相当大きな事件に巻き込まれたらしい、と。


 そう悟ると、これ以上は何も分からないと潔く諦め体の欲するまま意識を闇深くに沈めゆくのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ