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【第2部 始動】蛮鬼―安寧ト絶望―  作者: 松浦 雀
第2部 初陣 ≪The first attack≫
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File.07 会敵

 わたしの眼下にはただ、青いだけの空間があった。どこまでも続く青。そして地面と思われるところには鏡面の様にきれいな水が張っている。


 綺麗‥‥


 素直に思ってしまった。危ない危ない。今私は戦地に向かっているんだった。気を抜いてたら殺されちゃう。迎撃なんだから近くにデタックスもいるはずだ。


 そんなことを思いながら、わたしは足に付けられたジェットパックでその鏡面のように水が張っているところにふわりと降り立った。まだデタックスの姿は見えない。いざという時に何もできないから基地から遠く離れて出撃することは固く禁止されているので、わたしは涼華(すずか)たちがやって来るまでは何もすることが出来ない。


 わたしが今いるところは、鏡界。境界と鏡を掛けて言っているらしい。

 (かなめ)さんの説明によるとここは金属生命体、デタックスの出現元である<あちら側>と、わたし達が生きている<こちら側>とをつなぐものだ。

 因みに<こちら側>から鏡界を繋ぐ出入口は、あの基地でうまく塞がれている。


 この間わたしが襲われたのはその基地を通ってアサが出てきてしまったかららしい。


 耳元の通信機によると、涼華たちの出撃準備もほぼ終わったらしい。


「‥‥‥‥ぉ装置解除」

「脚部ジェットパック、正常に動作しているのを確認!」

「MK.8、神経伝達装置、せいj‥‥異常値!至急整備士を向かわせます!」


 ‥‥‥‥‥‥‥‥うん?



 うそ。血が通った肉体があればサァーっと音を立てて血の気が無くなっていただろう。

 つまり今、デタックスが来たら一人で立ち向かわなくてはいけないという事だ。


 しかもタイミングが実に悪いことに、デタックスの接近を知らせる表示がわたしの視界の中に出てきた。見える景色の、ど真ん中にでっかくEMERGENCYと赤く太い文字で出てくるのだ。耳元でもビーッビーッという警告音がうるさい程に流れてくる。


 足ががくがくに震えている。いくらロボット(要さんなら生体兵器です!と言い直しそうだなぁ)と言っても、わたしの身体となっているのだ。わたしの気持ちがそのまま体に現れるのも全然不思議ではない。


 そして、遠くに小さな点が目視できるようになった。視界に、追尾式の距離センサーによる1メートル刻みの距離が書かれる。

 覚悟を決めなくてはいけない。


 デタックスは動きの遅い機械だから、その距離の減り具合は死へのカウントダウンの様にも思えた。あと1220メートル。秒速約5メートルぐらいのはずなので(後で聞いたところによると移動速度は秒速6メートルだったらしい)つまりあと244秒で会敵というわけらしい。


 6分間。その時間が永遠のようにも思える。

 ずっと来てほしくないが、こんな風になぶり殺しの様にされるぐらいなら、もういっそすぐに来てもらいたい。


 耳元では、涼華の機体の準備を急ピッチで行っている様子がうかがえる。

(シナプスケーブル、交換終了しました!確認してみてください!)


 残り1000メートルを切った。

 センサーも1メートル刻みの表示になった。一歩ずつ、それでいながら着実に死は近づいてくる。


 残り300メートル。

 ずいぶんと最初の頃より大きく見えるようになってきた。鏡のような水面のせいで、奴らの体が余計に大きく見える。わたしたちを襲った奴の仲間であるのは一目瞭然だった。一瞬のうちに要さんから教わったポイントが頭の中に蘇る。


 要さんから教わった注意点はこのようなものだった。

 1. デタックスは体長23メートル。それに対してわたし達は16メートル。体格差が出てしまうから初めて戦う場合は特に、一撃離脱方式で戦うのが好ましい。

 2. デタックスの攻撃方法は、バーバリアン・アサと同じだと考えるのならば、お腹の所にある全方向射撃機銃と、胸部の穴から突き出される巨大針。また、武器ではないが握力が強いので掴まれたら逃げ出すことはほぼ不可能。

 3. 腕は一直線で曲がらない。肩との接合部がカーテンレールのようになっていて、捕まえられたら瞬時に引き寄せられる。また正面に両方の腕で捕まえられた場合、引き寄せる勢いと胸部の穴から生える針の伸びる勢いでコクピットを串刺しにされる(つまり確定で即死)。

 4. 硬い装甲の中には、コアが入っていて、それにかすり傷さえつければそいつは活動を停止させる。


 要するに捕まえられたら怖いから、ずっと逃げ回ってちょこちょこ攻撃しろって事らしい。そんなことを思い出していると、耳元の通信機が情報を運んでくる。


(シンクロ、最終確認終了!全拘束具、解除!後部ゲート、開門!)

 やっと発射準備が終わったらしい。駆け足で準備が進む。あと3分ぐらいで来るだろう。


 そして100メートルを切り、奴の歩く音まで聴こえるようになった。あと20秒か。それだったらもうじっくり待つも自分から突撃するもあんまり変わらないだろう。そう思い、わたしはバニルと成って初めてその足で、一歩踏み出すのであった。


 もっと早く動いても良かったのだが、もし一人で倒れてしまったとしたら誰も起こしてくれる人がいないので出来る限り一人ではやりたくなかったが、もう今となっては遅い。


 大きな、力強い足が持ち上がるのを感じる。見た目に似合わず、先生たちが言ったように確かに体はいつもよりも軽かった。これならバニルの巨体にも立ち向かえるだけの機動力を得ることが出来るだろう。


 そしてそのがっしりとした足が足元の水面に向かって一直線に降りてゆく。ドンッという音を立て足が地面についた感触がある。水面に同心円状の波紋が広がり、遠くに行くにつれさざ波となっていき、それにぶつかって消える。


 デタックスだ。見間違えようもない。気がついたらもうあと46メートルしかなかった。


 意を決して次の足を迷うことなく踏み出し、走り出す。人間の感覚器官はその身に降りかかる危険を避けるために存在するらしい。バニルはダメージも肉体に反映されてしまうので、痛みや熱さなども感じることが出来ると要さんが言っていた。その機関のおかげでわたしの身体が風を切って走る実感がある。


 そして会敵。

 先制攻撃はわたしのバニルが放った銃声から始まった。


 わたし達の長い、短い戦いが幕を上げる。


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