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【第2部 始動】蛮鬼―安寧ト絶望―  作者: 松浦 雀
第1部 新起動 ≪Generation≫
5/20

File.03 鬼事 <グロ描写 無しバージョン>

 

 ※※こちらはグロ描写、激減版です。怖くないので安心して読んでください。前の話を読んだ方は読まなくて良いです。



 はぁっ はぁはぁ‥‥


 わたしと叶、千夏は森の中を走っている。


 わたし達は左の山道を選んだ。その理由は単純明快。右のコースの方が走り易くて駄菓子屋までの距離も少し短いからだ。


 涼華、棗は二人とも長距離を走るのに向いていない。涼華は運動全般が苦手だし、棗も棗で短距離はうちのクラスでもトップレベルで速いが、長距離はめっきりダメ。こんな二人に木の根っこが飛び出しているような左の山道なんて走らせられない。決して右側が走りやすいとは思わないが、左よりは良いだろう。


 かと言って、わたし達三人も悠長に安心することは出来ない。確かに、わたし達は三人とも体力テストでぶっちぎりの評価だが(まぁそれぞれ苦手な分野はあるが)、なにせ本当に走りにくい。気を抜いたら転んでしまいそうだ。


 巨大ロボットはどうしたかというと、二手に分かれたのを見るや(どこで見ているのかは分からないが)少々悩んだように見え、そしてわたし達の方を追うことに決めたらしい。


 奴は一歩が10メートルちょいくらいだが、次の一歩を踏み出すまで2秒くらいかかる。そしてわたし達との距離は50メートルほど。


 これなら逃げ切れるっ!


 と思った瞬間、わたしの身体は自由を失った。すべての動きがスローモーションに見える。そして、一瞬ののちにその理由を知る。右足が木の根っこに躓いたのだった。


「なずなっ!?」

「なっちゃん!!」


 2人の悲痛な叫びが聞こえる。


 大丈夫、今起き上がるから、と言い起き上がろうとするも右足に力が入らない。それどころか全身に激痛が走る。


「っつ‥‥」


 苦痛に顔を歪めると、二人がやってきてわたしの両肩をそれぞれの首にかけて走ろうとする。


「あと500メーター位だからこれで我慢してくれ。ついたら手当てしてやっから」

「なっちゃん、大丈夫?あともう少しの辛抱だからね」


 そう言っている隙にもロボットは待ってくれない。距離を着実に詰めて来る。


 そしてもう残すところ25メートルとなってしまった。二人はわたしという荷物を抱えながらも全速力で走る。走る。走る。


 そして駄菓子屋が目視できるほど開けたところにたどり着いた。


「あともう駄菓子屋までちょっとだ!」


 千夏が叫ぶ。

 根拠は無いが、その時のわたし達は駄菓子屋までたどり着けばそのロボットはもう追ってこない気がしたのだ。


 ロボットが木で囲まれた山道を抜け、開けた場所にたどり着いた。そして今まで使ってこなかったのでわたし達も存在を忘れていた部位を動かし始めた。腕だ。その腕をこちら側に向けて‥‥


「「え?」」


 叶と千夏の声が重なる。


 あっ、と思ったその瞬間、わたしの身体は宙に浮いていた。いや、正確に言えばそのロボットの手に捕まえられていて、ビル2階ぐらいの高さで足をぶらつかせていた。


 わたしはこのまま地面にたたきつけられて死ぬのだろう。自分の生に諦めをしたわけでもないが、ただ冷静にわたしはそう悟り、精一杯叫ぶ。


「逃げろーーーーーーー!」


 そう言っているのに千夏も叶も恐怖と戦いながらもその場に立ち止まって見ている。

「わたしは大丈夫だから逃げてくれーー!頼む!千夏、かなちゃんを連れて逃げて!」


 わたしの言葉で正気に戻った千夏はぐずる叶を無理矢理に連れていく。


 これで良かったんだ‥‥


 そう、自分では思った。しかし、そう思えるとはわたしも自分の状況をしっかりと理解できていなかったのだろう。


 そうこうしているうちに、頭の中で小学校からの思い出が再生されていく。校長の頭の残りの髪の毛の本数を友達と当てっこしたこと、給食のおかわりをめぐり、みんなでじゃんけんしたこと。これが走馬灯か。なんて思ったりする。


 しかし、このロボットはあろうことかその回想さえも力ずくで打ち破ってきた。


 わたしの走馬灯は激痛によって遮られることとなった。


 ~~~


 どうしようどうしようどうしよう


 私のなっちゃんが死んじゃうよ

 大丈夫なんて言ってたけど大丈夫なわけない。

 あんな大きなロボット、絶対殺されちゃうよ


 しかもさっきから痛がる、なっちゃんの声が聞こえる。


 私、草薙(くさなぎ)叶は今、千夏に連れられて走っている。


「大丈夫って言ってただろ?なずなの奴がウソついたことが一回でもあったか?なかっただろ。あいつの言うことを信じるだけだ。だから振り向かないで走るんだ」


 千夏も私を元気づけようと空元気で励ましているのがありありと見える。千夏の目じりには涙が浮かび、声も震えているからだ。これ以上千夏まで失う訳にはいかない。


「うん。分かった。心配かけたね。速く逃げて、通報してからなっちゃんを助けに行っても遅くないよね。」


 そう言い、勢いよく駆け出す。そしてあと少しで駄菓子屋に着く、というその時。さっきまでとは根本が違う叫び声がしてきた。いや、これはもはや叫び声にもなれていない。喘ぎ声だ。


 耐えきれずに後ろを振り向いてしまう。すると、衝撃の光景が目に飛び込んできた。


「なっ‥‥ちゃん‥‥」


 そこには血にまみれた友人が力なくロボットのされるがまま手の中でぐったりしている姿があった。


 思わず、千夏の手を振りほどき走り出そうとするも千夏は手を放してくれない。


「お前まで殺されに行ってどうする!先に通報するんだろ!」

「千夏さん、ごめんなさい」


 その日、私は人生で初めて人の顔面を精一杯殴った。


 ゴッ


 という鈍い音と共に彼女は倒れる。その隙に私は駆け出し、大好きな友人の下へ駆け出した。

 あの子が生きていなかったら、私も死ぬつもりだった。

 ~~~


 わたし、藤宮薺は根性だけでまだ生きている。


 このまま意識を手放した方が簡単なのだろうが、それではこのロボットに負けた感じがして嫌だというものすごく幼稚な考えの下。


 今出ているアドレナリンの効果が尽きたらどんな激痛だろうと思うも、もう一生そんなことは無いから大丈夫だ、と思う。


 もし今の自分を天の神様なんてものがいて見てたとしたら、哀れみだけで天国に逝かせてくれるに違いない。なぜなら全身ボロボロという言葉でも言い表せないほどボロボロだからだ。


 もう生きているのが奇跡なぐらいだと思える。しかしそのような状況が長続きするはずは勿論ない。

 少しずつ意識が遠くなってゆく。


 あぁわたし、本当に死ぬんだな


 そう思っていると、霞んだ視界の中でわたしの一番の友人が向こうから駆けてくるのが見えた。


「大丈夫。私は大丈夫だから」


 そんな言葉が口をついて出てくる。

 よく、映画とかで死にそうなキャラが、俺は大丈夫だ、とか言うのを見かけるがあれは本当に大丈夫とかそうじゃないとか、相手を心配させないようにとか思っているんじゃなくて、極限状態になるともう自分のことを完全に忘れて人の事だけを思って言っているセリフだったんだなぁと思う。


 そんなわたしの言葉もむなしく、彼女はこちらに走って来る。


 ダメ‥‥と言おうとしたところで、本当にわたしの意識は完全にブラックアウトしてしまった。







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